[chapter:2-2]
俺の目の前には宙に浮いた幼女がいる。
重要な事なのでもう一度言おう。宙に浮いた少女がいる。
挙動が変だとか、空気が読めないと言った生易しい物ではない。地に足が付いていないと言っても浮き足立っていると言っても70センチから1メートル位か。地球の重力に逆らってぷかぷか浮いている。
「どうじゃ。少しは楽しめたじゃろ?ほーれヨシヨシ、ラッシー君おっと、マロに跳びつくでない。」
パペットマジック用のラクーン人形を巧みに操り、俺に跳びつくような動作をさせる幼女。それをポカンと見つめる俺。幼女の方は宙に浮いていること驚いている俺などお構いなしに人形を操る。
「な、なぁ、何で宙に浮いてんだ?お前。」
「おぉ、ようやく話してくれたか。まぁ神じゃからな、それよりどうじゃ、今度は面白かろう?」
パペットの動作を止め、エヘンとした態度をとる神。
「わかった、とりあえず。話は聞こう。宙に浮かれていては話しにくい。とりあえずそこ座ってくれ」
と、俺は保健室の丸椅子に彼女を座らせる。確かに普通ではない。が、しかし、普通でないことと信用することという事は全くリンクする内容ではないからだ。
俺も対向の席に座り、相手より先に話を切り出した。
「で、俺に何のようだ?」
こういうときに話の主導権を相手にとられてはならない。
「そうじゃ。それじゃ。少し、超魔術に夢中になりすぎてしもうた。実はじゃな・・・」
「チョイ待ち。お前の名前、聞いてなかった。神って言うのが名前ってわけじゃないだろ?」
話し始めようとする彼女には悪いが、そろそろ名前を聞いておかないと、聞くチャンスを逃してしまう。
「名前かぁ・・・」
「そう名前。聞いとかないとさ、ホラ、話しにくいだろ?」
「名前のぉ。考えとらんかったわ。なんと呼びたいか?」
ハァ?何言ってやがるんだこいつ。
「じゃ、チb」
ガツン。
椅子に腰掛けてぶらぶらしていた足が俺の顎を目掛けて一閃。
「っテェ!何すんだ!初対面の他人様の顎目掛けて一蹴り咬ますとは、どういう教育受けてんだ!」
「何を言うか、初対面をチビ貧乳揺れない震源地呼ばわりするとは、言語道断なのじゃ。そうじゃな、妾の事は「アコ」と呼べ。うむ、良い名じゃ。」
人を蹴り倒して自分の名を良い名だとは、俺のことは一切心配してないのね、あと、もしかして、今、俺の顎を蹴ったからアコ・・・なんて事はないだろうな・・・。
「で、アコ・・・さん?このフラれ街道爆進のこの俺に何か用か?」
その言葉待ってましたと言わんばかり、アコはニッと白い歯を見せる。
「のう少年、自分を変えてみたい、とか変わりたいとか思ったことはあるか?」
「・・・何が言いたい?」
「だから、今の自分嫌だー!とかこんな自分消えてなくなってしまえーと言った気分になったことあるかと聞いてるのじゃ。」
そんなの決まっている。今の自分に満足できる人間などいる筈がない。そもそもそんなジブンスキーな平和な人間、居るのだろうか。
「そんなの、しょっちゅうに決まってるだろ? 今現在、フラれたてで、この世から消えてしまいたいと思ってるよ。」
「じゃろ、じゃろぉ?そんなお主に、ピッタリのものがあるのじゃ。」
と言ってアコは少し真剣な顔になる。
「なぁお主。未来は知りたくないか?」
「ハァ?」
「だからの、未来のことを知りたくないか?」
「お断りします。」
「えっ、えっ、未来が判るんじゃぞ?なんで、断る理由なんてあるんじゃ?」
「そんな雲散臭い物にだまされる俺ではありません。未来が見えるとかいって、そっちが何か色々仕込んだりするインチキ商売だろ?そういう類は断ることにしているんで。」
「いや、絶対ないない。そんな事。こっちが用意するのはお主に未来が判るようにする能力だけじゃ。よくあるじゃろ?ラスボス系が持っている未来が見えると言った時間系の能力。」
確かに、未来が見えると言ったゲームのラスボスは多い。主人公の攻撃を悉くかわし、仕舞には裏の裏までかいて主人公をボコボコにすると言った展開に持っていく能力である。・・・そして月並みに「未来が変わったー」とか言いながら主人公に倒されてしまうのだが・・・。
「ホントか?」
「うんうん、ホントじゃ。未来が見えるのじゃ。便利じゃぞ~何から何まで解ってしまう。そんな気分になりたくないかえ?」
確かに。もし本当に未来が判ってしまうのなら、馬券の番号や、株の取引とかの結果も解る事になる。という事は・・・・大金持ちも夢じゃないじゃないか。
「う~んしかし、怪しいな、何で俺なんだ?」
この疑問が解決出来ていない。何で、何を持って、何が理由で俺に能力など授けようと思ったのか・・・
「い、いや・・・その・・・・。」
「ん?何か言えない様な事でもあるのか。」
いきなり流暢な口調だったアコの歯切れが悪くなる。
「いや、お主にはこの能力があまりにピッタリすぎてだな・・・見惚れてしまったのだよ。なかなかいるもんじゃないぞ?能力と人間の質がマッチしているなど。」
そう言いながらも彼女の目は泳ぐ。視線が俺と合わず、猛烈に避けようとしている。恐らく何か大変重大な隠し事があるのだろうが、ここで聞き出すのは至難だろう。ここは断るシーンであろう。だが。
「え、ラスボス級の特殊能力が俺にピッタリでマッチしているだって?いや~照れるなぁ。それに見惚れるだなんて、ウエッヘッヘッへ。」
残念なことに、俺は褒められなれていない。だから褒められたり、おだてられた在りすることに猛烈に耐性がないのだ。
「じゃからな、チョット位いいじゃろ?のぉ?」
そして、女の子の上目遣いにも慣れていない。これだから童貞は・・・。
そうだな、チョット位なら・・・。
「えぇい、わぁったわぁった。チョットだけだからな。」
するとアコは、ニッと白い歯を出し、満面の笑みを浮かべた。
「おぉ。では少年、契約成立じゃ!よろしくの!」
と、意味深な台詞と同時にアコが指をパチンと鳴らす。
すると俺の足元に意味深な六亡星の魔方陣が浮かび上がる。
さらにどういう訳か、俺の周りの魔方陣内不思議な黒い煙が発生する。
「わっ、ちょっと、ちょちょちょっと」
「わーわーきこえないきこえない。まぁ気にすることのーて。あと、ちっとばかりチクッとするが、全く気にするでないぞ!」
そう言いながらアコは手を天上にかざし、えいっと俺に振り下ろす。
すると、黒い煙から突如発生した電撃が俺に襲い掛かる。
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
騙したな…と思うゆとりもないまま俺の意識は混濁し、暗転する。
やはり、こんな意味不明に足を突っ込むんじゃなかった。本日二度目の薄れ行く意識の中、俺はそう猛省した。
後悔先に立たず。