表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏  作者: さくら みやこ
第一章 ひとりの恋
3/6

2 修学旅行の班決め



「……というわけで、今日のLHRは修学旅行の班決めでーす」

「いえええええええい!!」

「フゥゥゥゥ!!」


 美桜と琴音が互いの恋を打ち明けあった日の六時間目、美桜たちのクラスは皆浮き足立っていた。というのも、先ほどの担任の発言である。

 十一月の中旬に予定された修学旅行。美桜の高校は代々、三泊四日の京都行きだ。今回が初京都の者はもちろん、中学時代にすでに京都に行ったことがある者も、二ヶ月先のこの旅行をとても楽しみにしている。

 美桜と琴音も、修学旅行を楽しみにしていた。二人とも京都は二回目だが、一度行くとまた行きたくなるような魅力が京都にはある。

 それに何より、恋をして行く修学旅行は特別だ。水谷先生は三年生の副担任なので引率で行くことはないが、琴音の好きな北山は同じクラス。もしかしたら、もしかすることだってあるかもしれない。


「一日目は移動と施設見学、二日目は全員で平安神宮やら何やらを見て回る。そして三日目が、お前らの楽しみにしている自由行動だ」


 担任の説明で、再び教室が湧く。おい、まだ四日目の説明終わってないぞー。先生早く班決めしようよー。そうだよ時間なくなるじゃん。ああもう仕方ない、じゃあ分かれろー。

 担任の言葉を合図に、おのおのが親しい友達と集まり始める。美桜も琴音と二人で固まって、旅行の話しに花を咲かせていた。美桜たちのように二人で固まる者から十人の大所帯まで、わいわいがやがやしている中で、ある生徒が声を上げる。ていうかこれ、何の班だよ? 一班何人? 男女混合? 先生しっかりしてよー。

 ああ悪い、と担任。汗をふきふき、再び説明を始める。


「今日決めるのは行動班だ。自由行動とかバスとかはこの班で行動してもらうからな。それから五人一組、男女混合だ」


 その説明で、教室は三度目の熱狂に包まれた。美桜と琴音もにわかに顔を見合わせる。どうする? 男女混合だって。余った人とでよくない? ええっ、でも琴音、北山くんと一緒になりたくないの? うーんでも、相手の都合もあるしさ……。

 二人が小声で相談し合っている中、美桜は不意に誰かに肩を叩かれて振り向いた。


「あ、村田くん」

「やあやあ古川さんに栗原さん。もしかしてまだ班決まってない? よかったら俺たちと組まない?」


 見れば村田くんこと村田春樹が、満面の笑みで手招きしていた。村田は北山と同じバスケ部で、エースでこそないがスタメンに選ばれたと騒いでいたのを覚えている。そういえばこの二人、教室でも仲よかったな。そうして美桜ははっと口を押さえる。村田の隣に、やや呆れた表情をした北山がいたのだ。


「こっ、琴音!」


 ぴょん、と美桜は跳ねて、琴音の制服の袖をつかんだ。琴音もどこか複雑な表情で頷き返す。美桜は嬉しくてたまらなかった。男女混合と聞いたときから、北山たちと同じ班になれれば、と思っていたのだ。琴音のために、一肌脱ぐんだ。

 ひとり意気込む美桜と、複雑な表情のままの琴音の前で、村田はずっと焦れたように突っ立っていた。


「古川さん、笑顔になる前に返事カモン! 栗原さんも嫌そうな顔しなーい。ほらほらぁ、颯太だって焦らしプレイは嫌いでしょ?」


 そう言って村田は調子よく北山に話を振る。いきなり振られた北山は、しかしそれには慣れたようすで答えた。


「春樹のそのテンションに引いてんだって。古川、俺たちとでいいか?」

「えっ、うん。いいよね、琴音」


 うん、と琴音が頷いて、美桜たちは北山たちと同じ班になることが決まった。五人一組だから、あと一人。一人誰か余ってる人いないかな、と美桜たちが教室を見回す隣で、村田が先の北山の発言を受け、調子よく反論している。颯太ったらひどーい、冷たーい。ほらほら、そのノリだって。えーいいじゃん、俺面白いし。いつも思うけど、どこから来るんだよその自信は。俺はビッグな男になるんだよ、今のうちにサインもらっとけよぉ? 全力で遠慮するわ。

 そうこうしているうちに、美桜たちの周りではいくつものグループが出来上がっていた。彼氏彼女でくっつく班、余り者同士で集まる班、集まったはいいものの男女で分裂している班。それらをうきうきした気持ちで眺めながら、美桜があと一人を探していると、その袖をきゅっと引く者があった。


「……野口さん?」


 振り向いて問うと、野口さんと呼ばれたおかっぱ頭は怯えたように一歩下がって頷いた。


「その、私も、いい……かな」


 人見知りなのか、野口さんはスカートの裾をぎゅっと握ったまま言う。その声は若干震えていて、どこか巣に隠れる小動物を連想させた。美桜と同じくらい背の低い彼女は、逆に背の高い北山たちから見たらさらに小動物っぽく見えただろう。それは美桜より何センチか背の高い琴音も同じだったようで、明らかにきゅんとしているのが分かる。


「野口……沙也香ちゃん、だったよね? もちろんいいよ! 沙也香ちゃんも私たちと京都回ろう! ね、いいよね、村田くんに北山くん」


 どうやら沙也香は琴音の母性本能をくすぐるらしい。有無を言わさぬ琴音の言葉に、村田たちも頷く。もとより反対するつもりもなかったらしい。


「じゃあ、俺らの班は俺、古川、栗原、春樹、それに野口の五人で決まりだな!」

「うん!」

「やったぁ!」

「よっしゃ!」 

「…………」


 最後は北山がまとめて、修学旅行の行動班が決まった。それぞれが順番に返事をして、来たる旅行の日に想いを馳せる。叶う恋、深まる友情、新しい出会い。これから先、きっと夏のように眩しい日々が待っているだろうと、彼らは信じて疑わなかった。

 LHRはそんな感じであっという間に終わり、担任の指示で自分の席に戻る。その間際、美桜は村田にあることを耳打ちされる。


「俺、古川さんのお姉さんのことが好きなんだよね。だから色々教えてよ」


 ウインクして去って行く村田に、驚いて声も出せない美桜。恋は思わぬところにたくさん転がっていて、前ばかりを向いて歩いていると、落ちていた誰かの恋に気付かずに、踏んづけてしまったりする。

 もしかして、村田は美桜の姉の情報目的で美桜たちに歩み寄ったのか。美桜はそんな思案をしながら、村田の隣で呆れ顔をしていた北山を思い出してひとり納得した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ