異世界への門出
私はMTG、DMが好きです。それしかカードゲームをやったことがありません。
ですので、多少ゲームシステムが似ていても……その、なんと言うか、
「パクリだ!ここにパクリがいるぞ!」
「おら削除あくしろよパクリ野郎!」
など、あまりパクリだぱくりだと言わないでいただけるとありがたいです。
ぶっちゃけるとカードバトルに明け暮れる主人公の異世界学園ファンタジーを書きたいだけですのでカードのシステムとかは半ば無視してしまっても構いません。してください。
トレーディングカードゲーム『ト・メガ・テリオン(To Mega Therion)』
美麗なイラストや濃厚な世界観、そしてカードさえあれば大人から子供までが遊べると賞される単純かつ戦略性の高いルールが愛され今では世界中で愛される人気カードゲーム。
この物語は、そんな『ト・メガ・テリオン』を深く愛する少年の、物陰である。
◇
TMT専門のカードショップ『ターミナル』はプレイルームと呼ばれるカードバトル用のテーブルを幾つか置いたスペースを有するカードショップだ。
購入したカードですぐ遊べるこの店は、町のTMTプレイヤーにとって憩いの場でもある。
そんなカードショップ『ターミナル』のテーブルでは、今まさにバトルが繰り広げられ、人だかりが出来ていた。
「俺は『紅蓮の槍兵・シウェン』で『弓兵・クルルガ』を攻撃!」
少年の宣言に、周囲の客が完成を上げる。
そして宣言を受けた相手は悔しげな顔でテーブルの上に置いていたカードを表側で重ねられたカードの束の上に置く。
「そして『紅蓮の槍兵・シウェン』の効果、『勝鬨』発動! このキャラクターが相手フィールド上のキャラクターを戦闘によって破壊した時、手札から合計コスト2以下の赤のキャラクターを特殊召喚できる!召喚されたキャラクターはそのターンのみ『強襲』効果を得る。そしてターンの終了時、特殊召喚によって召喚されたキャラクターを破壊する。……俺は手札から『砲兵・バランバン』を特殊召喚!『砲兵・バランバン』でとどめだ!」
少年は手札からカードをテーブルに置き、そのカードを横向きにする。
歓声、また歓声。
悔しげな顔の相手と握手して、少年はガッツポーズを取った。
「おめでとう久澄くん、今月の『ターミナルマッチ』の優勝者は君だ!」
半袖にGパンに、『ターミナル』とロゴの入ったエプロンを着た眼鏡の青年が勝利に喜ぶ少年に声を掛ける。
「イエーイ!店長、俺最新弾ね!」
このカードショップ『ターミナル』で月に一度行われる店舗主催のトーナメント、その名も『ターミナルマッチ』。
参加費三百円で優勝商品は希望の拡張パック一箱と言う、小規模な試合だが、その手頃な参加条件と優勝賞品から「ちょっと参加してみよう」と思う人は多く、毎回盛況に終わる。
少年、『久澄ソウイチロウ』はその『ターミナルマッチ』で二連勝を遂げたプレイヤーだ。
「いやぁ、それにしても見事に逆転されちゃったな。中盤、青の魔法『津波』で久澄くんのキャラクターを全滅させた時は勝ったと思ったんだけど……」
「いやいや、俺ももう無理かと思いましたよ!あそこで『シウェン』引けたのは奇跡っす」
ソウイチロウに敗北した中年の男が苦笑さると、ソウイチロウもまた苦笑する。
薄氷の勝利だとソウイチロウ自身も思っていたのだ。
「久澄くん、この後もう一戦、どうだい?」
「良いっすよ!パック開けたらやりましょう!」
中年の男の誘いに頷く。
強敵とのバトルはソウイチロウも望む所なのだ。
「店長!」
「最新弾だったね? おめでとう、久澄くん」
店のカウンターから箱を取り出した店長。
その箱には、カードイラストが所狭しと描かれていた。
TMTには、これからゲームを始める人向けに作られたデッキ構築済みの『スターターパック』と、初心者から上級者までのプレイヤーの、デッキの強化向けの『ブースターパック』、2つのカードパックが存在する。
『スターターパック』は開封から直ぐにカードによるバトル、『決闘』が行えて、ブースターパックは既にカードデッキを持つプレイヤーが更に自分好みのデッキを作るための追加パックだ。
ソウイチロウが今回賞品に貰ったのは『ブースターパック』が計30パックが入ったボックスだ。
1パック5枚で計150枚あるが、1パックで約150円する。
普通に購入したらソウイチロウのお小遣いでは足りなかったろう。
「いぃやったぁ! 何が出るかな、何が出るかな~」
「ブースターパック第十一章のメインテーマは『次世代英雄編』。初期の章で出てきたキャラクター達の子孫や、またかつてのキャラクター達が姿を変え再登場してくる色々と熱い弾だ。十一章第一弾『竜王子登場』では人気キャラクターの『竜の戦士アギト』と『剣聖姫リリアンヌ』の息子、『双竜剣ジルバ』がパッケージだったね。またこの弾から『ジェネレーション・ギア』と呼ばれる新基軸のシステムが登場したね。これは同じ人名キャラクターが自分の場にいる時、そのキャラクターを墓地に置く代わりに手札から『ジェネレーション・ギア』を持つ同名キャラクターを特殊召喚することができる。同名だけど効果や能力の違うキャラをコスト踏み倒しで召喚できるのはデカイね。更にこの弾には――」
「おぉ!『天槍の戦女神エレナ』キター!!」
「……ま、まぁ良いか」
希少度の高いレアカードを手に入れて興奮気味なソウイチロウに店長は苦笑すら。
「ねぇねぇ店長、次の大会はいつわるんすか?……お、『ハイエルフの女王フィオナ』も来た」
次のブースターパックを開封しながらソウイチロウが尋ねる。
すると、店長は腕を組んでうーん、と唸る。
「その事なんだけど……再来月からTMTバトルチャンピオントーナメントが開催されるよね?」
『TMTバトルチャンピオントーナメント』
それは、TMT公式大会では国内最大級の規模を誇る年に一度開催される大きな大会だ。
優勝者には大会限定のレアカードと賞金二千万円が与えられ、日本全国から強豪達が集う夢の大会でもある。
「俺も地区予選に参加するつもりだぜ?」
TMTバトルチャンピオントーナメントは地区予選、本選、決勝戦の三つに分けられ、地区予選で各地域の代表が決まり、代表者が入り乱れるバトルロイヤルの本選、そして本選で決まったベスト8のプレイヤーによる決勝戦が行われる。
「その大会で運営側からお呼びが掛かっちゃってね。大学開始前には一度店を閉めようかと思うんだ」
腕を組んだ店長が悩んでいる様子でそう答える。
「えええ!?店閉めちゃうの?それに運営から声が掛かるって……」
「まあそう言うわけで、一時的に閉めようかとって悩んでるわけ。だからバトルチャンピオントーナメントが終わるまではこの店でトーナメントは多分開かない、かな」
「そんな~」
がっくりと項垂れるソウイチロウに店長はタハハ、とまなそうに笑う。
「ごめんね久澄くん。……そうだ、お詫びと言っちゃなんだけど、久澄くんだけに特別なカードをあげよう!」
「え!本当ですか!?いやったぁっ!!」
無くなっていた元気を取り戻して嬉しがるソウイチロウに、店長も嬉しそうに微笑む。
「ただ約束して欲しい事が2つあるんだ」
「約束して欲しい、事?」
いつもの気弱なイメージの店長に似つかわしくない真剣な顔つきにソウイチロウは真面目な話だ、と店長に向き直る。
「まず一つは、どんな事があってもTMTを愛するってこと」
眼鏡の奥でウィンクした店長にソウイチロウは頷いた。
「任せてよ店長!俺デュエルでの実力は劣っても、メガテリ好きってのでは負けない自信あるから!」
サムズアップしてソウイチロウがそう答えると、店長はうんうん、と頷いた。
「もう1つは……今から君に渡すカードは特別なカード。その希少価値は……そうだね、『時空の奔流』とか『黒翼の睡蓮』とかのパワー8って知ってる?」
「メガテリ最初期のカードの中で、特に性能がぶっ飛んでる禁止カード8枚のことでしょ?刷った枚数が少ない上に再販されなくてすげぇプレミアついてる奴」
「うん、それ。そのパワー8全部より希少って言ったら、どれくらいかわかる?」
「はいっ!?」
ソウイチロウが変な声を漏らして驚いたのも無理は無い。
パワー8とは、『ト・メガ・テリオン』黎明期に生まれた、ゲームバランスを崩しかねない力を持った8枚のカードだ。
トレーディングカード初期にありがちな、開発者がゲームデザインを手探りしながら作っていた際に生まれた強力なカードだ。
そして初期のカードと言うこともあり数が少なく、保存状態が良ければ、一枚百万円はすると言われてるカードだ。
そのパワー8よりも希少価値が高いと言われ、驚かない人はいないだろう。
「だから絶対に、このカードは誰かに渡さないこと。アンティルールなんて絶対ダメだよ!」
「は、はい!」
「そうか……安心した」
そういって店長はポケットから一枚のカードを取り出した。
そのカードの枠は虹色に光っており、最高レアのレアレジェンドホロカードだと一目で理解できた。
「おおぉぉ――ぉ?おおっ!?」
店長が取り出したカード、それを見て歓声を上げたソウイチロウだったが、その歓声が疑問に変わった。
身の丈程の大きな剣のような鍵をもった少年がそのカードには描かれていた。
カードのホログラフィックもかり、とても心惹かれるカードだが、その能力は今まで販売されて来たカードの中で最弱と言って良い程に弱かった。と、言うより何もなかった。
キャラクターカードであるなら右下にあるはずのアタックとタフネスの数値も、魔法カードなら効果が書かれている文章欄にも、国力カードならそのカードが生み出すコストの色も、何も描かれていなかった。
キャラクターカードで特殊な効果の無いカードを『バニラカード』と呼ぶことはあるが、名前とイラスト以外が描かれていないだろうカードなんて、ソウイチロウは今の今までなかったのだ。
「『解放者』……このカードは世界に一枚しか存在しないカードなんだ」
なるほど、観賞用と言うことだろう。
それならば確かにこれだけおかしくても頷ける。
「世界に一枚……なんでそんなカードを何で俺に?」
ソウイチロウが尋ねると店長は小さく笑った。
「君なら、僕の後を継いでくれると思ったからさ」
「継ぐ?……この店をってこと?俺まだ未成年だよ?」
店長の言った意味がわからず言うと、店長は手を叩き「それも良いね!」と勝手に喜ぶ。
「大丈夫、その内わかるよ。……あ、そう言えば倉方さんともう一回デュエルするんだっけ?」
「いっけね、忘れてた!」
店長から受け取ったカードとまだ開けてないカードのパックを懐にしまい込んだソウイチロウはデュエルスペースで待つ相手に向かい駆けていった。
走り出すソウイチロウの背を店長は、見守るように微笑んでいた。
まるで昔を、思い出しているかのように。
◇
「くっそ~っ、流石粘り勝ちの倉方さん。大会での勝ち込みでも二勝三敗、負け越しかー……次やった時には勝つ!」
夕暮れ時、ターミナルでの激戦を終えたソウイチロウは帰路についていた。
結果は敗けであったが、楽しかった試合にその表情は明るい。
「しっかし、バトルチャンピオントーナメントかぁ……去年は予選で惨敗だったけど、今年こそ本選に出たいよなー」
思い出すのは去年のバトルチャンピオントーナメント。
ソウイチロウは地区予選で敗退していた。
「十五周アニバーサリーで今年は絶対大会も盛り上がるだろうし……負けても決勝は絶対観戦しに行ってやる!」
学校指定のカバンを担ぎながら息巻くソウイチロウ。
ふと、ターミナルの店長の言葉が思い出される。
「……世界で、一枚か」
解放者のカード。
見れば見るほどおかしなカードだ。
TMTを構成する、キャラクターカードでも魔法カードでも、国力カードでも無い。
ただ巨大な金色の鍵を持った少年が描かれたカード。
「……ん?」
普通のカードではそのカードの効果が書かれる文章欄に、小さく文字が書かれているのにソウイチロウは気がついた。
「フレーバーテキストか?」
フレーバーテキストとは、カードの文章欄に書かれる、効果などには関係のない文章で、主にキャラクターの事やカードの世界観や物語が書かれている。
このフレーバーテキストを眺めるのもこの『ト・メガ・テリオン』の醍醐味で、『ト・メガ・テリオン』が長寿ゲームである理由の一つとされている。
「『其は暁の果てにあり、黄昏より来る黎明の時より続きし物語を開く者』……なんだこりゃ」
フレーバーテキストを読んだソウイチロウだったが、その内容の意味不明さに首を傾げた。
「暁って夜明けの事で、黄昏って夕暮れのことで……んん?」
少し考えても更に謎が深まるだけだった。
「もしもし……ああ、君か。久しぶりだね。もう7年ぶりになるか 。……いや、そちらでは何百年も経っているんだったね。
ああ、わかってる。カードはさっき渡したよ。
心配性だな、君は。彼なら大丈夫だよ。……彼は『ト・メガ・テリオン』を愛してる。
彼ならそちらに行っても頑張れるさ。あまり勝ち負けに拘らない質ではあるけど。
うん。彼なら僕の後を任せられる。……あの頃の僕に足りなかった、カードを楽しむ心があるからね。
ああ、お願いできる?僕と同じ黒髪に黒い色の目だから分かりやすいと思うけど。
……うん。うん。……また気軽に掛けて来てよ。ゲームの開発者って言ってもこれで結構暇でね。あ、でも今度公式大会に呼ばれてるんだったよ。
うん……うん。それじゃあ。……頼んだよ、『フィオナ』」
「へ?」
考えるのを止め、顔を上げたソウイチロウの前に広がったのは、鬱蒼と生い茂る木……ソウイチロウは、森のなかにいた。
灰:解放者
種族:
コスト:
A/T:
効果:
FT:
其は暁の果てにあり、黄昏より来る黎明の時より続きし物語を開く者