表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それぞれの正義  ー俺の正義ー   作者: ヨシア
第1章 そのきっかけ
2/12

No.1






 事の始まりはこのミッションから──







     *********



 2月上旬。

 PM9:23。

 郊外のビルにて──



 妖しい月明りに照らされた会議室に、夜の静けさを破る音が響く。


 それと同時に殺意を孕んだ銃弾が体の横を通り抜けていった。



 俺は長机の角に身を潜めてやり過ごす。使っているのはどうやら、SIG SAUER(シグ・ザウエル)P230──つまり日本警察の装備品である。弾数は9発。



 要するに、この企業はどこか良くない面で警察と繋がっている可能性がある。

 限りなく黒に近いだろうが……。どうせ警察にシラをきられるのはわかっている。

  つくづく腐ったものだ。



 銃声を数え、残りの弾が3発になったときに俺は物陰から飛び出した。

 その男との距離は20m程。

 

 アレ(・・)を使うまでもない。


 いきなり飛び出した真っ黒な服装の俺に、焦った様子の相手。照準が狂ったのか、弾丸は大きく外れる。



 その間に相手との距離を大きく詰めた。


 「くそ!」


 悪態をつきながら男は再び発砲した。


 そこで俺は斜め右に走り抜け、近付きながら残り2発の銃弾を躱した。


 躱されたそれは窓ガラスを壊し、甲高い音が耳を刺激する。


 残りの弾を打ち切った事に、目を見開きようやく気付いた様子の男。


 男はとっさに近接戦闘の構えをした。


 だがそのタイムラグは俺が近づくのに充分だった。


 「はぁぁっ!」


 慄いた様子の男に、俺は容赦無く蹴りを鳩尾に入れた。

 ボーリングのピンのようにぶっ飛ばされた男は床でのたうちまわる。


 ……拳銃の扱い方からみてこいつはかなり下っ端だな。残りの弾数を把握してないなんて。


 俺は足早にその部屋から出た。



 元々、隠密行動で出来るだけ、()きこと風の如く・知りがたきこと陰の如くだったのだが……。

 あんなところでくしゃみして敵に見つかるなんて。



 廊下に出るとさっきまで点いていなかった蛍光灯が明明とついていた。少し騒がしい気もする。


 近くの階段に向かって走り抜け、階上を伺う。

 目標の階は9階。今は7階。俺は階段で上がることにしていた。


  怒声。それに恫喝するような声。


 どうするか。……仕方ないか。

 俺は耳に引っ掛けてある通信機に向かって話しかけた。

 もちろん、周りに気を配りながら。


 「 (みなと)。こっからどう行けばいい? 」

 「……総司か。道に迷ったわけじゃないだろう?」



 通信機の向こうで眼鏡を賢しげに押し上げる湊の姿が目に浮かんだ。


 「それが……敵に見つかった。……おいこら溜め息つくな」


 「これが溜め息をつかずにいられるかい?」

 それを言われて俺は渋い顔になる。だから言いたくなかったんだ。

 再び溜め息をつく湊。



 「なんのために僕が作戦を考えたのか。そこを考えて欲しいね。まったく。そもそ」

 「説教は後で頼む」


 長くなりそうだったので腰を折って話を進めさせる。


 「そうだね。総司だったらどこからでも行けると思うんだけど」


 「どこが一番楽に行ける?」


 「ちょっと待て」


 キーボードをピアノようにリズム良く押す音が通信機越しに聞こえた。

 湊は今、ビルの外で待機しているはずだ。



 「わかったよ。そこの階段で8階に上がって一気に9階まで行けばいい」


 「要するに、普通に階段を登れと?」


 内心、聞かなければ良かったと思ったのは内緒だ。


 「その通りだ。……分かっていると思うが気をつけろよ」


 「わかってる」



 危険なのは当たり前で、湊が言いたいことはそういう事じゃない。

 これだけ湊と通信していて、誰1人敵が来ないことだ。


 普段のミッションでは、敵が有象無象に寄って来て戦いながらの通信になるのに。


 馬鹿なのか。あるいは……この企業に雇われた攻撃系の能力者(・・・・・・・)がいるのか。



 8階に上がるとさっきまでの騒がしい様な雰囲気がなくなり、誰1人いなかった。


 若干歓迎されているのかな。


 俺は湊の指示通りそのままそのビルの最上階に到着した。

 目的の部屋は9階の最も広い部屋。かなり大きめの会議室だ。

 そこのパソコンのデータを盗むのが今回のミッションの目的である。



 会議室のドアの向こうには何か、異様な雰囲気が漂っている。


 俺は最大限に警戒してドアを開いた。




      ────



 部屋には明かりが点いていた。


 俺はさっと周りを見渡す。

 タイルカーペットの床。前方には大きなスクリーン、机が少しあるくらいで後は何もなかった。



 そして──見つけた。

 スクリーンの前に立っている男を。


 体格がかなり良く、短髪。スーツを身に纏って、携帯で電話をしている。

 俺は頭の中に特徴を叩き込み、脳内検索を始めた。

 警戒心を緩めず、俺は男にゆっくり近づく。



 男との距離が5mほどになると、電話を切り問いかけてきた。

 



 「侵入者というのは……お前のことか?」


 低めの声。かなりの威圧感だな。


 「そうなのかな?」

 少し誤魔化しておく。

 男は目をしばたたいたが、すぐに無表情に戻る。



 「……そうか。まさかと思うが悪戯にこのビルに入ったのか?」


 「さぁ? どうだろ?」


 この男……何か見覚えあるな。

 何だっけ?



 「それで、目的はなん」

 「一方的に質問ばっかしてさ、答えると思ってる?」



 とりあえず相手のペースにはさせない。



 男は口の端に笑みを浮かべた。

 「それもそうだな。質問を聞こうか」


 話の通じる奴で良かった。いきなり戦闘になったらどうしようかと。


 「名前は?」

 名前を聞けば思い出せそうだ。


 いきなり顔を渋くする男。


 「……山田太郎」




 ……前言撤回。全然話の通じない奴だ。

 「ふざけてるのか?」


 「そもそも名前を聞いてどうする? どうせお前は……ここで朽ち果てるのだから」


 そう言って、男は右手を前に上げる。




 その瞬間、俺の右側でいきなり爆発(・・・・・・)が起こった。



 俺は衝撃で左にぶっ飛んだ。


 「……っ!」

 ギリギリで受け身を取る。

 これがあいつの能力か。


 「おっさん、能力者かよ」


 「そうだが? よもや、お前は無能力者というわけではあるまい」


 俺は後ろに下がり、奴と間合いを取った。

 男はゆっくりと俺に近づき、再び右手を掲げる。


 集中しろ。どこで爆発が起こるか、予測するんだ。

 自分の左側から爆発が起こる気がした俺は右に走った。


 直後、背後から轟音が響く。


 なんとか回避できたか。危ねえ。


 俺は拳銃をホルスターから取り出し発砲しようとしたが、再び爆発の気配。

 俺は咄嗟に後ろに飛んだ。


 そして、前方で爆発が起こった。



 「ほう。あの爆発を躱すのか。中々だな」



 俺は爆発に巻き込まれずに済んだものの、爆風で後ろに吹き飛ばされる。

 気づくと俺は会議室後方ギリギリまで追い込まれていた。



 目の前には男がいた。

 どこか失望した声で言い放つ。


 「しかし本当に無能力者なのか……。何のためにわざわざここまで来させたのか……。もういい。……灰となるがいい」


 男は右手を掲げて爆発させようとした。



 後ろに逃げ場ない。

 俺は内心ため息を付いた。


 使いたくなかったけど……。

 仕方がないよな。相手が能力者だったら。



 そして、爆発する刹那──







 

   能力【瞬間移動(テレポート)】。







 俺は男の後ろに能力を使って回り込んだ。


 そして通信機に話し掛ける。


 「こちら神木。爆発系の能力所持者と遭遇、危険と判断したため交戦を開始します」


 さてと。


 俺を見失いキョロキョロしていた男は、声に反応して振り向いた。


 男の顔には驚愕がへばりついていた。


 「一体どうやって爆発から逃げた? 能力者なのか? そもそもお前はなんな」

 「敢えてもう一度言うけどさ、一方的に質問ばっかして答えると思ってる?」



 俺が呆れた表情と手振りを見せ付けると、男の顔は驚愕から憤怒へと早着替えした。


 俺は黒光りする銃口を男に向ける。


 「じゃあ、俺からの質問。この企業と同種の会社が最近爆発事件に巻き込まれている。それを引き起こしているのはお前か?」


 犯人の捜査はついでだったんだけど。

 棚ぼただ。


 「お前は」

 「次に質問を質問で返したらこの頭を吹き飛ばすぞ」


 俺は能力を使って男の背後をとり、拳銃を後頭部に突き付けた。

 

 「……っ! これが【瞬間移動(テレポート)】という能力か」


 相手のペースに乗せるな。

 「お前がその犯人ーー爆発者(エクスプロージョン)でいいんだよな?」


 「……その通りだ」

 少しの逡巡の後に、苦々しそうに彼は答えた。


 とりあえず連絡しとくか。さっきから返事がないけど。


 「こちら神木。爆発者(エクスプロージョン)を拘束。今から帰還します。あと避難警報を発令してください」


 外に待機させてある部隊の車まで行かないと。

 普通に降りて行く訳にもいかないよな。人がかなりいるだろうし。


 仕方がない。飛ぶか。


 「今からビルの外に能力使って出るから。初めて飛ぶ人は若干目眩とかするけど」


 俺は男の背中に左手を触れさせ、能力を発動させた。



       ────



 PM9:35──


 ……ミスったっぽいな。


 【瞬間移動(テレポート)】を使ったはいいが、目的の場所とはかなりずれていた。


 ざっとそこから北に100mほどの細い路地に着いている。ゴミがかなり散らかっていた。

 普段は人気がある街も、警報の発令によって物静かだった。



 俺は首を振る。


 やっぱ難しい。2人同時だとかなり精度が落ちる。空間把握もちゃんとできてなかったし。


 とりあえず早く移動しないと。


 「向こうだ」


 男は若干ふらついていたが、無視して歩みを進めさせ、路地から出ようとする。もちろん拳銃を突き付けたまま。後頭部から背中に変えたけど。


 実際、俺も能力の反動が中々きつい。



 路地から出るか否か。

 急に男が足を止めた。

 俺は男に軽くぶつかった。


 「一つだけ聞いていいか?」

 表情は見えない。


 「……何だよ?」


 しかし、どこか覇気のあると感じさせられる声で。


 「爆発者(エクスプロージョン)、というのは……お前らが使っているのか?」


 「そうだけど? それが何かあるのかよ?」


 俺には見えないが、男がニヤリと笑った気がした。


 「そうか。……残念だが、組織での私の呼ばれ方は──静かなる破壊者(バニッシュ)なんだ」



 突然の言葉に俺は疑問を掲げる。


 静かなる破壊者(バニッシュ)

 “vanish”ってことか。

 意味は……。何だっけ?


 その男──静かなる破壊者(バニッシュ)が左手を前に挙げる。


 そして俺が思考を深めているその時、周りに落ちていたゴミが消え去った(・・・・・)


 俺は絶句する。


 こいつは……危険だ。

 どうする?

 背を向けたまま左手を再び挙げた。


 「……っ!」


 俺は路地の方に逃げた。


 「賢明だな。そのままお前がそこにいたら死んでいたぞ」


 静かなる破壊者(バニッシュ)は左手を下ろして、嬉しそうにそう言った。


 ……どういうことだ。爆発は右手だけで発動するんじゃないのか?



 通常、手で能力を使う時はほとんどが利き手を利用する。逆の場合は精度が著しく落ちてしまうからだ。


 こいつは、事前の情報とさっきの戦いから右手で爆発系の能力を使うと踏んでいた。


 なのに……。


 まさか別の能力か!?

 右手は爆発系。左手は……物を消滅させる。音もなく。



 間違いない。能力2つ所持者(ダブル)だ。

 能力1つ所持者(シングル)までなら割といたりするが……。

 能力2つ所持者(ダブル)はそうそういない。

 しかも両方とも攻撃系能力。ヤバイな。


 狭いところだと不利だ。

 そう判断した俺は能力で路地を出て、大通りに飛ぶ。

 警報を発令していたので人はいない。



 静かなる破壊者(バニッシュ)も路地から出てくる。


 「とりあえず、これは挨拶代わりだ」

 右手を掲げた。


 俺は直感で察した。


 今までで1番でかいのがくる。



 凄まじい轟音と激しい火炎が、俺の前後左右から迫ってきた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ