No.3
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「……大地変動っ。壁だ」
「はいっ」
言われた直後、彼女は、地面に手を付けてアスファルトの壁を作り出した。
それに俺の攻撃は防がれた。鉄球転移+爆発という組み合わせ。
なぜか今の俺には、能力が3つも使えている。能力3つ所持者はほんの一握りの人間で、俺は能力1つ所持者のはずなのに。
それに加え、2つの能力を組み合わせることができるようだった。
使える能力は、自分の【瞬間移動】、静かなる破壊者の右手の爆発、大地変動の【地面操作】だ。
この共通点は、ここにいる人間。けれど湊の能力は使えていない。使える基準がわからない。
俺は激昂しているはずなのに、それとは裏腹に冷静な所があった。
さっき大地変動が防いだ鉄球には爆発の要素を組み合わせていた。そのため、作り出した壁が壊れる。
「何なんですか? あの能力。彼の能力は【瞬間移動】だけじゃないんですか?」
かなり焦った様子で、静かなる破壊者に問いかけている。
「わからん。が、今は集中しろ」
よく見ると、彼の右手に凄まじいエネルギーが集まっている。
これは……やばい。
「大地変動。少し、時間を稼げ」
「了解です」
そう言って、アスファルトに手を付けて何かしようとした。あいつらとの距離は25mほど。
あの能力に対して、湊のそれは相性が悪い。まだ静かなる破壊者の方が対抗できたはずだ。
だったら俺が大地変動を相手する。
何でも来い……。ぶちのめしてやる。
湊は俺の後ろにいる。
意識を取り戻しているが、動くのが辛いのか、呼吸がかなり荒い。
「はぁぁ──っ!」
少女の足元から、高さ50cmほどのアスファルトの針が、こちら側に連なるように飛び出す。
「甘いんだよ!」
俺は鉄球を取り出して転移させた。そして近づく針にぶつけて、あらかじめ爆発を付与した鉄球で蹴散らす。
「……総司」
【瞬間移動】で攻める気でいたが、湊の呼び声で一旦踏み止まる。
後ろを振り向くために鉄球転移を行い、大地変動に防御を行わせる。
「湊! 無理に立つな!」
フラフラにも関わらず、立とうとする眼鏡を制する。
「そういう訳にはいかないだろう。俺としては。取り敢えず……。応援は呼んでいるのか?」
湊が一人称に"俺"を使うのは、相当にキレたときだけである。
それに俺は頷くだけで応じる。
そのとき、この場において最も強い男が口を開く。
「残念だが……お前達はここで朽ち果てるんだ」
静かなる破壊者の両手には、破壊のみを求めるエネルギーが収束していた。
予想よりも完成が早い。あんなのが放たれたら、湊と同時に逃げられない……。今の【瞬間移動】じゃ、飛べるのは1人が限度だ。
どうする……?
「はぁ。仕方がないな。俺が能力で防ぐからそのうちに【瞬間移動】で接近戦を挑め。どちらから仕掛けるかは……わかっているな?」
そう言いながら眼鏡を押し上げる。
俺は唖然とした。こいつは何を?
「そんなボロボロの身体で、できるのかよ?」
その言葉に湊は大きな溜息をつく。
「できる、できないじゃない。やるんだ」
「……わかった」
こうなったら湊は頑なに譲らない。だったら俺ができることを……ではなくて、やることを考えないと。
「話は済んだか? なら終わりだ」
その低い声色には、まるで絶望を具現化したかのような響きがあった。
右手、左手でそれぞれで異なる能力を使う男が、両手をこちらに向ける。
その瞬間、奴の前に落ちていたゴミが消え去る。両手からは全く音がしない爆発の火炎が、3mほどの槍のようになってこちらに飛んできた。
そしてふと思い出す。"vanish"の意味を。
"突然消える"だ──。
────
湊が俺の前に直立不動で、両手を前に出した。
「【排斥】」
湊が能力を発現させる。
彼の両手の前の空気がまるで膨張したかのように衝撃波が発生し、静かなる破壊者の作り出した槍と激突した。
「くそっ……」
湊が呻き声を上げ、両足を踏ん張る。
頼んだぞ、湊。
俺はそれを見た瞬間、【瞬間移動】で奴らの右横に移動する。
「なっ!?」 「えっ!?」
驚愕が顔に浮かぶ2人。
そして油断しきった静かなる破壊者の顔面に、渾身の力を込めた殴打を右手で繰り出す。
「ぐっ……」
「静かなる破壊者さん!」
数m吹き飛び、起き上がって来れないのか、地に伏している静かなる破壊者。
……上手くいったか。あの技は奴にとってかなり高レベルの技だったはずだ。仕留めたと思い込み、油断する。
だからそこを突く。
湊の攻撃時の定石の1つである、仕掛けて来た方を攻めるもきっちり履行した。
遠距離系の能力者は、やはり近距離戦での対応があるはずだ。だからといって攻撃後には隙が出来る。
湊の方を一瞥すると、攻撃を弾き切っていたが、かなりの疲労が目に見える。
俺は大地変動と向き合う。
「これで、あとはお前だけだ」
「……それがどうかしたんですか? 例え、私1人になっても関係ないでしょう?」
毅然とした様子で返答する。
「だったら、終わりだ!」
俺は鉄球に爆発を付与して、【瞬間移動】させた。
大地変動の目の前にだ。
「甘いんですよ!」
それを大地変動は予測したのか後ろに跳ね飛び、地面に手を付く。
俺はそれを見る直前に奴の真後ろに【瞬間移動】した。
俺の【瞬間移動】は向きを反転出来ない。
なので振り返りざまに大地変動に女だとか関係なしに全力の蹴りをくらわす。
「きゃぁっ!」
そのまま少しぶっ飛び、そのまま──
彼女が能力によって作られた壁に激突した。
頭を打ったのか、地面に伏せ落ちた。
俺は一つ大きな息を吐いた。
その後、ようやく来た応援に俺は彼らを引き渡した。
湊もかなりの怪我で、俺もまったく体が動かない。
少しの間、入院生活が続くだろう。
ミッションは終了したが、釈然としないことが幾つかあった。
静かなる破壊者が事件を起こした理由。そして、俺の能力。
何なんだ?
それから15分後、奴らを乗せた護送車が襲われ、2人を逃がしたという報告が届く──。