アイ・ビリーヴ #1
難読漢字等でルビを多用しています。
その為、読み辛いと思われる向きもあるかも知れませんが、ご容赦下さい。
♯(旗指凛乎の独白) 1
その時、風邪気味だったせいだ。きっと、そうに違いない。
あの日、私は、少し調子が悪かった。どこか熱っぽく、頭がボンヤリして、身体はダルく、重い。
だから、学校帰り、たまに友達とPETボトル飲料を買うために立ち寄るスーパーマーケットで、山のようにカップラーメンが積み重なっていた陳列台の前で体勢を崩し、商品である特売品一個82円のしょう油ラーメンを床面にぶちまけてしまったのだ。居合わせた唯一無二の親友、梓川李緒には、友人が失敗をし、その後処理を手伝う、という二重の恥とものすごい手間を掛けてしまい、今でも本当に、心の底から、申し訳なく思っている。他のお客さんが見て見ぬフリをしている中手伝ってくれた、名前も知らない若そうなお兄さんにも、私は生涯頭が上がらないだろう。そのお兄さんにも、めちゃくちゃ感謝している。
だから、そのあと赤面したまま、会計でほんのり甘いストレートの紅茶飲料が充填された500mlのPETボトル一本88円の支払いをしようとして手を滑らせ、二つ折りの財布を床に落とし、運悪くその時チャックを開けて小銭を漁っていたから、落下した拍子に全ての手持ちの小銭をばらまいてしまったのだ。あいにくその時、李緒は他の会計列に並んでいたため、再び手を借りる事は叶わなかった。唯一救いだったのは、私の後ろに並んでいたのがさっき、カップ麺事件の際に手伝ってくれたあのお兄さんで、呆れるような笑いを浮かべつつも再び小銭を拾い集める作業を手伝ってくれた事だ。このお兄さんは、どれだけ偉いんだろう、と私は尊敬の念すら抱いた。
だから、スーパーを逃げるように出て、いつもの交差点で李緒と別れた後、そんなに道幅の広くない道路の向こう側から此方に遣って来る自転車の中年小母さんとフェイントの掛け合いになってしまったのだ。けたたましい制動音を立てて停止した小母さんは、釣られて停まってしまった私に、「もっと端っこ走りなさいよ!」と吐き捨てて私の視界の後方へ去っていった。私はもう、恥ずかしくて恥ずかしくて、生きていてすみません、っていう気持ちになった。本気で。
だから、その次の交差点、私の方が一時停止になっているその角に、そのまま突っ込んでしまったのだ。いつもなら必ず見る鏡も確認せずに。
だから、轢かれてしまうのだ。自転車に乗ったまま、偶然走って来た乗用車に。
その時、風邪気味だったから、私はさっきのお兄さんが運転する車に、撥ねられてしまったのだ。ボンネットの上で、運転席の彼と眼が合ったから、間違いない。
彼はものすごく驚いた顔をしていた。そりゃそうだろう。まさか自転車に乗った女子高生が飛び出してくるとは思いもしなかっただろうから。
私はぶざまにも、ボンネットの上で放心して転がっていた。ああ、やってしまった。どうしよう。本当、生きててすいません。そんな事を考えながら。
けど、それも一瞬だった。次の瞬間、彼は全力でブレーキを踏み、私は運転席でハンドルを握る彼と眼を合わせながら、ボンネットの上で急激な減速を体感していた。そして4つのタイヤは止まり、私は反動で一緒に弾き飛ばされていた自転車の上に転げ落ちた。
ぶつかった瞬間に、車のバンパーと自転車の車体に挟まれて右足の骨が折れたのも、舗装路に転落した拍子に頭を庇えなくて左の側頭部から流血したのも、その時頸部に過伸展損傷を起こしたのも、後は身体の彼方此方にある擦過傷も青痣も、全部全部、私が風邪気味だったせいだ。
うん、きっとそうに違いない。
……そうに違いない、と思いたい。
本作は架空の創作物です。
文中に登場する人物名、団体名等は、現実のものとは関係ありません。
また、文中に実在する著名人名、企業名、商品名等が描写された場合も、其れ等を批評・誹謗する意図は一切ありません。
今後、自分の後書きには上記の文面を入れていきたいと思います。
本作は、章分けを細かくして、なるべくコンパクトにしていくつもりです。
書き上げてあるストックが多少有るので、順次追加していきます。