草原にて
「なぁ、青葉…… ホンマにこっちになんかあると思うん?」
「なかったら困るやろ。てか、山とか登るの嫌やし。」
青葉が先に歩き始めた為、話し合いをする機会もなく草原から探索する事になった。
大地は山の方がいろいろな物があるように見えたのだが、青葉が山登りを嫌ったのだ。
元々インドア派の青葉には山登りは苦痛でしかなかった。
選択肢に上がる事自体を嫌がるように大地が提案するとしかめっ面を見せた。
山登り以外の方法もあったのだが、すでに草原を歩き始めて2時間程経っているので、今更引き返すのもどうかと思った。
「それにしてもなんもないな……」
「せやな。せめて池とか川とかあればええねんけどな。」
「それこそ山の方がありそうやけどな…… ま、あればええなぁ。」
今もなお未練たらしく大地は山を主張していた。
青葉はうんざりした顔をしていたのだが、大地は気づかず辺りを見回していた。
そして、二人は目的をすり合わせながら平原を進む。
水の確保を最優先にした理由は衣、食、住はある程度確保はできている。
水も最悪の場合は青葉のウォーターでなんとかなると思い大地は尋ねると、何やら魔力のようなものがあるらしく、魔法を使う度に疲労感が現れるそうだ。
青葉が言うには、バケツを半分も満たす前に魔力切れを起こす可能性があるというものだった。
魔力切れを起こすとどうなるかがわからない為、下手に実験ができないと青葉が答えた為、その考えは断念した。飲み水以外に服や食器、体を洗う水の確保をしたい所ではある。
道中、二人はパーティーの項目に指を当てて確認していた。
パーティーは選んだ後に、パーティーになりたい相手が相手のモニターを触ると組む事が出来るらしい。
それ以外の情報が今の所はないのだが、モニターを触られた方の名前に王冠のマークがついたので、青葉は「モニターを触られた方がパーティーリーダーみたいやな」と推測した。
ちなみに現在は大地がパーティーリーダーになっている。
「そういえば青葉、念の為に再確認やけどさ、意見分かれた時の『行動の権利』はいつも通りでええの?」
「そうしようか。いちいち意見分かれた時に言い争うのも無駄やしな。」
「ほな、順番的に次は俺やな。」
「……せやな」
青葉は睨み付けるように大地に視線を向けた。
ちなみに、『行動の権利』とは二人が遊んでいる時に、行きたい場所や目的が異なり散々言い合いをした事が多々あり、毎回じゃんけんやゲームセンターの格闘ゲームなどの勝敗で決める等の手間が煩わしく思い青葉が提案したのだ。
内容としては至ってシンプルで、迷った時や意見が分かれた時は順番に決める事であった。
つまり二人で遊ぶ時の行動に権利が与えられるのだ。
ちなみに、現在この『行動の権利』の順番は大地にある。
その為、この見知らぬ土地で生死を分ける選択肢も大地が握っているという事になる。
青葉は改めてその事実に気が付き嫌な予感がしていた。
虫の知らせか、青葉がそうこう考えていると突然異変が訪れた。
「キャーーー!!来ないで!!」
突然の悲鳴。
その方向へ二人が視線を向ける。
少女が燃えるような赤い毛をしたオオカミに今にも襲われそうになっているのだ。
体長は一メートル程ある大きなオオカミだ。
二人の手に負える相手ではないと瞬時に青葉は思った。
「やばいな…… 大地!逃げるぞ!」
「アホか! あの子を逃げれるかいや! 困ってる人おったらな、助けなあかんやろ!」
そう言いながら大地がカバンから果物ナイフ取り出しを走り出した。
念のためと言って大地がカバンに入れていた果物ナイフだ。
だが、常識的に考えると果物ナイフであのオオカミを殺せるとは思えなかった。
しかし、大地は出来る出来ないに関わらず、このような場面では率先して死地に赴く性格であったのだ。
青葉は諦めたようにため息をつき大地を追いかけるように走りだした。
「これがあいつなんやからしゃーないか。」
◆◆◆
「グルルゥゥ……」
「やだ! 来ないよ! あっちにいって!!」
唸り声をあげながら赤い毛をしたオオカミは少女に歩を進める。
対する少女は恐れの余り腰を抜かしてしまっているようで、ペタリと座り込んでいた。
目には大粒の涙を溜め、今にも崩壊しそうだ。
そこに突然「うおぉぉぉ!!」という叫び声が聞こえた。
少女ははっと視線を向けると、赤い髪の男が突進してきた。
まるでイノシシのように突撃してきた大地だ。
赤いオオカミも大地に視線を向けていた。
勢い任せに手に持つ果物ナイフで赤いオオカミを切りつけたが、オオカミは、横に跳び危なげなく大地のナイフを躱した。
そして、オオカミと少女の間に大地が割り込んだ。
「大丈夫か? 立てるか?」
「え、はい! 立てます!」
少女は大地の声に頷き、ふらつきながらも立ち上がった。
大地はそれを見て再度オオカミに視線を向けた。
それと同時にオオカミは大地に飛びかかった。
その鋭い牙で大地を噛み殺そうとしたのだ。
しかし、オオカミはキャウン。という声と共に次の瞬間に大きく吹き飛ばされていた。
オオカミの横っ腹に突然火の玉が飛んできたのだ。
火の玉が飛んできた方向に視線を向けると、そこには青葉がいた。
「初めてにしては上出来かな?」
そう言いながら青葉は髪の毛をかきあげた。
大地は青葉を確認すると、そのまま倒れたオオカミに駆けつけ倒れるように果物ナイフを突き刺した。
しかし、果物ナイフは地面に突き刺さった。
オオカミ咄嗟に飛びのいたのだ。
立場が逆転し、次はオオカミが大地に飛びかかる番だ。
オオカミは大地に向かって駆け出したが、すぐに転倒してしまった。
オオカミは「グゥルルルゥ……」不機嫌そうな声も漏らした。
そして自身が躓いた躓いた場所を確認した。
そこには先ほどまでなかった砂が散らばっていた。
ここは草原だ。こんな乾き切った砂はないはず。
オオカミ怪訝に思っていると、ザシュっという音が聞こえた。
そこでオオカミの思考は永遠に途切れた。
大地は果物ナイフをオオカミの頭に突き刺さした。
何度も何度も刺した。
そして、ふぅっとため息をつき、青葉に視線を向けた。
「お前なぁ、サンドウォールが成功せんかったら危なかったで?」
そう、オオカミが躓いた理由は青葉のサンドウォールであった。
オオカミが大地に向かって走り出した瞬間に、足元に向け唱えたのだ。
「ま、結果オーライってことで!」
「あのなぁ……」
「あ、あの……」
二人のやり取りを聞きながら、いつ声をかけようか迷っていた少女が二人に声をかけた。
大地と青葉はすでに少女の存在を忘れてしまっていた。
「おい、大地。この子、膝怪我してるわ。絆創膏とか持ってた?」
「あ、持ってんで!待ってな・・・」
「あ、だいじょーぶだよ!」
少女は大地がカバンから絆創膏を探そうとしている大地を制止する。
しかし大地は「あかんで!ちょっとの怪我て油断してたらばい菌入って大変な事になるねんから!」そう言いながら探し出した絆創膏を少女の膝に貼った。
「お兄さん達ありがとねっ♪」
「ええよええよ!助けてって聞こえてほっとかれへんし。」
「ホンマ、ホイホイ助けてたらお前すぐ死ぬで?」
「ま、無事やしええやん?」
「もう、お前の性格知ってるからなんもいわんわ・・・」
青葉は深い溜息をついた。大地が小さい頃から正義感が強いのは知っていた。
しかし、それが大地の良さでもあると思い今回の行動についてはこれ以上なには何も言わないでおこうと決めた。それよりも、今は目の前の事の対処をどうするかを思考しようとする。
そこに突然少女が首を傾げながら聞いていたのだ。
「ねーねー!お兄さん達は日本人なの?ここは何処かわかる?」