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森の中の戦場

「えっ……あー、えっと……ここどこ?」

彼、久澄ソウイチロウが辺りを二、三度見回した結果わかったのは、ここがどこかわからない森の中だと言うことだった。


「き、気づいたら森の中とかありえねぇっ、街中だったんだぞ?」


上を見上げれば、木々の合間から陽光が漏れている。


「……夕方でもなくなってるしでも……え、え?何、何なの?夢!?」


あまりの出来事に混乱するソウイチロウ。それもその筈だ。

なんの兆候も無く、本当にいつの間にか、何処かもわからぬ場所に来てしまえば、平静さなんて保てるわけがない。


「え、映画の撮影とかじゃ……いや、そんなのは流石にありえねぇ。んじゃやっぱり夢?」

判断材料が少な過ぎる。ではどうすれば良いか……。


「調べて、みるか」

ソウイチロウは森の中を歩きだした。

一歩歩く毎に、地面を踏みしめる感触、頬を撫でる風のリアルさに意気が沈んで行く。

嫌な予感がする。


「……どの木も、本物……」

元々信じていなかったが映画の撮影用のセットと言う説は消えた。


「はぁ……はぁっ……夢なんかで、疲れないよな、普通」


五分程歩いたが、混乱のせいもあってか走ったわけでもないのに息が上がる。

夢なんかで、息が上がるなんてこと、起こりうるのか。


「……誰か……誰かいませんかっ!?」


叫んで見ても、返ってくるのは葉が擦れる音ばかり。


「……まさか異世界に来ちゃった、なんてこと、ないよな?」


あまり詳しくはないが、ソウイチロウはアニメやライトノベルにも手を出している。

カード好きなクラスメイトにアニメオタクがいて、その彼から教えて貰い嵌まったのだ。


昨今のファンタジーアニメでは、現実世界から剣と魔法の摩訶不思議ワールドへ飛ばされる、なんて設定のアニメも少なくない。

ソウイチロウが異世界、と思ったのはそういうことだ。


「いやでも異世界って……」


一番合ってはいそうだが、一番信じたくない部類の答えだ。

アニメとして見ているのは良いが、自分が異世界に行きたいかと言えば、絶対に行きたくないとソウイチロウは言えた。


何がおこるかわからない。危険であるし、高校生のソウイチロウとしては、生きていく統べも無い。


「……ま、まずは人を探そう」


アニメのキャラクター達も、一人で異世界に来てしまった時は人と会うことを最初の目的としていた。

今は彼らに倣う他ない。



「もうダメ無理歩けねぇ」

約三時間程歩き続けたが疲労が溜まるばかりで何も得られず、ソウイチロウは木の切り株に腰を置いた。半径で1mはありそうな巨大な切り株だ。


「はぁ……本物に異世界なのか?こう言うのってホラ、なんかイベントあったりするよな。人助けたり」


しかしそんな様子は全くない。

森は静かだ。


「……くそ、眠たくなって来た……そもそも学校帰りにターミナル寄ってそのままここだからな。夕飯食べてないし疲れたし……」

こんなわけのわからない場所で寝るのはどう考えても悪手だ。

しかし心地よい風と陽気の暖かさにソウイチロウの思考力はガリガリと削られて行く。


「…………」


そして最後には切り株に寝転び瞼を閉じてしまった。


だがソウイチロウが眠る事はなかった。



ドン―――ッ!!


突然、大きな爆発音が森の中に轟いたからだ。


「な、何事!?」

轟音に驚き飛び立つ鳥達のように慌てて起き上がるソウイチロウ。

完全に眠気は吹き飛んだ。


ギンッ!


パキィンッ!


ゴゴゴゴッ!!


言葉で表せば陳腐なモノマトペになるだろう。

しかし実際に聞くソウイチロウにとって、その激しい音は、恐怖を与える物だった。


「……こ、こっちからだ」

怖い。こんなわけのわからない場所に来て、今度はわけのわからない轟音だ。

震える足に活を入れ、それでもソウイチロウは歩き出す。

知らなくてはいけないのだ。

今のソウイチロウは、何も、知らないのだから。


音のする方に歩いて行くと、当然の事ながら轟音は更にその大きさを増して行く。


「……ああぁっっ!!」


「!?」


声だ。否、それは叫び声だった。

それも、その叫び声は女性のものだった。


「くそっ!!」


気づけばソウイチロウは駆け出していた。


すると、直ぐに目的の場所についた。


「はぁ……はぁっ……なんだよ、これ……っ!!」


ソウイチロウの視界に広がったのは、戦争だった。

木々がちょうど無い開けた場所。そのに距離を置き向かい合う二人の人影。

一人は大柄な男だった。もう一人は、ソウイチロウとそう歳の変わらない少女だった。

そして、その二人の間を、大量の化け物や人の形をした歪な物体が立ち並び、衝突していたのだ。


それはまさに戦争だった。人ではないものの、多量の兵がぶつかり合い、砕け散り、またぶつかり合って砕け散る。


「……え?」

そんな光景を見て呆けていたソウイチロウだったが、その光景を見て、何かが引っ掛かった。

ソウイチロウはどこかで、目の前で戦う化け物達を、見たことがあった。


「あれって……まさか……『森の守り人』だよな……メガテリの」


少女側に立つ化け物の中で一際目立つ一角の白馬を見て、ソウイチロウは呟いた。


そう、『ト・メガ・テリオン』で登場するカードキャラクターだったのだ。




「ギャハハハッッ!!弱い、弱すぎるぜ学院生さんよぉっ!学院アカデミーってのはこんな雑魚ばっかなのか?」


少女と向かい合った男が下卑た笑い声をあげる。


「あ、あそこにいるのは黒のキャラクターの『リターン・アンデット』と『黒騎士ハルガノン』!?……や、やっぱり……メガテリのキャラクターだ!」

男が従えているように見えるのも、『ト・メガ・テリオン』に登場するキャラクター達だった。


「な、なんでメガテリのキャラクターが……!」

ソウイチロウが自問するように呟くと、全身を黒い鎧で纏った黒騎士が動き出し、少女が従えるネズミ型のキャラクターが剣で叩ききられた。

そのキャラクターも、ソウイチロウは知っていた。


「ふん!『リターンアンデット』でプレイヤーを攻撃!」

「あぐぅっ!……」

「へへ、残りライフは6ポイント……後もう少しで地獄行きだぜ?ギャハハハ!!」


男が従えるゾンビが少女に襲いかかり、それを見て男はまたしても下卑た笑い声をあげる。


「……次は、……私の、ターン……!」

怯える少女はそれでも手を伸ばし、宙に浮く紙の束に手を伸ばす。

「あ、あれ……やっぱり、あの二人は今、デュエルをしてるんだ!」


そう、彼女が手を伸ばした紙の束は、『ト・メガ・テリオン』のカードの束、山札デッキだったのだ。


「わ、私は『牧草地』を配置し、国力緑を5つ使用、『ラットン』と『灰色ウルフ』を召喚……『森の守り人』でリターンアンデットを攻撃します……!」


彼女の宣言に一角の白馬は嘶き、その脚力を持ってゾンビに近づき、立派なその角でゾンビの体を貫いた。


「ふん、雑魚のくせに……」

「た、ターンを終了します」

自分のキャラクターが破壊され不機嫌そうな男に少女はターンの終了を宣言する。


「俺のターン、ドローだ!!」


男は、少女と同じように宙に浮いた山札の上からカードを一枚引いた。


「ちっ、しけたカードしか来ねぇ……まあ良い、黒の国力を4支払い、『毒沼のポイズンワーム』を召喚だ。そして黒騎士で『森の守り人』を攻撃!」


「!ら、ラットンでブロック!」

少女が叫ぶと、黒騎士の攻撃をやけにデカイネズミが庇った。


「ターン終了だ!」


「私のターン……『草原』を配置して、国力を4支払い『灰色ウルフ』と『森の暴れん坊キャキャウッカ』を召喚、『森の守り人』と『灰色ウルフ』でプレイヤーに攻撃します」

「ちっ……『森の守り人』は『毒沼のポイズンワーム』でブロック、『灰色ウルフ』の攻撃は通す」

「二点のダメージ、残りは13ポイント……」

「だからどうだって言うんだっ!てめぇが負けるのはもうわかってんだよ!!」



白熱する男と少女の戦いを見ていたソウイチロウだったが、その思考を占めるのは一つの疑問だった。



(な、なんで二人は攻撃だけなんだ?……キャラクターの効果だって使えるのに)


キャラクターにはバニラカードと呼ばれる、攻撃力と体力を示すアタックとタフネスの数値以外になんの効果も持たないカードが存在する。

二人が使うキャラクターがバニラカードであるならば今の攻撃の繰り返しの戦闘を見ても文句は無い。

……だが、二人のキャラクターはそれぞれ特殊な効果持っていた。


少女の破壊されたカード『ラットン』は破壊された後、同名のカードを山ふだ《デッキ》から引き寄せる効果があり、男の『毒沼のポイズンワーム』も破壊された時、相手プレイヤーか相手のフィールドのキャラクターに3ポイントのダメージを与えることができたんだ。

もしかしたらこの世界の『ト・メガ・テリオン』では効果が使えないのか?と思ったがここまで酷似しておいて使えないと言うのはないだろう。


では、何故効果を使わないのか……


「いやああぁっ!!」

「!」


ソウイチロウは少女の叫び声で思考の海から意識を引き上げた。


「ククク、ギャハハハッ!!見ろ!こいつが俺の切り札だっ!!」


見れば戦局は大きく動いていた。

少女の場には一角の白馬『森の守り人』だけ。多くいた他のキャラクター達は軒並みやられてしまったようだ。


逆に男はと言うと、こちらもキャラクターは一体だけだが、『黒騎士ハルガノン』ではなく、それより強力なキャラクター、『暗黒卿ザダルガモン』になっていた。

『暗黒卿ザダルガモン』は強力なレアカードで、まともにやっては『森の守り人』では相手にもならない。


「さぁ、次のターンでてめぇは終わりだ!」

「うぐっ……」

男の言葉に、少女の瞳は絶望に染まる。

それを見てソウイチロウは思わず駆け出していた。


「なぁアンタ!キャラクター効果は使わないのかよ!」

「え、えっ!?」


突然現れた乱入者に少女は驚くが、ソウイチロウはそれを無視して再度問いただす。


「キャラクター効果だ、『森の守り人』にはキャラクター効果があるだろうが!」

「そ、そんなこと言われても、古代文字の解明なんて……」

「こ、古代文字?……ってこれ、日本語版……日本語だから、読めないのか?」

山札と同じように浮かぶカードを見ると、文章欄に書かれた文字は日本語。

少女には日本語は読めないのだろうか。

「ま、まさか古代文字が読めるんですか!?」

目を開き詰め寄ってくる少女に驚いたソウイチロウだったが、すぐに頷く。


「おいおい何だよ、そこの雑魚の知り合いかぁ?ギャハハハ、残念遅かったな、今からそいつは俺に負けるんだよ!」

喚く男を無視しソウイチロウは少女の肩を掴む。


「こいつのキャラクター効果なら奴の『暗黒卿ザダルガモン』に打ち勝てる。……俺の指示に従ってくれ……絶対に、勝たせて見せる」

「……わ、わかりました」

少女の瞳には涙が溜まっているものの、絶望の色は消え去った。


「先ずはドロー、それから手札を見せてくれ」

「はいっ……私のターン、ドロー!」

少女がカードを引く。 今引いたカードと手札にある数枚のカードを見て、ソウイチロウは思わず笑みを溢した。

「相手のライフはさっき13だったよね?」

「す、少し減らして9ポイントにまで減らしています」

「尚更グッジョブ。この決闘デュエル、勝てる。……まずはこのカードを……」


ソウイチロウは男に聞こえないよう小さな声でカードの手札とフィールドの『森の守り人』のキャラクター効果を教える。


「そ、そんな能力が……!」

「運用方はなんとなくわかる?」

「は、はい。このカードを出して、効果を発動させて、……」

「よし、それじゃあそれでやってみて」

「はい!」


ソウイチロウが離れると、少女は手札から二枚のカードをフィールドに出した。


「『力比べのアーテムホロン』、『極楽鳥カチュラテ』を召喚!」


少女のフィールドに人の姿をした毛むくじゃらと、色鮮やかな羽を持った鳥が現れた。

「そ、そして『森の守り人』で……『攻撃』!」

少女がそう叫ぶと、男は遠目で見てもわかる程に口をつり上げて笑った。


「気でも迷ったか!?『暗黒卿ザダルガモン』のタフネスは7!てめぇの『森の守り人』はアタック4!!『暗黒卿ザダルガモン』でブロックすりゃ『森の守り人』なんか……」

「わ、私は『暗黒卿ザダルガモン』を選択します! 」

男の言葉を遮るように少女は宣言する。

「は、は?……」

男はわけがわからないと言った顔をする。だがその次の瞬間、男の顔は驚愕に変わった。


「お、俺の切り札、『暗黒卿ザダルガモン』があああぁっっ!!」

男のフィールドにいた巨大な騎士が、音をたてて崩れていったのだ。


「『森の守り人』の効果は『攻撃』時に相手フィールド上のキャラクターを選択し、そのキャラクターを国力に変換させるというもの。……効果後に自分も破壊されるが、それを加味してもその除外効果は強力。制限カードは流石だぜ」


男は戦意を失い、次のターン、少女は男に勝利した。

緑:森の守り人

種族:ビースト

コスト:3(2)

A/T:4/5

効果:

このキャラクターが攻撃する時、相手フィールド上のキャラクターを一枚指定しても良い。

この時指定したキャラクターは持ち主の国力の場に置かれキャラクターの色の国力『1』となる。

その後、このキャラクターは破壊される。

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