第3話 実力の片鱗
ティシャがいつも通り出勤するとそこにはなぜかノーンがいた。
「あ、ティシャ、おはよう」
「なんでいるんですかあああああああああ!!」
「煩いよ」
今日はティシャの大声から1日が始まった。
「いやー、ハスヤ様がティシャと知り合いでよかったー」
「なー。ティシャ、ありがとな!」
同僚に声をかけられるティシャであったが、その顔は複雑そうだった。
「チーフ…」
「意義は認めない」
「まだ何も言ってないですから!!」
首を振りながらチーフは一言「あきらめろ」と言った。
「あきらめきれませんから!確かに、新作の魔兵器の性能をテストするには魔力を持つ人が必要です!ここにいるのは脳筋勢なので魔力が使えない人しかいないのもわかってます!」
ティシャの発言に周囲の同僚から「ひでー」やら「ズバッというなー」やら「あいつ、その脳筋勢に自分も入ってることわかってんの?」と言った声が響いたが、ティシャは気にせずに続けた。
「しかし、なぜ、その被験者がハスヤさんなんですか?!」
一番強調したい部分である一言を言い終えたティシャはチーフを見つめる。
「意義は認めないと言っただろ?」
「しかし!」
「これは仕事だ。わきまえろ」
引き下がらないティシャをチーフは一蹴し、ノーンの元に行き、今回の性能テストについて簡単に説明をし始めた。
「なんで…」
仕事なのはわかっているが、どうにも納得できないティシャは、仕事がたまっているにも関わらず、新作の魔兵器の性能テストについていくことに決めた。
性能テストの場所は1階から城外出た所にある広い石畳の第1演習場になった。いつもは屋内の第2演習場を使用するのだが、チーフの采配によりこの場所となった。
「ハスヤ様。説明させていただくラグイス・ディースです。よろしくお願いします」
「よろしく」
「では、今回使用していただく魔兵器について説明いたします。」
淡々とティシャの同僚であるがノーンに説明をしているのをティシャは少し遠くから他の同僚達と一緒に見つめていた。
「今回使用していただく魔兵器は銃型の物です。弾の代わりに魔弾を発射します。従来の銃型は魔力の持つ者が打つ際に魔力を込めていたため、発射までに時間がかかるというのが難点でした。もちろん魔力を持たない者には使用できない造りとなっていました」
ノーンは説明を聞きながら、先ほど渡された銃型の魔兵器の感触を確かめていた。
「今回は難点を改良いたしまして、魔力を充填できるようになりました。これにより、魔力が持たない者も使用できるようになりました。ただ、魔力を充填できる鉱石、マジックイアが貴重なため量産は見込めません」
「充填できる魔力の量は?」
「大体30mwで、魔弾は大体10個できます」
「ふーん」
質問の答えを聞きながら、ノーンは銃型の魔兵器をまだ触り続けていた。
「重さは丁度いいかもね。重くもなく、軽くもなく。ただ、魔弾が10発しかできないとなると、混戦の時にはすぐに使っちゃうだろうから厳しいな」
「マジックイアを今以上に使用しますと充填できる魔力の量は増え、魔弾の数も増えますが、その分重くなってしまうので、機能面が悪くなってしまいます」
「なるほど」
ティシャはラグイスと魔兵器の話をしているノーンがいつもの雰囲気と違い、仕事に対する真剣さを感じることができ、感心していた。
魔兵器開発部は戦場には行かない。しかし、開発された魔兵器は戦場で使われ、その使い方次第で使用者を生かしたり殺したりする代物である。そのためにも戦場に赴く者の意見は魔兵器開発部にとっては貴重な資料となるものであった。
国軍第3隊副隊長という立場にいるだけのこともあって、様々な戦場に赴いたノーンの経験は魔兵器開発部にとって貴重な物であった。
「さて、ハスヤ様。実際に使ってみてください。あちらに的を用意しています」
そういってラグイスが手を向けた方には5重の円が描かれた的があった。ノーンはその的に向かって銃を構えた。そして、1回目の引き金が引かれ、鈍い音が辺りに鳴り響いた。
「おおっ」
歓声をあげたのはティシャの周囲にいた同僚達だった。歓声があがった理由は、ノーンによって打たれた魔弾が的の中央を射抜いたからであった。
「手に馴染む感じでいいね。打ちやすい。設計したのは誰?」
「今は設計をしているのは彼女しかいませんよ」
「なるほど」
少し離れた所で同僚に囲まれているティシャを見て、ノーンは微笑んだ。一方、ラグイスとノーンの視線がこちら側に向いていることに気づいたティシャは、ノーンが微笑んでいるのを見て、ビクッと肩を震わせた。ティシャにはノーンが微笑むという所から威圧感しか感じることができなかった。
「これに僕の魔力込めて打ってみてもいいかな?」
「是非!試してみてください!」
ノーンは銃を掲げながら言うと、ラグイスは興奮したように答えた。
「ティシャ。これから起こることをしっかり目に焼き付けておけよ。今回、ハスヤ様に性能テストをお願いした理由がわかるぞ」
チーフはティシャに向かって言葉をかけた。ティシャは一度チーフの方に目を向け、チーフの真剣な目を見て、ノーンの方に目を向け直した。ノーンは一度上空に向けて魔弾を打ち切り、充填されていた魔力を使い切った後、魔力の充填作業へと入っていた。
「よし」
ノーンは息を整えた後、的に向かって銃を構え直した。そこにいる誰もがノーンの方を向き、息を飲んで魔弾が発射される瞬間を待った。そして、引き金が引かれた。
「すごい…」
ティシャがポツリと零した。ノーンによって引き金を引かれた後、先ほどの魔弾とは比べ物にならないぐらいの大きさの魔弾が発射され、的が丸ごと消え去ったのである。
「ティシャ。ハスヤ様はこの国でトップぐらいの魔力の持ち主であり、その魔力の質もトップにいるお方だ。耐久性を見るのに早く済むだろう?」
ティシャは頷くしかできなかった。今回の性能テストにより、ノーンがとてもすごい人であることを改めて知ることとなったのであった。