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第8話 現実を知る2

 防衛線最前線であるバンダリーについたティシャが最初に感じたのは、血と物が燃える臭いと熱いほどの熱気であった。その感覚に当てられたティシャは少し冷や汗をかいた。そして、ここが戦場なのだと感じるのであった。


「ティシャ」


 横からノーンが声をかけきた。


「僕の側にいたら大丈夫だから」


 ノーンは微笑みながらティシャの肩にそっと手を置いた。その瞬間、ティシャは肩に入っていた力がすっと抜けた。


「お願いします」


 ティシャの口から出てきたのは、たったこの一言であったが、ノーンはその一言に信頼を感じ、満足げ頷いた。


「さて、じゃあ、司令部に行こうか」

「はい」


 ノーンが歩きだす後ろをついていくティシャは、辺りに目をやった。

 目に飛び込んでくる光景は、ティシャの故郷とは違っていた。街並みは、円を描くように家が建ち、円の中央には広場があり、そこには井戸があるという同じような構造であった。同じような街並みのティシャの故郷では、晴れた日の昼下がりは、井戸の周りで女性が洗濯物を洗っていたり、子どもたちが遊んでいて、男性は狩りや商売をしていた。しかし、ここに広がる光景は、女性はバタバタと走り回っているだけで、子どもや男性は見かけない。時々、他の家と比べて大きな家から唸り声のようなものが聞こえてきていた。

 そんな観察をしていると、ノーンが広場の中央にある白い布で覆われたテントの前で足を止めた。


「ここが、司令部。防衛線の作戦会議場所って感じかな」

「ここが…」

「うん。中に入るけど、あまり話さない方がいいかもね。何か聞かれたら答えて」

「はい」


 短い会話を終えると、ノーンが少し布をめくり、テントの中へと入っていった。ティシャもそれに続き中へと入っていった。

中には大きな机が1つと椅子がいくつか乱雑に置かれていた。その中に1人の男性が座っていた。男性は入ってきたノーンに気づき、慌てて立ち上がった。


「ノーンさん!あれ?今回先駆隊じゃないから、城での警備担当ですよね?」

「クレイ。ちょっと用事があってね」

「そうなんですか…あれ、後ろの方はどなたですか?」

「あぁ。彼女は魔兵器開発部の」

「ティシャ・アルザールです」

「魔兵器開発部の…へー。女性の方が在籍してるって本当だったんですね。あ、失礼しました。国軍第1部隊参謀、クレイ・スクールです」


 クレイから手が差し出されたので、ティシャも手を出し、握手をした。


「それで、クレイ。状況はどうなの?」


 ノーンから声をかけられたクレイは、ティシャの手を離し、ノーンの方に体を向けた。


「そうですね…。いつものグルネシアではないって感じですかね」

「それはどういう意味で?」

「いつもは、強行突破しようとしているんですけど、今回それが見られないんですよね。城壁も上ってこようとしないし、門も破ろうとしないですし」


 おかしいんですよ、と言いながら首をかしげるクレイ。


「ふむ…。確かにいつものグルネシアじゃないね…。リアはどこにいる?」

「リアザックさんですか?門のところか、城壁の上にいると思いますよ」

「ありがとう。いくよ、ティシャ」


 ノーンはそういうとテントから出て行った。ティシャはノーンの後を追うために、クレイに一礼をして、テントから出て行った。


「ティシャ、ね…」


 クレイがポツリと呟いた言葉は誰にも届くことはなかった。




「あの、ハスヤさん」

「何?」

「クレイさんって…」

「クレイがどうしたの?」

「いや…なんでもないです!」

「?そう?」


 ティシャはクレイと握手をした時に違和感を覚えた。何がそう思わせているのかわからないが、ノーンに聞くべきことではないとティシャは思い、話題を変えた。


「ところで、リアザックさん?って…」

「あぁ、リアは国軍第3隊のもう1人の副隊長さ」

「どんな方なんですか?」

「……会えばわかる」


 少しの沈黙の後にその一言だけ言い終えるとノーンは口を閉ざした。ティシャはその様子をみて首をかしげるのであった。

 そうして、会話が切れてから少し歩いていくと、城壁近くまで来た。近くまで来てわかることは、何千年もの歴史に当てられ、古ぼけた今でなお、敵からの侵略を阻む立派な防壁として活躍している存在の大きさであった。

 そんな城壁の近くまで来ると、沢山の兵士が忙しなく動いていた。


「ちょっといいか」


 ノーンは近くを通り過ぎていく兵に声をかけ呼び止める。


「はっ!」


 声をかけられた兵はノーンの近くまで移動すると敬礼をした。


「リアはどこにいる?」

「国軍第3隊副隊長、リアザック様は城壁の上にいらっしゃいます」

「……そう…」


 兵からの言葉を聞き、ため息をつくノーン。


「ありがとう。もういいよ」

「はっ!」


 敬礼をして兵は自分の持ち場へと帰っていった。


「今は矢が飛んで来ないからにらみ合いの状態なのかな…」


 城壁を見上げながら考え込むノーン。ティシャは考え込むノーンを見ながら、同じように城壁を見上げた。


「よし。ティシャ」

「なんですか」


 何かを決めたようにノーンはティシャを呼んだ。呼ばれたティシャは城壁に向けていた目をノーンに向けた。


「城壁に上がるからついておいで」

「えっ…」


 ノーンの発した言葉をうまく理解できなかったティシャは、ノーンに対して疑問を投げかけた。


「……上るんですか?」

「うん」

「この…城壁の上に?」

「うん」

「…どこから?」

「向こうの階段から」


ノーンの示した先には、城壁と同じ様に、石を積み上げてできた階段があった。


「いや、無理で」

「もう決定だから。これ上官命令ね」

「ぐぅ…!」


 上官命令と言われれば、上るしか道のないティシャは諦めて言った。


「了解しましたー…」


 その言葉を聞いてノーンは城壁の上に行くために階段に向かって歩き始めた。ティシャはトボトボという効果音の付きそうな足取りでノーンについて歩いて行った。


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