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プロローグ



色々な事があった。


普通の女子高生をしていた、あの頃が懐かしい。

走馬灯の様に浮かんだ思い出に上がった口角を、彼女はあえて消さなかった。


目の前には男がいる。


全身黒づくめの古臭いコーディネートに身をつつんだそいつは趣味の悪い仮面をつけているせいで、表情がわからない。

だけど何となく雰囲気でわかる。

男は多分、笑っている。


勇者じぶんと同じ様に。


「一応、言っておこうか。よく来たな、勇者」

「あぁ、本当に随分苦労したよ」


元の世界のゲームの様な言葉を発してくれた事が何となく嬉しかった。ならばと、それに乗りたかったが残念ながら彼女にはあまり、その手の知識がない。


だから、ここからはオリジナル。他人が考えたものではなく自分の言葉で物語を紡ぐ。


「私も一応、言わせて貰うけどどうしても戦うの?」


仮面で見えない男の顔が確かに笑った気がする。それは気のせいではなく彼は自分の命を狙うものの前で、肩を震わしながら笑った。


嘲るでも馬鹿にするでもない、心の底から笑い声なんて聞いたのは、いつ以来か。つい嬉しくなって笑いそうになったものの男が抜いた剣に、ゆるんだ気を引き締めた。


「それは俺の台詞だろ。俺は戦うしかないしな」


もっとも、それはお前も同じだろうけどと静かに呟く彼には、もう巫山戯た雰囲気はない。事実だ。


男に遅れて彼女も剣を引き抜いた。巷では聖剣などと呼ばれている忌々しい剣であり、同時に元の世界に戻る為の鍵でもある。


そして、これが鍵としての力を発揮するのに必要なのが目の前の男の命。


正直な事を言えば、人一人の命を奪ってまで帰るのにかなりの忌避感がある。だけど、帰りたい。


相反する気持ちは矛盾となり心の隙となる。でも彼はそれを許さない。


「遠慮するなよ。尻ごむな、躊躇するな。お前はお前の、俺は俺の為に戦うんだからな。自分の為に相手の命を消費しろ。死んだら死んだで文句言うな」

「でも……」


言いかけた言葉を噤んだ。


勇者は知っている。この男がゲームや漫画の様な悪ではない事を。

だからと言って正義とは、とても言えないが少なくとも彼が自分の為に戦っている訳ではない事を。


しかし、勇者は剣を構えた。


こちらの世界に来たばかりなら兎も角、今はもう彼の気遣い位はわかる。ならばこそ年上の男の言葉に甘えよう。


胸を貸して、貰おう。


「元の世界に戻りたい」

「あぁ」

「こんな世界にいたくない」

「あぁ」


「だから私は、お前を、殺す」


自分への確認であり覚悟を決める為の言葉はとても冷たい。だけど彼は当たり前の様に受け止める。


「あぁ、やれるもんならやってみろ」


そんな言葉は聞き飽きているのか。いや、彼はきっと彼女の思いを汲み取っているのだ。


だから勇者は聖剣を構え、飛び掛った。


無言が礼儀と言わんばかりに剣を振るう。


振り落とされる白刀と黒色が交叉した。


重なり合わぬ勇者しろ魔王くろ


ここから先に言葉なんて必要なかった。


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