表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それぞれの正義  ー俺の正義ー   作者: ヨシア
第2章 プレゼントは何より気持ち
7/12

No.6

 *********




 茜が丘、裾区。


 海に面し大きな港があって、いつも人や物で賑わいを放っている。


 その分怪しげな船もあり、犯罪の匂いがすることもある。そういう船には、用心棒として能力者を雇っていることが多い。



 だから、裾区の見回りは大事なんだ。


 と、俺は頭の中で結論付けて自分の行動を正当化した。

 裾区は、第三部隊若人(ユース)の隊長であるこの俺、神木総司がした方がいいに決まっている。



 ──なんて事を考えながら、雪下と俺は坂を下り裾区までやってきた。バスを利用し、25分ほど。裾区と峰区のTSAが人出不足なので借り出されている身だ。



 巡回は俺と湊が別になるのは、事前に決まっていたことだ。

 しかし、峰区か裾区に行くかでどちら──橘か雪下──と組むのかが変わってくる。


 ここは湊に懐が広いところを見せてもらって、俺は雪下と組んだ。



 はっきり言ってしまうと、巡回なんてあまり意味がないのだけど。ちなみに拳銃は持ち歩いていない。


 警察に見つかったらTSAである事を証明しなければならない上に、周りに白い目で見られる。


 


 裾区は休日ということもあって中央区ほどでもないが、かなりの人だかりだ。


 民家やマンションも多いうえに、スーパーなども立ち並んでいる。


 坂を下っていると、正面に見える海面が太陽の光りを反射させている。遠く彼方には大きな船も見えた。




 「総司君。この前あった能力測定どうだった?」


 裾区に辿り着き、海の近くの歩道を歩いていると雪下は言った。


 道路にはかなりの車が駆けていた。この道は隣町に通じている。



 「判定はB。まぁ氷澤の特訓前の話だし、上がってると思うけど」



 その言葉を聞いて、雪下は羨望の眼差しを俺に送ってきた。


 「いいなぁ。私なんてまだB−なんだよ。そ・れ・と、氷澤さんを呼び捨てにしていいの?」

 と、少しニヤリ。


 「バレなければいいだろ。ってB−? それは……どの能力だよ?」

 雪下は

 「平均が、かな」

 と、二へっと笑った。



 海沿いの道を離れ、俺と雪下は少し街の方に進路を変更する。




 能力者が持つ能力にはランク分けがされている。

 上から順番にS、A、B、Cでその中で三段階に分かれている。


 能力は、鍛えれば鍛えるほど精度が少しづつ上がっていくことが多い。その鍛えるという行程が、恐ろしいほどの時間と体力を要する。


 最近の俺の様に無茶な鍛え方をすれば話は別だが。恐らく俺は、そろそろB+になろうというところだ。


 しかし、そう簡単にいくというわけでもない。能力者と能力の相性、コツ、精神状態や能力の本質の理解などで上がりやすさが左右されることもある。

 また、ランクA台になると何年かかっても上がらないことが多々ある。


 余談だが、氷澤のランクは殆どS−らしい。

 さすがといった感じだ。





 俺はふと思い出した。


 「雪下。そういえば湊のランク知ってる?」


 湊はあまりそういうことを話したがらないので、今回の結果も聞いていない。


 雪下はうーん、と唸ってから口を開いた。


 「確か、B+って聞いた気がする。あ、でもそろそろAが近いかも、とも聞いた」


 ランクA−とランクB+の間には大きな壁がある。湊はずっとそこで止まっていたはずだ。

 測定の度に湊がヤキモキしていたのを思い出した。




 ──そういえば。


 湊が傷一つ付けることさえできなかった大地変動(グラウンダー)

 俺が手も足も出なかった静かなる破壊者(バニッシュ)



 俺たちとの力関係から見て、あいつらはランクA−からA辺りか。





  くそ。






 「ねぇ、総司君。絵梨香ちゃんってどれくらいだと思う?」


 俺は雪下の問いにハッとして答える。


 「俺と同じぐらいだろ、たぶん。あんな能力今まで見たことがなかったけど」


 「影を操るんだよね。なんかすごいなぁ」


 黒髪の少女は、うんうんと頷きながら右手を顎にやった。





 その時、軽快な電子音が俺のポケットから流れ出した。


 え? 何々? という反応の雪下を横目に俺は携帯を取り出し、着信の表示を確認。


 湊からだった。


 何かあったのかなと、訝しみながら俺は電話に出た。


 「はい、もしも」

 「能力者を発見。コンビニの前で爆発系の能力を使用。今すぐ合流しろ。場所は峰3区にあるコンビニだ」


 「了解」


 とは言ったものの、湊が聞こえたかどうかくらいで電話を切られた。


 峰3区っていうと、峰区の真ん中か辺りか。



 「湊君なんて言ってたの?」

 横からそう尋ねる雪下に、

 「呼び出しだ。峰区に行く」

 と応じる。



 飛ぶぞ、と俺は一声掛けてから雪下の腕を右手で掴んだ。


 「ええっ⁉ 本当に!?」


 という彼女の声を聞きつつ、集中する。


 ざっと高さ15m、水平距離で40m程を俺は能力(テレポート)を使い、雪下と移動した。

 体が再び現れた瞬間に再び使用する。

 俺たちは峰区に向かって行った。


 街の上空を【瞬間移動(テレポート)】で飛ぶのは爽快だ。



 俺の目にはテレビの場面が移り変わる様に、街の風景が写っていた。


 この前の金髪ピアスによる事件──事件と呼ぶには大袈裟だが──があった地点も通過する。



 中央区を飛び越えて峰区まで辿り着いた。


 その間というか今も、雪下は黙りっぱなしだった。

 能力発現時の俺の集中を削がないためか? 

 なんて思ったが、雪下を見ると顔面蒼白で眉間には何重にもしわ寄せて閉じていた。


 雪下が高い所苦手なの忘れていた。



 「そろそろ着くぞ」

 雪下に声を掛けた。

 「う、うん……」


 繁雑に立ち並ぶビルが視界を塞いでいたので、見つけるのに少し手間取う。というかわからない。


 「雪下! コンビニどこかわかる⁉」


 横目で彼女を見ると、目をうっすらと開けている。そして、覇気を感じない声で

 「た、たぶんもうちょっと左」

 と、進言。



 その言葉通り俺は進路を左に変えた。




 その後ようやく峰3区のコンビニを俺の目が捉えた。

 



        ────



 総司に連絡してから、湊は峰3区に警報を出した。


 火事などであれば野次馬が大量にいるだろうが、今回は爆発。

 かつ、能力者によるもの。


 その事がわかった瞬間に通行人は、瞬く間に周辺から消えた。

 警報は必要がなかったと思わされるほどに。

 道を走っていた車でさえ姿を消した。それは警報の影響だが。



 よく見ると、爆破されたのはコンビニの前のゴミ箱で、負傷者は見当たらない。



 「橘。行くぞ」


 「わかってるわよ」


 能力を発現したと思われる男は、コンビニの前で何か恍惚とした表情で立っていた。

 ぱっと見、大した特徴もなく平凡だ。



 湊は男の前に立つと、拘束する旨を伝えた。

 理由としては前に金髪ピアスを捕まえたのと同じだ。



 その言葉を聞いた男は、顔に微笑を浮かべた。


 「へー。TSAってこういう時はすぐ来るんですね」


 微笑はしているが、言葉はどこか針で突き刺すような声色だった。


 「……どういうことかな」

 湊は眼鏡を押し上げる。



 「そのままの意味ですよ。TSAは一般人を取り締まるばっかりですもんね。この前もそうでした。

 ……有害な能力者がのさばって誰かを苦しめているときには、ほとんど来ないのに……!」


 男の表情はクレッシェンドの様に、微笑から憎悪に移り変わった。



 それを見て、橘の目つきは鋭くなる。


 「まぁ、話は後で聞くから……。拘束させてもらうわよ」


 「橘。落ち着け」


 「あんたの話も()で聞くから」



 橘は言葉と同時に能力を発現。

 【冥暗駆使(シャドーワーク)】だ。

 彼女の影が蠢いたかと思えば、幾つもの真っ黒な針となって男に襲いかかった。



 男は目を見開いて硬直し、全ての針が彼の服を貫いた勢いそのままで、地面に叩きつける。

 背中を地面に叩きつけられたせいか、男は激しくむせていた。



 「焦りすぎだ。もう少し、周りを見ろ」

 湊が苛ついた口調でそう言った。

 

 「いいじゃない。結果オーライでしょ」


 「そういう事を言ってるんじゃ……」



 橘は得意げに男に近づいた。真っ黒な針は服に刺さったままだ。


 「水崎。説教は後にしてくれる? 今はそういう時じゃないでしょ」


 長い髪をかきあげてそう言った。


 湊は眉間に皺を寄せる。



 それとは対照的に地に伏せた男は、含み笑い──。



 湊の頭に嫌な予感が走った。


 「橘! そいつから離れろ!」


 はぁ? 何言ってんのよ? と彼女は聞く耳を持たなかった。

 湊は、彼女に近づき腕を引っ張った。そのまま男から引き離す。


 「離しなさいよ!」

 「いいから! はや」

 湊が言葉を言い切ろうとしたその時、



 ──橘と湊を爆発が襲った。




     ────────



 俺が2人を見つけた瞬間、2人は爆発に巻き込まれていた。



 「湊!」 「絵梨香ちゃん!」



 俺は急いで、吹き飛ばされた2人に駆け寄る。橘は膝に怪我を負っていた。



 湊は……気を失っていた。橘を庇ったのか。



 俺は2人が男から見えないような位置どりに立つ。そして、周りを確認。


 俺の目は捉えた。

 

 コンビニとビルの隙間から茶髪の軽薄そうな男が現れるのを。

 そいつに向かって寝ていた男が口を開く。


 「しっかりと仕留めて下さいよ。なんのために僕が囮になったんですか」


 「悪い悪い。あの眼鏡中々勘が鋭くてさ」


 口だけで謝罪する茶髪の男。



 状況から察するに、湊と橘はどうやら嵌められたのか。


 俺は視線を2人から逸らさずに雪下に話し掛けた。


 「2人を治療。それと峰区からの応援の要請。急げ!」


 雪下からの返事がない。


 それに苛立ち、振り返った。

 「おい! 雪下!」


 彼女はどこか呆然として立っていた。よく見ると足元が震えている。

 「……ご、ごめんなさい! い、今すぐするから」

 

 雪下は2人に駆け寄る。



 それを見た俺は、再び視線を前に戻した。


 相手は2人。恐らくどちらも能力は爆発系。

 俺は、ポケットから鉄球を数個取り出した。



 「拘束させてもらうから」


 その一言だけを掛けて鉄球を投げるモーションをする。


 どうやら当たらないと油断しているのか、全く身構えない2人。

 その油断が命取りだ。


 鉄球が手から離れる直前にに能力を発現。

 転移場所は奴らの前2m。できる限り生身の部分(顔以外)を狙う。



 それが現れた直後、奴らは驚愕に目を見開いた。

 転移された鉄球は2人に驀進(ばくしん)する。


 「なっ!?」 「はぁっ!?」


 俺の目論み通りに鉄球が直撃し、痛みに顔を顰めた。


 鉄球だけじゃ無理か?


 茶髪の男が口を開いた。

 「いってぇ〜。なにあれ? 【瞬間移動(テレポート)】?」


 「そうだと思いますけど……。初めて見ましたよ」



 2人はどこか余裕を持った態度だった。まるで何かあるかのような──


 俺は脳内で(かぶり)を振り、攻め始める。



 能力を発現し、2人の懐に潜り込む。


 「っ……!」


 慌てふためく2人を尻目に茶髪の顔面に右ストレートを繰り出す。


 「はぁぁっ!」






 俺の右手が奴に触れようとするその刹那、俺は目の当たりにした。


 前の路地から現れた男を。そして、口の端をあげて手を掲げる。



 二重トラップか──




 全身を殴られたかのような衝撃が俺の体を走り抜ける。

 それからすこし遅れて来る熱気。



 俺はほとんど反射で後ろに飛ぶ。能力を使うことさえ忘れていた。


 「はぁ……、はぁ……。くそったれ」



 二重トラップは予想外だった。

 俺の体は、あちこちが悲鳴を上げていた。

 モロにくらったのは痛すぎる。



 「ほら、早くとどめをさせよ(・・・)

 茶髪がそう軽口を叩く。新しく出てきた男に向かって。


 その言葉で俺の中に疑問が湧いた。



 もしかして、爆発系能力者は新しく出て来た奴だけなのか?


 新しく出てきた男は、帽子を深く被っていた。

 ゆっくりと歩き、2人と並ぶ。

 「まぁ、そう焦るなって。せっかく能力者、しかもTSAだぜ」


 その言葉を聞いて、男達3人の顔に薄ら笑いが浮かんだ。


 「じゃあ、とりあえず鉄球のお返しだな!」


 茶髪の男が心を躍らしながら一歩ずつ近づいてくる。


 対抗しようと構えるが足元がおぼつかない。

 俺は自分の情けなさに業を煮やした。

 


 「ほらよ!」

 茶髪が蹴りをいれてくる。


 ガードをするが耐えきれずに、俺は地面に伏した。


 「ははっ。もうボロボロじゃねぇか。ほら、もう一発くら……なぁっ!?」


 声が途切れた?


 俺は顔を上げて男を見ると、数m飛ばされレンガ仕立ての地面に倒れ込んでいた。


 俺の横には




 ──湊がいた。



 額から血も出ている上に右腕の怪我が酷い。

 しかし、眼鏡の置くの目から出ている鋭い眼光が3人を突き刺していた。



 「総司。ちゃっちゃっと片付けるぞ」


 俺はさっきまでの痛みを忘れて笑みを浮かべた。

 「わかってる」



 湊が男を殴り飛ばしたので、あっという間に1対3から2対2だ。



 相手の2人は目に見えて狼狽していた。元々不意を打つことで蹴散らそうとしていた奴らだ。


 不意打ちなしの能力戦ならこちらに圧倒的に分がある。



 取り出した鉄球を手で弄ぶ。

 「やるぞ」


 

 「あぁ」

 湊は眼鏡を押し上げて頷いた。




 ──結果として俺と湊は怪我をしている事も忘れたかの様に暴れ回った。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ