鉢を持った女王
《はじまり》
私はホワイト、みんなからは冬の女王と呼ばれています。
みんなは、私をのけ者にします。
何故なら私はみんなに、めいわくをかけるから。
春の女王、ブルーは澄み渡る青い空と、暖かい空気をみんなに与えて、みんなが笑顔になる。
夏の女王、レッドは熱意を与えて、みんなに情熱的になる。
秋の女王、ブラウンは実りと落ち着きを与え、みんなが豊かになる。
では、私は?
「冬の女王は、寒いだけ」
「食べ物を与えてくれない」
「外に出て歩けない」
そんな声をよく聞くの。
ブルーもレッドもブラウンも、みんなを笑顔にする。
私に笑顔を与えることは、できない。
私は、出来損ない……
一通の手紙が、今年も来た。
塔へのお務めが来た。
また来た。
……行かないと
そう行かないと。
塔に入る時、他の女王達にあった。
塔に入る見送りは、女王達みんなの決まりごと。
だけど、私はこれが嫌いなの。
「あら、ホワイト、今年もみんなに苦しみをプレゼントするのかい?」
レッドが言った。
レッドは燃え盛る情熱を持っている、魅力的な方で少しおっかない女王様、ちょっと苦手だ。
「何湿気てんだ! せっかく来てやったのにさ……まあ、ブラウンのお迎えをしなくていいなら、お前なんかの見送りには来なかったのに」
レッドが大きな声を上げる。
「やめましょう、レッド、ホワイトだって一生懸命なのよ」
私を慰めてくれるのは、ブルーだ。
ブルーの明るく、幸せを与える笑顔は彼女しか出来ない。
その笑顔にレッドは、怒るのをやめたわ。
私は彼女を見た。
優しい笑顔……だけど、瞳に映る私にどこか冷たい感じを受けてしまう
みんなに振りまく笑顔とは、どこかが可笑しい。
どうして?
「皆様、ありがとうございます」
塔の中から、ブラウンが姿を見せた。
落ち着いた雰囲気に、知的な容姿に私は少し堅苦しくなった。
「さあ、ホワイト、塔に入っていいわよ。あなたの時間の始まりよ」
ブラウンが私を、塔に入ることを進める。
顔に笑顔はなく、どこか冷めた視線が私の心に響く。
私は小さく頷くと、塔に入っていく。
後ろは振り向かない、なぜなら、怖いから。
みんなに冷たくされたくないの。
そう冷たいの……
《出合い》
今年もお務めを終えると、私はいつものようにお城に帰っている。
疲れました。
私は頑張っているの。
頑張っているのに……
認めてくれないの。
「ホワイトはみんなをイジメるだけで、笑顔を与えることが出来ない……」
これはレッドに言われました。
違う!
言いたいよ。
違うと、大きな声で言いたいよ。
私だって、頑張っているって!
馬車は草原にある道を横切っています。
お城の帰り道、私は草原を眺めています。
雪が、たくさん積もっていました。
私が降らせた雪でしょう。
白い草原は、どこか物悲しい。
そんな哀愁に浸ってしまいます。
私は正しいの?
この想いに、涙がながれそう……
おや?
一羽の白い鳥が、空を一点に舞っています。
白い鳥……その名の通り白鳥です
群れでいる白鳥が何故、一羽だけこんな馬車に?
私は白鳥の舞う辺りを見渡しました。
……あれ?
雪の草原に誰かがいます。
白鳥はその誰かの上を舞っています。
誰?
私は誰を、見ています。
雪の草原はおそらく寒いはず。
雪は冷たく、草は枯れて土は湿り、空気は切ないくらい悲しい。
そんな場所に誰が?
よく目を凝らして見ます。
……子供?
よくわからない。
よし!
馬車を止めよう。
そして私は馬車を降りました。
そこに行ってみようと、思ったからです。
馬車から降りると、皮のブーツで雪を踏みしめます。
雪は、冷たかった。
冬の女王だからと言っても、私だって冷たい寒いのは感じるのです。
私は、特別ではない。
それがどこか嬉しい。
さて、確かめに行きましょう。
雪の草原にいたのは、少年でした。
私が塔から出ても、季節はまだ冬の終わり頃です。
寒いに決まっています。
そんな寒い場所に、少年は俯いていました。
着ている服は薄く、冬を越せる姿ではない。
不思議な少年……
「いつから居たの?」
私は少年に聞いた。
少年は私に顔を向けた。
利発な顔だった。
すごく綺麗な瞳をしていた。
なんの曇りのない、少年の瞳はどんな宝石にもかなわない。
澄んている。
輝いている。
そして……どこか、悲しそうだ。
「あなたは?」
少年がしっかりした口調で、言った。
少年の声が、冷たくなった耳に温かさを与えてくれる。
「私は冬の女王」
自己紹介をした。
少年の瞳に、私は勝手に口走っていた。
「あなたが! ありがとう」
少年が笑った。
素晴らしい笑顔だ。
ぬくもりを与えてくれる。
そして何より、驚いた。
少年から、ありがとう と、言われたからだ。
「冬の冷えた空気は、景色を澄んだ姿にしてくれる。僕は体が弱いから、埃っぽい他の季節が好きではないんだ」
少年が言った。
不思議な少年だった。
私に感謝をしてくれた。
嫌みを言われることは、多々あった。
けれども少年の言葉には、嫌みを感じない。
そして……体が弱い?
先程も述べたが、少年の着ている服は冬の服ではない。
体が弱いなら、何故薄い服を着ているの?
「君のお母さんと、お父さんは?」
少年に聞いた。
少年から笑顔が消えた。
上を向いた視線が、再び下になる。
聞いては行けないことを、私は聞いたようだ。
「ごめんなさい……どう、私のお城に来ない?」
私は、口が動いていた。
考えるよりも、本能的に言葉が出ていた。
私は恥ずかしい。
顔が真っ赤になり、訳のわからないことを口走っていた。
「いいんですか?」
少年が驚いている。
私はそれ以上に、驚いている。
いきなり……そんな魔法が、私と少年に同時に降りかかった
おや?
白鳥がいない。
いつしか白鳥が居くなってしまいました。
「女王様、彼はお務めを終えました。帰ったんですよ」
少年が言った。
お務め?
そうなの?
まあ、いいわ。
私は少年を馬車に案内すると、お城に帰りました。
《私と少年》
お城に私と少年は住み始めた。
いきなりの魔法は、解けていない。
私は祈る。
解けないで……
「少年、名前は」
私は聞いた。
少年は頭を捻った。
「女王様、僕の名前がわかりません。ない訳ではないんですが、思い出せないんです」
少年が唇を噛んでいる。
「いいわ少年、名前はいいから、ずっとお城に住んでくれないかしら?」
私は言った。
少年が顔を上げた。
驚いている。
驚いているけど、嬉しそうだ。
「いいの!」
少年の瞳が、再び輝く。
この輝きを、私は見たかった。
だから少年を、お城に住まわせた。
私の願いだ
どこの誰とも知らない少年に、私は魅了されていた。
少し華奢な少年は、少年も言っていたが、体が少し弱いみたい。
それにしては、薄着を好み良い服を好まない。
不思議な少年……
それも魅力なんだけど。
《二人の生活》
私と少年の生活は、毎日が楽しい日々だった。
彼は利発で利口だった。
少年は私の自慢であり、よき理解者でもあった。
瞳の輝きは益々磨きがかかった。
少年のために私は生きていると思ってしまう。
少年がお城に来てから、私は変わった。
嫌なことがあっても、彼が近くで微笑んでくれると、何もかもどうでもよくなった。
私は少年が好きだと気づくのに、時間がかからなかった。
私は少年に、恋をしたのだ。
宝石のような瞳、暖かい笑顔、少年が醸し出す温もり、全てが愛おしいのだ。
そして少年が、謎めいていることだ。
謎とは……記憶がないのだ
私と会う以前の記憶が、ないのだ。
それも全く、ないようなのだ。
一つわかっているのは、お母さんとお父さんは居ないことだった。
そんな謎も、少年の魅力だと感じてしまう。
「両親は、死んだのね」
私が尋ねたことがある。
少し悪い気がした。
本来は聞いてはいけないのだから。
しかし、少年は……
「死って何ですか?」
真顔で聞いてきた。
私もこれには、驚いた。
驚いたけど……
まあ、どうでもいい。
これが私の導いた答えだった。
正しいかはわからない。
だけど、わかる必要もない。
「女王様、今日はどんなお話をしてくれるの?」
あどけない少年の言葉……
私は失いたくない。
ここにさえ居てくれれば、私は満足なのだ。
「今日は何の話が聞きたい?」
私は微笑みながら、少年を待つ。
またいつもの、二人の時間が始まった。
《冬の訪れ 塔へのお務め》
私のお務めが始まった。
いつもの、手紙が来た。
塔に出向き、仕事をしないといけない。
嫌な時間の始まりである。
「どうしたの」
少年が聞いた。
「君とはしばらく会えないの。お仕事だから」
ため息をつきながら、私は言った。
行きたくない。
あんな塔に、行ってどうする?
他の女王に、蔑まされる。
嫌だった。
彼女らの冷たい感情が、私の心に刺さる。
切り刻まれる。
「女王様、頑張っているのですね」
少年が誇らしげに、私を見た。
確かに頑張っている。
私は頑張っている。
だけど……
みんなを苦しめてしまう。
「私はね、頑張っているわ……でも」
「でも?」
「……いいえ、何でもありません」
さて、塔に行かないと。
少年を置いて行くのは、つらいけど仕方ないです。
お仕事はお仕事、気持ちを切り替えないと。
《塔の前 他の女王と》
馬車が塔の前に止まると、私はため息を隠し降りていく。
ブルー、レッド、ブラウンが私を迎えていた。
「来たわね」
レッドがキツい目をしている。
なれてはいる。
気にしない。
「さあ、塔に入りなさいよ」
ブラウンが言った。
言われるまでもない。
それが仕事なんだか……
「ねえ、ホワイト、アナタは塔には短くいたら?」
ブルーが言った。
私はブルーを見る。
「だってホワイトは、みんなを苦しませるだけ。レッドみたいに陽気にそして情熱的にさせられないし、ブラウンみたいに落ち着きと収穫の恵みで幸せに出来ない」
「なるほどな、ブルーは暖かさと喜びを与えることが出来るしね」
「ホワイト、私達三人はみんなに、豊さ、喜び、幸せを与えてられるんだ。お前は、与えられるのか? お前が与えるものは、寒さ、苦しみ、悲しみ……なんのために、存在しているんだ?」
ブルー、ブラウン、レッドが私を、からかう。
悔しくはない。
でも、視野がぼやけていた。
理由は涙が落ちそうだったからだ。
私は俯いて、みんなに背中を見せると、そそくさと塔の中に入って行った。
塔に入り扉が閉まると、声を出して泣いた。
泣き声が、外に漏れる心配はない。
だから思い切り泣いた。
そして悔やんだ。
みんなを苦しめるだけの、冬の女王である私を……
何故私は、存在しているの?
幸せを運べない私が、何故存在しないといけないの?
……わからない
今回のお務めは、手短にそして早く切り上げよう。
そうすれば、みんなが苦しまないから。
お務めを怠けていよう。
それが私の答えだった。
……うん、そうしよう
早く終わらせて、少年とお話しよう。
少年……会いたい
そしてお話したい。
少年……
早く終わらせよう
《塔でのお務め》
塔でのお務めは、つまらない。
私の何故?
少年がいないから?
……違う
これは違う。
言い切れる。
では何故?
……報われない
そう何のためにお務めしているのか、わからない。
だからつまらない。
塔にある窓を見る。
塔は高く、街、森、海が見えます。
街と森は雪が降り、海は荒れています。
苦しめている。
……止めよう
私は塔でのお務めを、しないことにしました。
みんなが苦しくなるなら、意味がない。
私が窓から離れようとすると……
おや?
何かが向かってくる。
鳥のようだ。
白い鳥……白鳥!
まさか!
私は窓を開けると、白鳥を待ちます。
白鳥が窓から塔の中に入ります。
私は白鳥を見ます。
あら?
白鳥が何かを、くわえていました。
私はよく見ます。
それは、手紙のようです。
白鳥は手紙を私に渡すと、窓から外に出て行きました。
私は手紙を見ます。
宛名は私です。
送った方は……少年です
……少年から
私は手紙を早速開き、中を見ます。
『女王様、お務め頑張ってますか?
僕は女王様が、一生懸命に頑張って
いる姿が目に浮かびます。
女王様、あなたのお務めは、あなた
しか出来ない大切なお仕事なんです。
だから心を折らないで、お務めを頑
張って下さい。
僕はお城で、女王様を待ってます。
それでは 』
簡単な手紙でした。
私の励ましでした。
……正直、つらかった
つらいから、今回は良いわよね。
私はお務めに戻る。
手を抜いたお務めに。
《お務め終了 春の女王の見送り》
お務めを終えた私は、ブルーを待っています。
レッドとブラウンもいます。
早く終わらないかな。
嫌な時間です。
ブルーが来て、いつものお見送りが始まります。
するとブルーが言いました。
「ありがとう、ホワイト」
え?
私は、びっくりしました。
するとブラウンが言います。
「ホワイトが雪を降らさず、暖かい冬にしてくれたから、助かったって言ってたわ」
助かった……
それは……
「ホワイト、お前はそれでいいんだ」
レッドも満足そうだ。
私はお務めを怠けたら、みんなが喜ぶんだ!
そうだったのか。
みんなを喜ばせるやり方は、お務めを頑張らないこと。
でも、何故なの。
……まあいっか、ようやく私の喜んでもらうやり方が、わかったから
見送りが終わると、私は馬車に乗り塔を後にします。
お城に帰ろう。
《お城の中》
私がお城に帰ると、少年に会いに行きます。
少年、はやく会いたい。
少年はいつものように、利発な姿です。
本当に可愛い少年です。
けれどどこか瞳の輝きがありません。
「ただいま」
私は気にせず挨拶します。
「……女王様、しっかりお務めしましたか?」
少年は言いました。
瞳が悲しそうでした。
そうすごく悲しそう。
私は自分の思いを、少年に話しました。
今までたくさんお話しました。
お城のお話、みんなの話、お空の話……
だけど話してないことも多かった。
お務めが頑張っても認められない。
他の女王にバカにされること。
それをされないために出した私の答……それは
お務めを頑張らないこと
だった。
それを少年に言った。
私の話を聞いた少年は、俯いた。
肩が小刻みに震えている。
どうして?
「女王様、あなたはわかってない……僕、僕……」
少年が顔を上げた。
悲しい顔をしている。
瞳を涙で潤ませていた。
しばらく少年は、それに堪えていた。
しかし……涙が、落ちた
「女王様、さようなら」
少年が涙ながらに、言った。
どういうこと?
どういう……
!!!
私に考える時間はなかった。
少年から光が溢れ、それがどんどん強くなっていく。
私は眩い輝きに、目を背いた。
輝きは痛く悲しく、どこか切ない。
光が治まり、少年を…!
いない!
少年がいない。
私は少年を捜した。
目の前から消えた少年を探した。
だけど、いない。
少年が私から消えたのだ。
私は動揺した。
少年が一瞬に、私から消えた。
少年が、さようならを言ったからだ。
私は涙が溢れて溢れて、彼を捜しました。
しかし……少年は、いませんでした
悲しさのあまり、私は俯き床をみます。
床には私が零した涙だけが……ん?
少年がいた場所に、何かが落ちています。
それは黒く小さな粒だった。
私は粒を拾い上げた。
涙目をこすりよく見ます。
それは花の種でした。
花の種?
まさか!
私は驚きました。
花の種……これが、少年の本当の姿なの?
私が考えていると、いきなり種が輝き出しました。
そして聞き覚えのある声がしてきました。
「女王様、僕の本当の姿は、これです。僕は花の種です。なんの花かは僕もしりません。僕は女王様に一つ嘘をついていました。僕は悲しくなり涙を零したら、花の種に戻ってしまいます。これは悲しいことでした。だから悲しいことに、背を向けることにしました。
僕にも、お母さんとお父さんはいました。
そしてお別れしました。
死んではいません。だけど、会えません。二度と会えないんです。悲しい、涙目が零れそうでした。だから知らないと、嘘をついたんです。ごめんなさい、真実を言えなくて。
女王様、あなたの苦しみはつらいくらいにわかりました。
わかってました。
だけどあなたは、逃げなかった。
逃げなかったのに……
女王様、僕の最後の言葉です。
よく聞いて下さい。
喜び、情熱、豊かをあたえることが、幸せではありません。
みんなは幸せの意味を間違っています。
一つお願いがあります。
今度、お務めする時は、今回以上に怠けて下さい。
そしてその次のお務めの時は、これまで頑張らなかったお務めを取り戻すように、たくさん頑張ってください。
それが例え冬の時間が終わっても、かまいません。
そうすることで、女王様のお務めの意味を教えることができるからです。
女王様、あなたを救いたいんです。
お願いします。
僕の最後のわがままをお聞き下さい。
女王様との時間は、楽しかった。
ありがとう
希望の花」
希望の……花?
「花の名前だよ」
え?
私は窓を見ます。
そこには、一羽の白鳥が飛んでいます。
私が窓を開けると、白鳥は中に入り羽を休める場所に、降り立ちました。
「やれやれ、さてと、褒美をくれないか? 本来ならそいつから貰うんだけど、種になったから貰えないから」
白鳥はそう言うと食べ物を要求しました。
私は白鳥に、食べ物を渡すと少し話をききました。
花の種は、居場所を探す時に鳥を使う。
居場所をみつけると、そこに置いて行かれ、そこで生きるために大地に潜る。
芽が出て花を咲かせ、いすれ種を作り、その種を運ばせる。
そんなことを、白鳥から聞いた。
「それじゃあ、帰るよ。たくさんの餌、ありがとう……最後に希望の花はアンタがこの世界にいる意味を教えてくれる」
「意味?」
「そうだよ。アンタは大切だと……じゃあ」
白鳥が再び飛去っていった。
私は少年……希望の種を見ていました。
少年のぬくもりは、種からはしません。
でも、ぬくもりが欲しい。
私はそう思いました。
そして少年の言ったお願いを、行動することにしました。
少年のお願いの意味は、よくわかりません。
しかし……やってみます。
《それから、三年目のお務め》
馬車に私は揺られている。
私の座り横には、植木鉢がある。
あれ以来から、私は鉢に種を植えていた。
種は花を咲かせた。
希望の花は、鮮やかでどこか切ない。
少年そのものが、花になった。
鉢を持つ理由は、少年といっしょにいたいから。
少年を一人にさせたくないから。
そして何より、お務めが終わる頃に花が咲くからだ。
この二年間は、少年の言うとおりにした。
種になった時は、お務めを真面目に取り組まず、その次の年はたくさんお務めをしました。
あまりにもお務めをしていたから、みんなが何とかしようと考えたらしい。
それくらい私は、お務めにのめり込んだ。
そして今回だ。
少年の答がわかるはず。
馬車が塔に着くと、私は降りた。
降りるとそこには、ブルー、レッド、そしてブラウンが神妙な顔をして私を見ている。
私は、少し驚いた。
何故?
私が不思議な顔をしていると、レッドがいきなり頭を下げた。
「ホワイト、ごめんなさい」
え?
な、何?
困惑していると、次はブルーが……
「あなたのこと、理解しなかった。ごめんなさい」
ブルーも謝ったのだ。
ブルーの涙声に、私はただ困惑している……
「ホワイト、あなたがしっかりしないと、私達がお務めできないことがわかったんです」
ブラウンまでも、頭を下げた
私はよくわからなかった。
「どうして? 私は何もしてないわ。みんなに寂しさとひもじさ、そして寒さしか与えられない女王よ。みんなを厳しくすることしかできないのよ」
私が言う。
すると女王達が、答えだす。
「ホワイト、あなたの厳しさが、私達のすべてなの。あなたが厳しく寒いから、春が待ち遠しく嬉しいの! あなたの厳しさのない春はみんながありがたみを、感じなくなるの。
あなたのおかげで……暖かさのありがたみがわかることに、気づいたの」
「ホワイト、冬は寒いから、雪を降らせて水を貯めることができる。夏の暑い空気には、その水を必要とするんだ。
雪が降らず水を貯められないのに、夏の暑さが来たら情熱を燃やしても静めることができないんだそれがわかったんだ」
「ホワイト、あなたの冷えた空気は、土に休息を与え休ませることができる。土が休めない冬は、土が痩せて作物が満足に育たない。つまり……ホワイトの厳しさがないと、私達は輝けない。そして、みんなが笑顔で生活できないの」
そして女王達が最後に……
「ホワイト、本当にごめんなさい!」
深々と謝った。
その時、種になった少年が話した意味がわかった。
少年が種になった時のお務めと、その次のお務めは、真面目にしなかった。
だから寒さが弱く、雪も降らなかった。
だから楽な冬と、喜んでいた。
けれど実際は、土は休めず、水は貯まらず、厳しさがないためにありがたみを忘れていることに、気づき始めた。
そして昨年、私は思い出したかのように、厳しい冬をみんなに与えた。
私がなかなか塔から出るのを忘れたと思うくらいに、長い冬だった。
寒く、たくさん雪も降らせ、厳しい冬だった。
しかし……暖かい冬から厳しい冬へとなったことで、暖かい冬は春夏秋冬を通して、良いことではないと教えたのだ。
つまりこれは、土の、水の、空気の声を少年が代弁していたのだ。
それを私達は気づかなかった。
それを気づかせてくれたのは、希望の種に姿を変えた少年だったのだ。
「みんな、頭を上げてね。私は、別にどうも思いません。これからも、よろしくお願いします」
私は他の女王達に、お礼をしました。
女王達が謝ったことへの、お返しです。
私は、嬉しかった。
《お務め中》
塔の中で、今回は希望が咲きました。
花は、俯きかげんです。
なんだか今回も、そんな感じに見えます。
俯いた花は、ピンク色でどこか恥ずかしそうでした。
少年に出会った時も、こんな感じだったことを私は今でも覚えています。
希望の花……その花を見て、私は絶対にお務めを真面目にすることを誓いました。
おや?
花が少し上を向いたような……
うん、上を向いた。
そうしておくことにします。