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第4話 魔力の概念1

 ティシャはお昼の時間をいつも通りに過ごしていたが、時計を見てはため息をついていた。午後の就業でノーンに魔力の概念について教えてもらうことになっているからだ。なぜこうなったのか、ティシャは今日の午前に行われた新作の魔兵器の性能テストの後のことを思い出した。



 事の発端は新作の魔兵器の性能テストが終わった後、ふとティシャが言った言葉であった。




「ハスヤさんがすごい人だというのは分かったんですけど、魔力っていうのがよくわからないんですよね」




 その言葉を聞いてティシャの周囲にいたチーフや同僚は驚愕した。


「お、お前、魔力の概念を知らないで今まで設計していたのか?」

「?そうですよ?魔力のことはラグイスさんに一任だったんで」

「眩暈しかしない…」

「え、魔力の概念を知らないって相当ひどいですか?」


 チーフと同僚に力強く頷かれてしまったティシャは悩みだした。


「そうなんですか…。故郷では、魔力を持つ人だけが魔力の講義を受けていたんで知らないんですよね」

「チーフ、これは魔力の概念を知ったら、設計の効率もあがるんじゃないですか?」

「ふむ…そうだな。ティシャに魔力の概念教えれる奴はいるか?」


 チーフの言葉にティシャの同僚全員が顔を明後日の方向に向け、チーフと目をあわさない。


「……やっぱり、他の部署から来てもらうしかねぇか…」


 チーフは頭をガシガシ掻きながらため息をついた。その様子にティシャは申し訳なくなってしまった。


「いや、チーフ。私、頑張って独学で勉強しますから」

「は?」

「今までも独学で学んだことはあったので、今回も大丈夫でしょう!」

「お前、いつ勉強する気だ?」

「もちろん徹夜で!!」


 チーフの質問に元気に答えたティシャは、チーフから愛の鞭という名の拳骨を頭に受けた。


「却下だ」


 声にならない声をあげるティシャにチーフは言い放った。


「徹夜してまた体壊すんだろ?それだった効率が悪ぃ。就業時間に誰かに教えてもらって勉強した方が効率がいいし、短期間で習得できるだろ?」

「そうですけど、誰も居ないじゃないですか…」


 拳骨を受けた頭をさすりながら拗ねた口調でティシャはチーフに言った。先生が見つからない状態では独学で学んでもらうしかできないことはチーフもわかっていた。


「どうしたんですか?」


 先ほど性能テストを行っていたラグイスとノーンが集団の場所に来た。


「いや、ティシャが魔力の概念を知らずに設計していたんだと」

「え、そうなんですか?」

「なんでも魔力についてはお前に一任だったそうじゃないか?」

「はぁ、そうでしたけど、他の仕事が押してるからなのかと思ってました」

「まぁ、それで、魔力の概念を教えたら設計の効率もあがるんじゃねーかって話でな。先生がいないなら独学で睡眠削って勉強するって言いはじめてな」

「俺、無理ですからね!仕事も溜まってますし、人に教えられるほど頭よくないですから!」


 ラグイスは先生という単語を聞いて即座に否定を始めた。チーフはやはりという顔でため息をついた。


「じゃあ、ティシャには先生が見つかるまで独学で学んでもらうとするか…」


 その言葉にティシャは顔を輝かせた。そんな時横から待ったの声がかかった。


「僕が教える」

「え?」

「何?僕じゃ不満でもあるの?」


 ノーンが放った言葉に一番に反応したのはティシャであった。そして、ティシャの反応を見てノーンは微笑んだ。


「ごめんなさい、じゃなくって!ハスヤさんも仕事ありますよね?大変じゃないですか!」


 ティシャの言葉にノーンはきょとんとした顔をした。


「今日は一日何もないんだけど?」

「え?」


 ノーンの言葉に周囲は驚いた。今日は午前中は性能テストをお願いしていたのであけてもらったが、まさか午後も何もないというのは、仕事の多い魔兵器開発部ではありえない言葉だった。


「まさか部下に仕事を押し付けて…」

「ないからね?」

「じゃあ、書類を捨てて証拠隠滅して…」

「ないからね?」

「じ、じゃあ…」

「ティシャ?」

「はい、すみませんでした」

「そんなに僕の講義を受けたくないの?」

「できれば…いや、ぜひ受けたいです!!」


 ノーンの微笑みの前では断る言葉さえ言い切れないティシャであった。


「じゃあ決まりね。午後からティシャを借りるね」

「えぇ、でもハスヤ様、本当にいいんですか?」

「いいよ。どうしようか迷っていたからね」


 チーフに確認を取るあたり、しっかりしているなとふと思うティシャであった。


「ティシャ、午後からの就業はハスヤ様から魔力の概念をご教授いただくことだ!いいな?」

「はーい…」


 まさかノーンと一緒に午後を過ごさなければならなくなるとは思っていなかったティシャにとって、午後の就業時間が地獄のように感じられた。


「じゃあ、僕の執務室まで来てほしいんだけど、わかる?」

「……だ、だいじょう」

「はい、迎えに行くね」


 一拍おいての返事に感づいたノーンは迎えに行くことを決めた。


「いや、行きます!一人で行きます!!」


 譲らないティシャにノーンは微笑んで言い放った。


「午後は魔兵器開発部にいること。僕が迎えに行くまでどこにも行かないこと。これ上官命令ね」

「ぐぅ…!」


 上官命令と言われれば従わなければならない上下関係に不服はありながらもティシャは頷くしかなかった。


「承知しました…」


 チーフがいる手前、返事を返さなければならなかったティシャはノーンの上官命令に初めて返事を返した。ノーンはその様子を見てポツリと呟いた。


「初めてかな?」


 その呟いた言葉にティシャはぎょっとして、ノーンに詰め寄り、小声で話しかけた。


「しー!しー!!それ言っちゃだめですよ!」

「え?ダメなの?」

「チーフがいるじゃないですか?!」

「…ティシャの中で、僕よりチーフの方が位が上になってない?」

「そ、そんなことないですよ?」


 慌てるノーンは「ふーん」とだけ返した。ティシャはやってしまったと思い、内心冷や汗をかいていた。周囲でその状況を見ていたチーフと同僚は、話の内容が聞き取れなかったため仲がいいなという印象を受け取っていた。


「まぁ、いいや。じゃあ午後からね」

「はい…よろしくお願いします…」


 今日が一番運勢の悪い日なのかもしれないとティシャは思い、午後が来なければいいのにと願った。しかし、その願いは叶えられず、お昼の時間も過ぎ、平和な午後の時間が訪れたのであった。


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