ルール・ザ・ワールド #3
難読漢字等でルビを多用しています。
その為、読み辛いと思われる向きもあるかも知れませんが、ご容赦下さい。
「ホントに、私が悪いんです! 全面的に! 間違いなく! だからあのお兄さんを」
「寶生さん、ね」
「そ、そうです! ミバイさんを無罪にして下さい!!」
「無罪ってねぇ……。それは僕らが決める事じゃないから……。まぁ、そういう風に伝えときますけどね」
そうオジサン警官は言った。若干ウザったそうに。
「お願いします! ミバイさんに迷惑かけたくないんです!」
「迷惑、ねぇ……。まぁ、そこまで言うなら、ちゃんとその通り、伝えますから」
そして警官は書類を自分の黒いカバンにしまい、退室していった。
入れかわりに入室してきたのは、お母さんと、男の人……。
「……あ!」
あのお兄さんだ! ミバイさんっていう……。
「どうしても本人に会って謝りたいって言うから」
お母さんはそう言った。隠しきれない嫌悪感をともなって。
いや、違うの! この事故は私が全面的に悪くて、ミバイさんは1mmも悪くないの!!
私はそう言いたかった。でも、何故か言うのがためらわれて、ほんの少し身体を前傾させるにとどまった。
「あの……凛乎さん、この度は僕の不注意で、本当に、すみませんでした」
この世の終わりかのごとき表情をしたミバイさんは、そう言って深々と頭を下げた。
「あ……! いやっ、やめて下さい! 今回の事故は私の不注意が原因なんで! 謝らなくちゃいけないのは私の方です。飛び出してしまって、迷惑かけて、本当にすみません」
私は必死に謝った。けど、ミバイさんが私の名前を憶えていてくれた事がうれしかった。
「でも、事故を起こしてしまったからにはこちらに責任があるんで。申し訳ありません」
ミバイさんは身体を直角近くまで折り曲げ、一向にお辞儀をやめようとしない。私はもう、言いようの無い悲しみがこみ上げてきて、思わず泣きそうになった。それは、分かりやすく言えば後悔、もっと言うと懺悔、悔恨によく似たものだった。
何で私はあんな不注意な事をしたんだろう? あそこでカーブミラーを見て、停まってさえいれば、ミバイさんがこんなに謝る事もなかったのに。世界の終わりのような顔で病院に来る事もなかったのに。私もこんなケガをする事もなかったのに。入院費、治療費を両親に支払わせる事もなかったのに。
私のせいで、みんなに迷惑をかけている。そう実感できて、もう溢れてくる涙が止まらなかった。
急に泣き出した私に、お母さんもミバイさんも困ったらしく、お母さんが
「やっぱり、まだ早かったんですよ。すいませんけど、お帰りねがえますか?」
とななめ下を見つめながら強めの口調で言うと、ミバイさんも申し訳なさそうに
「あ、はい……。あの……すみませんでした。コレ、よかったらお納めください」
と言って、ロゴマークが印刷されたクリーム色のビニール袋をサイドテーブルに置いた。お母さんはぞんざいにミバイさんを部屋から送り出して、私のもとに来ると、
「いい? 凛乎。事故は、凛乎は悪くないの。全部、ミバイさんが悪いのよ。そういう風にすればいいのよ」
と、私の手をにぎり、顔と顔を近づけ、眼と眼を合わせて言い聞かせるようにささやいた。正直、私はお母さんの、ときどき感じるこんな強い「圧」が嫌いだ。「押し出し感」とでも言うんだろうか? こうなった時のお母さんには、何を言っても無駄だ。聞く耳を持ってくれない。
私はお母さんの眼から視線をそらし、「うん」と小さく答えておいた。
もちろん、それに従う気は最初から無かった。
本作は架空の創作物です。
文中に登場する人物名、団体名等は、現実のものとは関係ありません。
また、文中に実在する著名人名、企業名、商品名等が描写された場合も、其れ等を批評・誹謗する意図は一切ありません。
書き置きのストック分が尽きてしまったので、此れ以降は逐次書き上がり次第、更新していきます。
もし此の欄をご覧になって下さっている方が居られましたら、忘れた頃に投稿されていると思われますので、其の際には何卒宜しくお願い致します。