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第5話 魔力の概念2

 午後の就業時間開始を知らせる鐘が鳴った。ティシャはその鐘の音を聞きながらため息をついた。一番来てほしくない時間が来てしまったからである。

 ノーンに言われた通り、魔兵器開発部でノーンを待つティシャは落ち着かずに、机の上でペンを使って遊んでいた。周りの同僚は横目でティシャを見ながらも、自分たちの仕事をこなしていった。

 鐘が鳴ってから少し経った頃、ドアが控えめにノックされた。


「はい」


 ティシャがドアを開けに行くと、そこにいたのはノーンであった。


「うん、ちゃんと居たね」

「上官命令ですからね」

「はいはい。じゃあ、ティシャを借りていくね」

「はい。ハスヤ様、よろしくお願いします」

「ティシャ行くよ」

「…はーい……行ってきます」


 チーフに一言言い、ティシャに声をかけてから出ていくノーン。ノーンに声をかけられた後ティシャはペンと紙を何枚か持ちながらその後を追いかけて出ていった。それを見送った同僚たちは明日ティシャがどんな顔で出勤するのかが楽しみであった。

 


 ティシャはノーンの後ろを歩きながら城内を進んでいた。時々すれ違う女性の視線がノーンに注がれているのを見て、ノーンがもてる部類であることを改めて知った。

 整った顔立ちと体格、その地位。どれをとっても文句のつけようがないことは知っていた。しかし、これほどまで人気があることは知らなかったティシャにとって、ノーン本人というよりもノーンが周囲にどのように見られているかを知ることとなった。

 そんな人気のあるノーンの後ろについて歩くのが、かわいくもなければ美しくもない自分が歩いていていいのだろうかとティシャは思い、少しずつノーンとの距離をあけるようになった。それに気付いたノーンは後ろを振り返った。


「間があいているけど?」

「いや、そりゃ…周囲の視線が痛くて…」

「…ティシャもそういうこと一応気にするんだね……」

「一応ってひどくないですか?!この前は女性の自覚を持てって言っていたくせに!」

「じゃあ、僕の後ろに相応しい女になればいいんじゃない?」

「なんで…!」

「そうしたら僕の後ろに居ても問題ないんでしょ?」

「いや、ハスヤさんの後ろ歩くとか金輪際ないです、きっと」

「さぁ、どうだろうねー」


 ティシャとの間が詰まったことを確認してから、ノーンは再び歩き始めた。そしてティシャはノーンの言った意味深な言葉に食いつき、それまであいていた距離が縮めて歩くようになった。


「さっきのどういう意味ですか?!」

「え?何が?」

「ハスヤさんの後ろを歩くって話ですよ!」

「そんなこと言っていたっけ?」

「言ってました!」




 そんな話をしながら魔兵器開発部から5分程度歩いてノーンの執務室に到着した。




「どうぞー」

「失礼します…」


 ノーンが開けたドアを潜り、目に入ったのは壁一面に詰まっている本の量であった。


「すごい本の量ですね…」

「本を読むのは好きだからね」

「へー…」


 辺りをぐるりと見渡すと、綺麗に整頓されていることが分かった。魔兵器開発部の同僚たちでは考えられない綺麗さであった。


「さて、ここに座るといいよ」


 そう言ってノーンが示したのは明らかにいつもノーンが使っていると思われる執務机であった。


「え?」

「机ここしかないからね」

「いや、でも、ちょっと…」

「ここに何しに来たのかな?」

「……失礼します」


 ティシャは恐縮しながらノーンの執務机に向かって座った。それを見届けたノーンは満足そうに微笑んだ。


「じゃあ、始めようか」

「よろしくお願いします」

「じゃあ、まず、基礎からね」




 そう言ってノーンによる魔力の概念の講義が始まった。




「まず、人類と魔族に分かれていることはわかるよね?」

「はい」

「うん。魔力は人類が魔族に対抗するために生まれた力だとされている。しかし、人類で魔力を持つ者が少ない上に、人類の持つ魔力は基本的にはずごく弱い。僕みたいに強い魔力を持つ者は少ないんだ。」

「魔族に対抗するための力であるならば、魔力を持つ者を増やして、強い魔力を持つようにしたらいいんじゃないですか?」

「誰しもがそう思ったよ。でもね、魔力は人類の形ができてから後付された物だから、本来ならば魔力を保持するための器が小さいんだよ。魔力が強い者は魔力を保持するための器が大きいと考えてくれればいいよ」

「あの、魔力の強さはなんとなくわかりましたけど、魔力の質ってどういう意味ですか?」

「魔力の質って、魔力の概念を知らないんだよね?」

「あ、チーフが言ってたんで」

「なるほどね。魔力の質っていうのは、魔力の濃さ、わかりやすく言うなら魔力の品質の良し悪しかな。魔力を沢山保持していても、魔力が薄ければ、一回魔力を使うのに多量の魔力を消費してしまう。逆に魔力を沢山保持できなくても、魔力が濃ければ、一回魔力で使う魔力が少量で済む、っていうことね」

「じゃあ、魔力の分類は4つに分類できるんですね」

「そう。魔力が弱く、質も悪い者。魔力が弱くても質が良い者。魔力は強いが質が悪い者。そして魔力が強く、質も良い者、ね」


 ティシャは持ってきた紙にメモを取りながら話を聞いていく。


「さて。で、魔力の強弱と質の良し悪しを見るために必要なのが能力テスト。まぁ、性能テストと似たような物かな」

「…性能テストと似たような物……非情ですね」

「しかたないよ。その能力テストでいい結果が出た者がこの国軍第3隊に入れるんだから」

「能力テストで振り分けられるんですか?」

「そうそう。国軍第1隊と第2隊は特に条件はないんだけどね。第3隊だけ条件があるんだ。能力テストは入隊者全員必須の事項だから、希望していなくても第3隊に配属されることもある」

「それはなぜ?希望の隊に入れてあげた方がモチベーションがあがるんじゃないですか?」

「魔力を持つ者は少ないってことはさっき教えたでしょう?」


 ティシャが頷くのを見て、ノーンは話を続けた。


「第3隊は別名魔力部隊。ティシャたち、魔兵器開発部で開発された魔兵器を使用する部隊さ。魔力を持つ者が少ない上に、魔力が強くて質も良い入隊者がいた時に他の隊に居たら宝の持ち腐れだからね。だから第3隊入隊には強制力が働くんだ」

「なるほど。生き残るために必要なこと、なんですね」

「そういうことだね」


 顎に手を当てて熱心に聞くティシャ。


「で、能力テストなんだけど、それ専用の機械がある」

「初耳です」

「あれ、ティシャは能力テスト受けてないの?」

「私はチーフの引き抜きで軍に入りましたので。もともと魔力がないことをチーフに申告していたからなしにしたんじゃないですかね」

「ふーん、まぁいいや。その能力テストの機械なんだけど、原理は簡単、球体の機械に保護されているマジックイアに魔力を30分かけて充填すること」

「え?それでわかるんですか?」

「魔力計測器は球体の機械に取り付けられていて、魔力の強弱はそれでわかる。魔力の量の単位はmw(エムダブリュー)で表せるよ。で、魔力の質は、マジックイアの色でわかるんだ」

「色?」

「そう。マジックイアは基本的に無色透明。魔力を充填してマジックイア色が黒に近ければ近いほど魔力の質は高いということになる」

「なるほどー…」

「今度やってみる?」


 面白そうに言うノーンに対して、ティシャは眉間にしわを作った。


「悲しい結果にしかならないのでやめてください…」

「そう?でも、一回やってみるのもいいと思うけどな」


 ノーンはティシャを見つめながら言った。ティシャはそこまでノーンが押すならば、機会があれば一度測定してみるのもいいかもしれないと思った。


読み方

mwエムダブリュー…Magic Weightの略

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