第2話【役立たずと役立たず】
「すまねぇけど、それは無理だ…。」
私の名前はサーシャ・ロークシャル。駆け出しの冒険者だ。自分の天職が錬金術士故に、どこのギルドパーティーにも入れてもらえないのである。
錬金術士なのに冒険者を目指すのも可笑しな話だけど、しかし、それが私の夢なのだから仕方ない。
「お嬢ちゃん、実は…俺ソロ活動して…。」
とは言え流石に、私みたいな小娘一人で行動するのも、些か限界がある。……やはり仲間が欲しいのだ。
「だから、俺と組んでもコンビにしか…。」
でも冒険者にとって錬金術士など、百害有って一利無し。明らかに戦闘向きでは無い。
「それでも良いってんなら…。」
やっぱり、私は一人で行動した方が良いのだろうか。というより、一人で行動するしか無いのだろうか。
(どうすりゃいいんだ?こいつ。)
今、俺の目の前には、顔を真っ青にしている美少女が立っている。
(マジでどうしよう。……何か俺の声が聞こえて無いみたいなんだが……。)
俺が無言で、目の前の女をみつめ続けると、唐突に目の前の女が泣き出した。
「うっう…ひぐっ……。」
「ええ!ちょ、お嬢ちゃん!泣くなよ!」
「…ひぐっ…だ…て…だって!うっうあああん!!」
「ちょっ!」
目の前の女が大声で泣き出すもんだから、周囲に居る人の視線が俺の方に集まる。
というか、何故か俺を責めたてるような視線が集まる。
「お嬢ちゃん先ずは落ち着こう!なっな!ほら、飴さんあげるから!」
「うう…。」
俺が飴を差し出すと、女は素直に泣き止み、飴を口の中に入れる。
女の口の中からカラカラと音がなる。どうやら冷静になったようだ。買っといてよかった…飴さん。
「それで、お嬢ちゃん。泣き出した理由、聞いてもいいかな。」
俺は出来る限り優しく声をかける。
女は顔を忙しなく動かして、やがて決心がついたのかボソボソと話だした。
(はっ恥ずかしい…。)
私は今、とんでもない醜態をさらしてしまった。目の前に居る男に飴を貰い頭を冷やしたら、唐突に恥辱の感情が沸きだした。
(うう、恥ずかしい///)
あまりの恥ずかしさに、つい小声で話始めてしまった。
「わ…私は錬金術士です……でも冒険者になりたくて…、…い…家から飛び出して来たんです…。」
「ふ~ん、成る程。それだけ聞いたら大体分かったよ。どうせあれだろ?天職が錬金術士だからパーティーに入れてもらえないって、かんじだろ?」
「うっ。」
「図星かよ。」
目の前に居る男は、困ったように頬を掻く。……もしかしたら癖なのかも。
(というより、私。この人にとっても迷惑なことしたんじゃ……目の前で泣き出しちゃったし…。)
私が自分のしたことに罪悪感を感じていると男が突然私の手を握った。
「ふえっ?///」
「どうだいお嬢ちゃん、俺とコンビを組んでみないかい?……実を言うと俺も一人でね、仲間が欲しいと思っていたんだよ。」
「ええ!…えーと、それは、愛の告白ですか?」
「……何でそうなる。」
男の苦笑を見ながらまた、恥ずかしいことを口走ってしまったことに身悶えるが、今はそれ以上に、嬉しさが込み上げる。
(やっと、やっと私にも仲間が出来る!!やった!嬉しい!!)
「だだしお嬢ちゃん。」
男の声に、冷水をかけられた様に私は固まる。
「えっと、何?」
「俺の天職魔術師だけど……。」
私は男の次の言葉を待つ。嫌な予感に身体中が震える。
(まさか、私の体を求めたり…しないよね。)
そういう様な事は多々あった、その度に逃げて来たものだ。……私の名誉の為に言うが、私はまだ『そういうこと』はしていない。
(もしも、この人もあの人達みたいなことを言うなら……。)
私は何時でも逃げれる体勢をとり、男の次の言葉を待つ。
「魔力……零だから。」
「………………え?」
これが彼、シシ・ヴァンフォーレ。魔力零の魔術師と、サーシャ・ロークシャル、錬金術士との最初の出合いだった。