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それぞれの正義  ー俺の正義ー   作者: ヨシア
第2章 プレゼントは何より気持ち
5/12

No.4

      *********






 3月上旬ーー



 「残り5分」


 教室に残り時間を示す声が響く。窓の外を見ると、遠くまで見渡すことができるほど綺麗に晴れていた。



 俺こと、神木総司は休日にも関わらず学校にいた。

 何をしているか、というとテストである。ちなみに数学の確率だ。





 あのミッションの後、俺は入院した。どうやら能力の酷使が体にきたらしい。


 それと、あの時の記憶がかなりあやふやだ。どうやってあいつらを退けたのか、途切れ途切れにしか覚えていない。

 湊に聞いても答えてくれなかったので、結局どうなったかわからないままだ。



 だが、そのツケである追試を受けているとそんな事を蒸し返してしまう。

 受けたくなかったが。

 しかし、進級が懸かっているためサボるわけにはいかない。今回の追試の勉強に湊の力を借りたのは余談だ。




 「やめっ。じゃあ神木。解答用紙くれ」


 試験監督の若い教師が欠伸をしながらそう言う。

 俺の為に休日出勤なんだよな……。かなり申し訳ない。


 「先生もお疲れ様です」


 「うん。神木も災難だったな。1ヶ月も怪我で入院だなんて」



 「仕方がないですよ。事故なんで」


 息をするように嘘を付いた。


 「そうだな。じゃあ気を付けて帰れよ」


 「はい」


 若い教師は再び欠伸をしながら職員室に戻って行った。


 

 




 学校を出た俺は、組織の建物に向かう。今はそこの寮で暮らしている。



 組織──Troops Special Abilities、要するに特殊能力部隊での俺の活動は、学校に伏せて、ボランティア的なものと言っている。

 俺の能力に関しても言っていない。


 どうやら、TSAの上層部の方針らしい。隠しといた方が良いとは俺も考えている。通っているのは普通の公立高校。

 事情が事情なので融通が効かないだろう。特に生徒指導の先生とか。


 俺は校門を出て街に繰り出した。



 煩雑に車が行き交う道を横目に、ビルが隣接している歩道を歩く。

 30分ほど歩く必要があり、普段はバスなのだ。しかし、今日は寝坊し、乗り遅れたので湊に頼み込み車を出してもらった。


 【瞬間移動(テレポート)】を使えば早いのだが、そういうわけにはいかない。TSAの規則により、街中での能力の使用は極力控えるように言われている。


 もし使っても、後々TSAのメンバーにばれて罰則を喰らうのが関の山だ。


 それにしても休日に制服を着た俺が珍しいのか、道行く人にジロジロ見られた。



 天気は随分と穏やかで、これが2、3日続くと予報で見た。

 3月に入ったといえども、寒い日もあり追試と重なってかなり萎れていたが、今の俺はまさに水を得た魚だった。


 凛として歩いていたが、内心お花畑でスキップでもしている気分だ。



 湊に柄にもないね、とでも言われそうだったが気にしない。


 気持ちが良かったので、久々に俺は歩いて帰ることにした。



 少し歩いていると、横を歩いていた20代ぐらいの男2人が話しているのを聞いた。


 盗み聞きではない、聞こえたんだ。

 と、内心で弁明しつつ耳を傾ける。



 「ほんとなんだって。無能力者でも能力使えるらしいんだよ」


 「そんな分けないだろ。能力者なんて全人口の4割ないくらいじゃん」


 「いや、今ネットで話題なんだよ。能力を譲渡します、ってさ」


 能力を譲渡?

 そんなこと出来るやつなんている訳がない、と俺は知らん顔。



 結局、そんなことを忘却の彼方に流し、歩みを少し早めた。



       ────





 学校から15分ほど歩くと、この街──茜ヶ丘の中心地に辿り着く。休日だけあって、かなりの人だかりだ。


 人口200万人の大規模な街だしな。交通の中心になっている駅もあるし。


 俺は出来るだけ人だかりを避けて歩く。歩道がごった返しているので、意味はないが。


 辺りを見回すと、何やらショッピングモール前の広場でかなりの人だかり出来ていた。

 気になった俺は近づいた。


 何かが視界に入り、上を向くと上にペットボトルが投げあげられていた。




 数秒間のタイムラグ。


 放物線の高さの最大限に達した瞬間、それが爆発(・・)を引き起こした。

 大した規模ではないが、かなりの音だ。

 俺は、両腕で顔を覆う。



 この爆発……。まさか、静かなる破壊者(バニッシュ)か?


 あのミッション以降、俺は爆発などに関しては、少し神経質になっている。

 爆発の威力が静かなる破壊者(バニッシュ)にしては、若干お粗末だが。



 すると、その人垣から歓声が沸いた。

 よく聞くと、すげぇ、俺も欲しいな、本当なのかよ、などなど。


 俺は人垣を掻き分け、その中心にいる人物を見ようとした。




 ──安堵と警戒の気持ちが7:3。

 中心人物を見た時の俺の心境だ。

 とりあえず静かなる破壊者(バニッシュ)でなくて良かった。今あいつを相手に勝てる気がしない。


 中心にいるのは、お世辞にも柄が良いとは言えない風貌の男だった。


 金髪にピアス。周りにいる奴の仲間も言ってしまえば、不良というカテゴリーに属するだろう。


 状況を何となく、本当になんとなく把握した俺はつい溜息をついた。

 どうせ能力を使えるくせに、使えない奴を装って注目を集めたかっただけだろ。



 とりあえず……。仕事だ。


 街中での能力の発現は、攻撃系に関して禁じられている。危険だから。

 他の能力も一応禁止されているが、発現している事に周りが気づけないため、野放し状態だ。



 俺は人垣から少し離れ、金髪ピアスを見える位置に陣取った。


 そして本部にいるはずの湊に携帯電話で連絡する。もちろん、金髪ピアスを監視したまま。


 応援はいらないけど、拘束器具を持っていない。学校に手錠なんか持っていく奴なんか普通はいない。

 もしいたら連れて来い。殴ってやるから。



 「……こちら神木。……湊?」


 「は、はい? ……こ、こちら湊君の通信機で、です」

 通信に出たのは女の子だった。可愛らしい声。

 湊の通信機に湊以外が出るならあいつしかいない。


 「……雪下(ゆきした)か?」


 「あ……。そ、その声……総司君? ど、どうしたの?」


 見知らぬ人相手に電話しているみたいにどもりまくっているが、俺は気にせず話を進める。

 「湊は?」

 「み、湊君だったら……。えーっと、氷澤(こおりさわ)さんを迎えに行ったはずだよ」


 何だって?


 「氷澤!? あいつ北部の犯罪組織殲滅作戦に参戦したばっかだろ⁉」

 「ふぇっ? な、なんでも氷澤さんがかなり大暴れしたお陰で、き、今日帰ってくるみたいだよ?」


 俺は軽い頭痛を催し始めていた。


 この前のミッションの時は中部の犯罪組織の殲滅に行っていたので、俺が氷澤の代わりに行ったのだった。

 なので、俺が静かなる破壊者(バニッシュ)と戦って入院していた事を氷澤は知らない。


 「……まさか。氷澤って電車で帰ってくる?」



 その瞬間、俺の背筋に悪寒が走った。比喩ではなく実際にだ。


 「よう、神木。まさかだけど……。俺のこと呼び捨てにしてないよな?」

 その声には氷の様な冷ややかさと、氷柱(つらら)の様な鋭さがあった。


 「そ、そんなわけないじゃないですか」

 冷や汗がこめかみを流れる。


 なんてタイミングの悪い……。ドS大魔王の参上だ。


 振り返ると、トゲトゲのの若干色素の薄い髪。針の様に鋭く細い目。その男の横には苦笑いの湊がいた。


 紛れもなく、俺が最も恐れている能力者。

  氷澤凍李(こおりさわ とうり)だ。



 「すまん、雪下。また後で」


 電話を切って氷澤と……ではなくて氷澤さん(・・)と向かい合う。


 「早かったんですね。氷澤さん」


 氷澤さんは口だけで笑ってみせた。目が全く笑ってないんですけど。


 「あぁ。骨のない奴ばっかでな。かなり退屈だったぞ」

 「お疲れ様でした。……ところで何なんですか? その服装」


 氷澤さんは何故か上下にスーツを着ていた。全く似合っていないけど。普段はもっとラフな格好なので違和感しかない。


 「ん? これか。上の奴らが着て帰れってうるさくてさー。……それをいうなら神木。お前もなんで制服なんだ? 今日は休日だろ?」


 墓穴を掘ったか……。

 「あー。今日追試だったんですよ」

 「……。お前そんな馬鹿じゃないだろ?」


 痛い所を突かれた。ミッションで怪我して入院していたなんてばれたら……。




     しごかれる。




 「総司は最近までミッションの怪我で入院していたんですよ。凍李さん」


 「湊‼ 何を言ってんだよ‼」

 さっきから黙っていると思えば。


 恐る恐る氷澤さんを見ると、満面の笑みを浮かべている。湊までニヤニヤしていた。

 そして大魔王の宣告。




 「帰ったら鍛えてやるからな」




 さっきとはうってかわって目まで笑っている。

 ほんと何してくれてんだよっ。



 俺が内心頭を抱えていると、湊は眼鏡を押し上げながら話しかけてきた。


 「それで、総司。何かあったのか?」


 本題を忘れていた。


 「街中で爆発系の能力を使っている奴がいたから拘束する準備していたんだよ」


 その瞬間、氷澤さんの目がエフェクトがかかったかの様に光った。


 「俺が拘束する」


 言うと思った。絶対氷澤さんがするって言うと思った。そんなわけにもいかないが。


 「俺がやりま」

 「俺がする」


 取りつく島もないみたいだ。内心溜息をつきながらも了承する。あくまでも内心だ。


 「……わかりました」


 俺は人垣を掻き分け、2人を金髪ピアスの所に連れて行った。


 周りの連中にかなり嫌な目で見られたが気にしない。

 そのまま中心に辿り着く。


 「氷澤さん」

 「あぁ。わかった。こいつだな」


 すると、金髪ピアスが目つきを鋭くしてこちらを睨んできた。


 「あぁ? なにこいつら?」


 湊が一歩前に出て高らかに宣言する。


 「こちらはTSAです。街中での能力の発現は違法ですので。拘束させてもらいます」


 それを聞いた瞬間周りの人垣が慄いた。

 しかし、対照的に金髪ピアスはニヤニヤ笑っている。


 「みんな〜。聞いたか? TSAだってよ。けどなぁ、今の俺じゃお前ら只の雑魚だよ。今からボコボコにしてやるからな。俺の能力の【爆発(ボム)】でな」


 男は落ちていた石を拾い上げ爆発させてみせ、ゲラゲラ下品に笑い始めた。





 それを見た俺は呆れ顔。湊は大きな溜息。氷澤さんは表情を変えずに佇んでいる。


 自分の能力を周りに見せ付けるなんて……。能力の対人戦闘に関しては素人なのか?


 無表情だった氷澤さんが、落胆したように金髪ピアスと向き合う。


 「はぁー。またこんな雑魚かよ……。やってらんねぇな。まぁ、いいや。行くぞ、2人共。水崎は周りの連中に気を使え。神木は念のため俺のサポート」


 「了解」「わかりました」


 湊と俺が順番に返事する。


 氷澤さんが右手を前に掲げた。


 「手加減苦手だから怪我しても文句言うなよ」


 「はっ。それはこっちの台詞だっての。……なっ、なんだそれ?」


 氷澤さんの右手からは氷が現れ始める。


 それを見て金髪ピアスは狼狽した。



 ドS大魔王改め、氷澤凍李。

 彼はTSA随一の能力者。能力は【氷使い(フロスタ)】。

 再び言うが、俺が最も恐れている能力者だ。




        ────




 サポートを命じられた俺だが、全く必要のない戦いだった。


 さっきからずっと金髪ピアスが物体を爆発させているが、氷澤さんが余裕で防いでいる。

 攻撃が単調すぎるんだよな。本当にこいつは能力者か? と、疑いたくなるような戦い方だった。



 TSA最強と言っても過言ではない、【氷使い(フロスタ)】の氷澤さんと、対人戦闘時は、能力に関する事は隠すという定石セオリーを全く無視している金髪ピアス。


 結果は火を見るよりは明らかだった。



 何回目かわからないほどの能力をまた発現する金髪ピアス。


 「くそったれ! これで……どう」

 「この雑魚が」

 氷澤さんは心底鬱陶しそうに吐き捨てた。





 「……っ。冷てぇ!」

 氷澤さんは能力を発現させ、金髪ピアスの両手を凍らせた。


 それに気を取られているうちに、ドS大魔王はそのまま距離を詰め、素人能力者に鞭の様に鋭い回し蹴りを横腹にくらわせた。


 金髪ピアスは数m吹き飛び、地面に伏せ落ちる。



 ……終わりだな。今のは俺でも耐えられない。



 「水崎。手枷よこせ」


 氷澤さんは湊から手枷を受け取り、そのまま金髪ピアスに近付いた。


 「今からTSAの本部に連れて行く。……ほら、立て」


 あんな蹴りを入れといて直ぐに立たせるのは惨い。そんな所でドSぶりを発揮すんなよ。

 案の定、金髪ピアスは立つのも苦しそうだった。

 しかしそれを無視する氷澤さん。



 「水崎。神木。本部に行くぞ」


 俺と湊は頷くだけで応じる。


 湊が車で来ていたので、それに乗り込む。

 運転手は、もちろん湊だ。免許取り立ての18歳。


 あ、雪下に連絡しておかないと。



 俺は携帯で雪下に、本部の玄関に出迎えを何人か用意してくれ、という旨の連絡する。



 こうして俺達は本部に向かった。



        ────



 車で5分ほど。俺たちはTSA本部に到着した。

 


 建物は5階建てで、本部・医療・研究関係、訓練場・測定場、寮がそれぞれA棟、B棟、C棟という風に3棟に分かれている。



 出迎えには雪下が玄関にいた。

 ブラウンのショートボブに大きなクリクリした目。若干危なっかしいところもある。


 俺は1人で大丈夫か不安になった。

 しかし、よくよく見ると後ろに数人控えていた。


 「お帰りなさい。あ、じゃあお願いします」

 金髪ピアスの連行は他数人に任せたようだ。

 湊は車を駐車場に置きに行った。


 車から降りた氷澤さんは、雪下を見るやいなや近付き、手を頭にポンポンと乗せる。


 「おー。雪下。元気だったか?」

 「あ、はい。氷澤さんもお疲れ様でした」



 俺は2人が会話している脇を通り抜けようとする。


 しかし、うまくいくわけもなかった。がっちりと氷澤さんに肩を掴まれる。


 「そんじゃ、後で訓練場」

 満面の笑みが顔に浮かんでいた。


 俺は内心大きな溜息をつきつつ、覚悟を決める。


 「わ、わかりました」


 俺は五体満足でいれる事を願って本部内、──B棟に入って行った。



 中は会社というよりは、ホテルのエントランスに近い。フロントやソファがあり、一応だが、喫茶店もある。


 入り口があるのはB棟のみで、A棟・C棟には玄関がない。

 要するにA棟・C棟に行きたければB棟を必ず通る必要があり、喫茶店などがあるのは来客が待ちやすいように配慮してある。


 玄関が1つなのは.、どうやらどこからかの襲撃に備えてのことらしい。



 また、それ以外の方法──俺の【瞬間移動(テレポート)】など──で入るとけたたましい警報が鳴り、一斉に建物内にいる隊員に追われる羽目に陥る。



 かく言う俺も試した事があった。その時は興味本位だったのだが、氷澤さんに本気マジで殺されかけたのは良い教訓だ。


 それと、氷澤さんが能力で出した氷。溶けて水になり、TSA本部が水浸しになったのは別の話だ。


 フロントに向かい、C棟──要するに寮に行くために受付をする。受付といってもカードとTSAの手帳を見せればOKなのだが。



 C棟に入った俺は自室のある3階にエレベーターで上がった。


 部屋は全てがワンルームで、風呂は共用だ。

 俺は訓練場に向かうために、制服から動きやすい服に着替える。上下真っ黒だ。



 俺、大丈夫かな。あのドS大魔王にしごかれて耐えられるのか……。


 俺は悶々としながら訓練場に向かった。





        ────



 特殊能力部隊──Troops Special abilities。


 能力者などで構成された組織である。茜ヶ丘に本部があり、支部も全国各地に点在している。

 警察とは別物だが、犯人を拘束する事も許されている。また、殆どの部隊員は副業を持っていて、当番制で仕事を回していく。


 主な仕事は、治安維持や能力者の犯罪に対抗する事だ。能力者相手に無能力者が戦おうとすると、能力の種類にもよるが対等に渡り合うことは不可能に近い。


 そういった理由で設立されたのがTSAなのだ。



 そして、茜ヶ丘には能力者の部隊が3つある。


 氷澤凍李率いる第1部隊。主に攻撃に特化した能力の持ち主が配属される。その中でも隊長の氷澤はTSAでもNO.1と呼び声が高い能力者だ。別名難関突破(ブレークスルー)



 仁里聡美にりさとみ率いる第2部隊。能力は捜索や捕獲などサポートに向いている者が配属される。別名助け舟(バックアッパー)



 そして、神木総司率いる第3部隊。主に若手が配属される。普段のミッションは治安維持目的のパトロールくらいで、他は能力訓練くらいだ。

 そのため、この前の静かなる破壊者(バニッシュ)の戦いについては、異例中の異例と言える。

 別名若人(ユース)。ちなみに人数はかなり少ない。というのも、そんな若い時からTSAに入ろうと考える人間は少なく、辞めて行く人間も多い。茜ヶ丘の場合は、氷澤のしごきのせいだ、という声が多いのも事実なのだが。


 

 そして、後方支援部隊。主に無能力者や、殆ど能力を使えない能力者が配属される。本当のバックアップで、車での送迎などが仕事にある。


 特に若人(ユース)の人間は、少なからずも良からぬ事情を孕んでいる。神木しかり、水崎しかり。






       ────




 「ほら、さっさと立て!」


 氷澤さんにしごかれて、ざっと2時間。俺はすでにクタクタになっていた。


 よくよく考えると、湊の方が重傷だった。その事を伝えると、湊はしごいても楽しくない、という不公平極まりない返答が来た時には絶句した。


 「俺は?」という質問をした時の返事は満面の笑みだった。それにも絶句した。



 今しているのは氷澤さんが作り出した氷塊を、【瞬間移動(テレポート)】で避けるというかなり疲れる訓練だ。


 屋内の訓練場には、氷の破片がいくつも落ちていた。


 小刻みな【瞬間移動(テレポート)】はどうも疲れる。とりあえず今すぐにでも逃げたい。



 立て、と言われたからには立とうとするのだが、全く言う事を足が聞いてくれない。

 うつ伏せから仰向けになるのが精一杯だ。



 「はぁ……。はぁ……。こ、氷澤さん」

 「なんだ?」


 なんでそんな満面の笑みなんだよっ。

 内心毒づく。



 「……も、もう無理です」


 「まだいけるだろ?」

 俺とは対照的に笑顔な氷澤さん。

 あり得ない。


 「…………」

 俺は無言の抵抗を試みた。


 氷澤さんは大きな溜息を1つ。


 「しゃあねぇな。今日はこれくらいにしといてやるよ」


 心の中でガッツポーズ。


 「その代わり、明日もな」

 にこやかな笑顔の大魔王の宣告。




 俺の心の中のガッツポーズは雲散霧消、水の泡と化した。












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