ルール・ザ・ワールド #2
難読漢字等でルビを多用しています。
その為、読み辛いと思われる向きもあるかも知れませんが、ご容赦下さい。
眼が覚めたら、そこは病院だった。
もとい。正確には、病室だった、か。私は右足をつられて、頭は包帯でグルグル巻き、首にはギプスみたいなやつが付けられ、ほっぺや身体のいたる所にガーゼがあてがわれた、ザ・ケガ人って感じの見た目でベッドに横たわっていた。
「凛乎……? 凜乎っ!!」
声を上げたのは、李緒だった。
「んぅ……あ、あれ……? 李緒、何で?」
「お母さんから連絡もらったの! 凜乎の! 『凜乎が車にはねられたみたいだから病院に行ってくれないか?』って!!」
李緒は、泣き顔だった。泣き顔で、混乱していた。
「えっと、お母さんに連絡して……、あっ、医師も呼ばなきゃ? んーと……ナースコール使っていいのかな?」
「ねぇ李緒、何で泣きそうなの?」
李緒は、ほんの一瞬だけ全ての動作を停めた後、まくし立てるように言った。
「そりゃ、凜乎が眼ぇ覚ましたからに決まってるでしょ?! 親友が事故にあって、意識取り戻して、嬉しくないワケ無いじゃんか! ホッとしたし……。あたし、病室来た時、凜乎見て『死んじゃったのかな』って、思ったんだよ?! 手術室から出て来たばっかりだったし! もうこのまま起きないんじゃないか、って本気で思ったんだから!! だから、泣きそうなの……。てか、泣いてるんじゃんか……」
李緒は号泣していた。他人を泣かせたのなんて、何年ぶりだろう。と思いながら、私もつられて、いつの間にか、泣いていた。
「何か、心配かけちゃって、ゴメン……。そんなに私の事、思ってくれてたんだね……。ゴメンね……」
私も最後の方は、かすれて声がちゃんと出なかった。李緒は、ただうつむいて、私の手をにぎりしめて泣き続けていた。
何やら騒々しい、と思ったのだろうか、看護婦さんが部屋に入ってきて、
「あ、眼を覚まされたんですね? 先生呼んできますんで、ちょっと待っててもらえますか?」
とあわててまた部屋を出ていった。ボーイッシュで、可愛らしい人だった。
「あたし、凜乎のお母さんに電話してくるね」
李緒が、なごり惜しそうに私の手を離し、病室から出て行った。おそらく、病室内で携帯を使う事をためらったのだろう。李緒のそんな常識的な所、というか、配慮を忘れない所が、私は好きだ。と同時に個室を使ってしまっている事に今さら気づき、入院費がかさみそうだな、と両親に申し訳ない気持ちになった。
そして何よりも。私は思い出した。一番謝らなくてはならないのは、車を運転していた、あのお兄さんだ。私の不注意のせいで彼の車は前の所が変形してしまっていたし、多分彼は警察につかまってしまうのだろう。そう思うと今すぐ謝りたい、と思った。出来れば、彼を無罪放免して欲しい。悪いのは私なんだから。そう云う事はよく分からないけど、もし警察の人が来たら、なるべく減刑して下さい、出来れば無罪にして下さい、ってお願いしてみよう、と決めた。彼は、良い人なのだ。私がしたドジの後始末を、嫌な顔一つせずに手伝ってくれた。しかも、二度も。あのお兄さんが悪人なワケがない。優しそうで、ちょっとカッコ良かったし……。
少しだけ、ほおが熱を帯びるのを自覚して、私は何やら、自分がよこしまな考えに至っているのではないか、と、顔を強く左右にふって、頭からその考えを追いやった。
……結果、ちょっと、気持ち悪くなったけど。
本作は架空の創作物です。
文中に登場する人物名、団体名等は、現実のものとは関係ありません。
また、文中に実在する著名人名、企業名、商品名等が描写された場合も、其れ等を批評・誹謗する意図は一切ありません。
今後の描写に関わりますが、幸か不幸か自分自身は何らかで入院した経験がありません。また、医療従事者でもないので、心苦しくはありますが、病院内の描写は正確ではない事も多々有り得ると思われます。予めご容赦下さい……。