異変
「ぶぁっくゅっ!! うぅ……なんや寒いなぁ……」
肌寒さによって大地は目を覚ました。
時期外れの寒さ。まるで冬のような突き刺さる冷気に身を震わせながら大地は立ち上がった。
カバンからお気に入りの赤いパーカーを取り出し寒さを少しでも凌ぐ為に羽織った。
「まぁええや。顔でも洗って朝飯でも作ったるか……」
大地は独り言を呟きながら、青葉を起こさないようにそっとテントの出入り口を塞ぐカーテンを押し上げた。
同時にテントの外からは眩しい光が差し込んだ。
暗がりから出た大地は目が光になれるまで目を軽く瞑った。
そして、ゆっくりと開くと――
「……なんやねんこれ。」
大地の知らない景色が目に飛び込んできた。
昨日まであったはずの川も木々も道路もなかった。
それどころか、他のキャンプをしていた人のテントもなかったのだ。
「うわぁ、寒いなぁ…… あれ?どこなんここ?」
「あ、起きてきたんや。ここが何処かとか俺が聞きたいわ…… 見たまんまやと草原やな。」
大地が見たままの事を青葉に告げた。
大地の言葉通り、目の前に広がる景色は見渡す限りの草原だ。
青々とした草原ではなく、色を失った枯草が辺り一面に広がっている。
実際には葉を失った木がちらほらと立っていたりもした。
しかし、どれだけ目を凝らしても草原の先は見えないのだ。
「おー……なんでそんなとこおるん?」
「知らんがな。俺が聞きたいわ……」
大地はそう応じながら、ふとテントの後ろ側に視線を向けため息をついた。
目に飛び込んできたのは、テントから少し離れた場所にある大きな山であった。
視線にあったのは崖であったのだが、すこし上に視線を向けると山であると判断ができた。
草原、山。共に見た事もない景色だった。
青葉は大地の視線を追いかけ、視線のの先にある山を見ると「おー」と軽く声を出した。
おそらく青葉は起きたばかりで、夢と現実の区別がつかずにいるのだろう。
そう考え大地はふと、今の時間を確かめようと時計を確認した。
しかし、そこには時計はなかった。
「なんやねんこれ?! 俺の時計どこいったねん!? なんか別の時計みたいなついてんでこれ!!」
「ホンマやな。てか、俺もついてるわ。時計言うか『腕輪』やな…… はっ?! お前と色違いとかきもっ!」
「キモいとか言うな! ヘコむやろ!」
「てか、キモ過ぎて目が覚めたわ。ホンマなんやろうな・・・はは!」
「なんで笑っとんねん!?」
「いやぁ……焦ってもしゃーないやん?とりあえず落ち着こや?」
「あぁ……せやな。言う通りやわ……」
青葉は大地とお揃いの腕輪をつけていたショックで、完全に頭が覚醒した。
その事に釈然としない物を感じながら大地はその事を頭の隅に追いやった。
大地は冷静になって考えてみた。いつも時計をつけながら寝ているのだ。
それが、気が付くと大地の腕には時計ではなく、赤色の腕輪がついてあった。
そして、何故か青葉の腕には青色の腕輪があった。
目の前にある景色は見覚えのない景色。
すべてが大地の理解を超える出来事なのだ。
冷静に考えれば考えるほど頭が痛くるのを感じた。
大地は少し冷静になり、自らの腕についていた腕輪を確認した。
赤色の革で作られたバンド。そして、手の甲側についた銀色に輝く鉄のようなプレート。
そしてプレートには不思議な模様が施されていた。
腕に吸い付くようにつけられた腕輪を大地は外そうと試みたが、バンドには外すための金具はついておらず、隙間がない為外す事は難しいと判断した。
そして、大地は腕輪を外す事を断念すると、次に寝る前には腕にあったはずの時計を探す。
青葉は大地の様子を見ながら、淡い水色のカーディガンを羽織った。
そして青葉も大地の時計探しを手伝う。
しかし、大地の時計はどこにもなかったのだ。
「くそー……優子とのお揃いやったんやぞ!」
「ほな、いらんやん。このキャンプを傷心旅行とか言うて忘れたる! とか言うたんなんやったん?」
青葉は呆れた顔をして手をひらひらとさせた。
それに大地はむっときて身を乗り出して応じた。
「それとこれとはちゃうやん?」
「近いって! まぁ、好きにしたらええけどさ。なんか俺も加奈子とのペンダントなくなっとるしな。」
「お前もか・・・もうなくなったもんはしゃーないか。」
青葉は大地の時計を探している最中に自身のペンダントがなくなっている事に気が付いた。
大地の時計と同時に探していたのだが、テント内のどこにもそれらしきものがなかったのだ。
「ま、そんな事より現状把握が先やろ?」
「ホンマやな。こんな時に青葉が居てホンマ助かるわ」
青葉にとってもペンダントは大切なものであった。
だが冷静に考えてそれ以上に優先すべき事があると判断したのだ。
大地は素直に冷静に判断できる青葉に賞賛の言葉を贈った。
大地は時計を探すのをやめると、いつもの癖で腕輪のプレート部分を触った。
すると、腕輪のプレートが一瞬輝き、見た事もない透明の小さなモニターが腕輪のプレートの丁度上の辺りに現れた。
「……は?」
「え?なにそれ?」
二人は目を白黒させながら、突然改めたモニターを凝視した――