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Xeno~永遠の異端者~  作者: 沢山一咲
1章 運命との遭逢
7/10

そこにいたのは

 ダンドリア城の大時計が六時を告げた。

 城内の大広間が貴族や軍人で賑わう中、ゼノはレグルスの後ろで直立していた。

 ネムスのパーティーの時とは違い、軍服の正装を身に纏い、ゴーグルをかけ、愛刀を差した姿で、いつもより鋭く辺りを睨みつけている。


 玉座に座り、皆が楽しむ姿を見下ろしているレグルスは、パーティーに参加しに来た貴族や三等兵からの挨拶を受けていた。

 貴族はともかく、三等兵の複数名はレグルスから直々に言葉を受けようとしていたのだろう。

 こちらを見て話している者が多くいるが、その者らは大概後ろに控えているゼノの目に怯み、近寄ってこようとはしない。

 彼らはあの入隊式のレグルス見送り時にゼノに逆らう事を許されぬ恐怖に似たものを植え付けられた者たちだ。それはゼノを裏切る事ではなく、レグルス王を裏切ることを許さぬと示すものであった。


 今までレグルスと話していた貴族の男が下がると、次は見慣れた顔が目の前に現れた。


「お久しゅうございます。レグルス王」

「これはネムス伯爵。よくぞ参ってくれた」


 ネムス・ドルミートはレグルスに一礼し顔を上げると、すぐ後ろにいた娘、フロース・ドルミートを前へと背中を押し出した。


「これは娘の」

「フロース・ドルミートであります。本日、レグルス王率いるダンドリア軍に入隊致しました」


 ハキハキした声で名を名乗るフロースは、ふとレグルスの後ろにいたゼノへと視線を動かした。

 ゼノはそれを気に止めずに辺りを監視している。


「そうか、君がネムス伯爵の娘か。医療班に志願していると聞いている。医療班への道は厳しいものだが、頑張り給え。期待している」

「ありがとうございます」


 ――その時だった。


 ガシャーンッ!と何かが割れる音がし、広間の明かりが全て消えた。

 三等兵、そして貴族らの悲鳴と騒めきが起こり、警備隊の怒声が響く。

 ゼノはすぐさま辺りを見渡すや、音のしたギャラリーの方を見た。

 するとそこには人影があり、ゴーグルを通して見たそこは、青い炎が揺らぐように光っていた。


「ここは任せたッ」


 警備の者がそう告げ、剣を片手にギャラリーへと仲間を連れて飛び上がっていく。

 レグルスは玉座から立ち上がると、響く声で告げた。


「ここにいる警備隊とそれに関する役を担うもの以外はここにとどまり、皆を守れ。まだ抜刀はするな。警備隊は城の守備を固め、余裕があれば街へ人を回せ。城のものはすぐに明かりを。執行官とサフィラス大佐は私の元へ」


 命が下った途端、それまでざわついていた空気がピタッと静止した。

 そして緊張が走り、レグルスの言葉にそれぞれが応答する。

 

「ゼノ、いるな」

「あぁ」

「サフィラスは」

「ここに」


 明かりを持ったサフィラスが寄ってきては、ネムスとフロースに下がるように言うとレグルスに向き直った。


「不測の事態、お詫び申し上げます」

「いや、誰もが予期出来なかったことだ。今は犠牲者が出ぬよう、策を練らねば」

「レグルス。ここは危険だ、奴らは十中八九アンタを狙っているだろう。アンタだけでも避難したらどうだ?」

「ここで下がっても、安全な場所などなかろう。敵は中にいる」


 城はこの国の中に位置する最も安全な場所だ。

 しかし、それが今破られたということはここ以外安全な場所などないということになる。


「…奴らが今この時期を狙ったということは前々から機会を伺っていたことになる。厄介だぞ」

「あぁ、わかっている」」


 途端、二回目の何かが割れる音が響き、悲鳴が上がる。

 ゼノとサフィラス、そしてレグルスは同時にガラス音のした方へ向いた。


「ゼノ!」

「りょーかい」


 サフィラスの声により、ゼノは愛刀の柄を握って大きく跳躍した。

 魔力察知のゴーグルの一部が青く光り、それは同じくこちらへ向かってくる。

 だが、その速さは圧倒的にゼノの方が早く、瞬きの内に事は終わっていた。

 相手の胴に一線を放ったゼノには血しぶきがかかり、制服を赤く染め上げ、頬についた血を素手で拭った。

 ゼノは相手の青い光が消えるのを確認すると、刀についた血を振りはらい、納刀し、動かなくなった「それ」を抱き上げてレグルスの下へ戻った。


「ゼノ、無事か」

「まーね。それより明かりをくれ、サフィラス。なにか来たら対処はよろしく」


 ゼノは明かりで照らしながら、深く被られたフードを剥ぎ取った。

 顔を照らすと、それは白髪の女だということが分かり、更に細かく調べると項に十字架の紋章があることがわかった。

 

「十字架の紋章…これはサンザリアの信仰の印。ということは」

「あぁ、間違いないだろうな。サンザリアからの間者だ」

 

 二人の言葉に、ゼノは言った。


「これが三等兵に紛れていたら、国家の軍事的秘密…軍としての作戦や元となる思考がバレてるってわけだ。全員とっ捕まえて、殺さない限りやばいな。どうする」


 ゼノは二人を見た。

 すると、サフィラスはなにか思いついたかのような表情で、レグルスを見上げた。


「今ゼノが陛下の傍を離れれば、貴族が相手の場合、手を下せるのは陛下のみになり大変危険です。そこで一つ、提案があります」

「なんだ」

「…警備隊の一部でも良いです。今回限りの執行班を作り、貴族討伐の許可を与えてここに留まらせるのです」


 その意見にレグルスは顔を顰めた。


「だが、それなら死刑執行官を回したほうが速いのではないか?」


 レグルスの言うことは最もだ。

 今から執行班を作るくらいなら、後のことを考え執行官を使ったほうが早い。

 だが、それは彼らが使えれば(・・・・・・・)の話だ

 現に執行人の身であるゼノはこう言った。


「レグルスは知らないようだが、あいつらは人を殺すのに怖じ気づいて行き場がなくなって、仲間や上からの圧力で死刑官になった甘ったれどもだ。今すぐ武器を取れと言っても、執務だけやってロクに動いてない奴らが直ぐに動けるなんて思えない。それならサフィラスの方が何倍もマシだ」

 

 使えない人間との比較に使われたサフィラスはゼノを睨んだが、ゼノはそれを無視して死体を探っていた。

 腰に引っかかっていたウエストポーチを探ると、中には液体が入った瓶二つに中央に女の顔が埋め込まれた十字架が一つ入っていた。

 

「この瓶はリベラのところに預けて、この十字架は後で燃やしとけばいい。…んで?これからどうする?レグルス陛下?」


 ゼノは、「陛下」と、わざとらしくつけて名を呼ぶとレグルスを見た。


「…仕方ない。だが、二人がここを離れるわけにはいかないだろう。特にゼノが警備隊へ行っても執行官と警備隊は対立している。サフィラス、言ってくれるか」

「ハッ、お受け致しました」


 敬礼するサフィラスに、レグルスは頷いた。


「すまない。警備隊にはクーラという警備隊班長がいるはず。クーラに10人程の人選を行い、此方に来るよう伝えてくれ。その後、お前はそのまま追撃に加わるといい。大佐であるお前だが、指示を出すだけでも良い。撃退せよ」

「御意に」


 サフィラスは一礼をすると、その場から走り去っていった。

 ここから警備隊の宿舎はかなり近いから、そんなに時間はかからない筈だ。

 ゼノは死体を隅に置くと、愛刀の柄を再び握りいつ来ても反応できるように身構えていた。



*



 追撃前線にて――


「クソッ!」

 

 警備隊所属の男は、目の前で宙に浮いている獲物に苛立っていた。

 相手が悪かった。

 普通の魔法使いなら魔法陣を展開させ、魔力を安定させてから魔法を繰り出す。

 しかし、目の前にいる相手は魔法陣の展開を省略しての攻撃で、魔法陣展開分のロスがないために攻撃をする隙が見当たらない。

 

「軍の警備隊には気をつけろって言われてたけど、なーんだ。期待して損した」

「貴様ッ!我らは気高きダンドリア国軍警備隊!貴様のような下劣な者共に愚弄される筋合いなどないわァッ!」

 

 気合を発して片手剣を振りかざすと、突如現れた竜巻に阻まれ簡単に巻き込まれてしまった。

 空高く連なる竜巻は男を巻き込み、その中で切り刻んでいく。


「うわああああっ!」

「まぁ所詮こんなもんか。…で、他にもいるんだよね」


 屋根の上にスタッと着地した獲物――…銀髪の男は辺りを見回した。

 竜巻の攻撃にて居場所を嗅ぎつけたのだろうか、そこには警備隊らしき者が十、二十ほど集まっていた。

 それぞれが己の武器を持ち、自分を殲滅しようと殺気を向けているのが伝わってくる。


「いいね~、その目。憎いよねぇ、早く殺したいよねぇ」


 銀髪の男は茶化すように笑うや、右手を空高く掲げた。

 するとそこを中心として黒い雨雲が発生し、青白い雷が銀髪男の右手に向かって落ちていった。

 警備隊は無謀にも、それを隙と判断し飛びかかって行く。

 しかし――


「君たちの勇姿は認めるよ。でもね、命懸けの戦って、怯える人ほど助かるものなんだよ」


 刹那、右手に集まった雷はあらゆる方向に拡散し、警備隊を襲った。

 青白い稲妻はほぼ全員に命中し、呆気なく倒れていくの銀髪男はつまらなそうに見ていた。


「さてと…残ったのは君たちなんだが、どうしたものかな」


 残った人数はたったの二人。

 どちらとも、班長である人間が倒れたために戦意を失っている。

 指示する者がいなくなった今、人数も少なければ統率が取れるはずもない。

 

「んー…まぁいっか。ここで時間食っちゃうのも勿体無いし」


 銀髪男は腕をなぎ払うと、青白い稲妻を生み出した。それを見た警備隊の生き残りは絶望を感じ、武器を落としてしまった。

 しかし、そんなことは構わず、稲妻はまるで蛇のように歪曲し、勢いをつけて武器を落とした二人へと真っ直ぐ襲いかかっていった。


 これで終わりだ――。


 二人がそう思ったとき、一つの銃声が轟いた。

 

「警備隊の三班分が一気に壊滅。…これは、一体どういうことだ?魔道士!」

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