十二話 方針決定
「ただいま~~~~~~!!!」
右、左、右、左、うん、テンション高いな王牙さん...。
「ほらほら、無視するなよクレア君、晩御飯作ってあげないぞ~~」
と、後ろから抱きついてくる王牙さん、
右、左、右、左、ムニ、柔らかい......あ、神経伝達が途切れた...。
結局、午後は変わらず鞭の操作にせいを出していたのだが、その試みも今あっけなく砕け散った。
主に、王牙さん抱きついてきた感触がモロに伝わる大量破壊兵器によって。
昨日は、羨ましい位の立派な筋肉の鎧だったんだけどな...。
「お帰りなさい、王牙さん、今日の晩御飯は何ですか?」
テンションも声も話し方も、昨日とは打って変わってギアがハイに入りっぱなしの王牙さん。
昨日は見辛いもとい、聞きづらい声だったんだけど。
その声も、凛とした張りのある声に変わっているし、昨日は終始、暗めの話し方だったのに、今日は朝からハッちゃけている。
まあ、正直言ってウザイ。
「今日のご飯はね!!おね~さん、奮発して岩竜をぶちのめしてきたんだよ!!」
ほめてほめて~、といいたそうな表情、後ろには、フルフルと左右に振られる尻尾の幻影が...。
って、龍?この人は、いったい今日一日で何をしてきたんだ!!
というか、
「龍がいるんですか?この森は?」
それこそが、驚きだった。
三歳のころに読み漁った文献では、龍というのは、一般に龍人族の事をさす。
竜の強大な力をそのみに収めた、龍人族。
ただ、その強さに比例して圧倒的にその数は少ないうえに、はるか昔にあった戦争によって、龍人族は今や絶滅寸前ともいわれている。
まあ、記憶として定かではないが、転生前の時代では、まだ、その辺を普通に闊歩していたので、俺達が転生した後の話しなのだろう。
「ん?...ああ、龍はいないよ、私が言っているのは竜のことさ...」
竜?ああ、なんだ、僕の早とちりだったようだ。
龍ではなく、竜、つまり龍人族ではなく、魔獣の竜のことだったようだ。
と、いっても。
「魔獣の、最強種と呼ばれる竜が、いる時点で驚きなのですが...」
と、其処までいって、あることに思い当たった。
「ああ、だから幻獣の森なんですね...」
パチパチ、と背中から拍手が聞こえてくる。
「ごめいと~う、まあ、君が今思ったことだけが、正解じゃないけど、おおむね正解かな」
つまり、魔獣の中でも上位とされる、竜など、主に幻獣種と呼ばれる者達がここには住んでいるから、ここは幻獣の森と呼ばれているのだろう。
と、納得している俺に対して行使していた抱擁を解いてから、王牙さんは晩御飯の準備を始めるのだった。
「まあ、あいつが逃げ込むために結界として、幻獣を城の周りに放ったという理由もあるんだけどね」
と、俺にはっきり聞こえるように呟きながら。
はあ、城か...。
つまり、あいつ、俺をこの森に蹴落としやがったあいつが、あの時見えた城にいるんだろうな...。
そして、その周りには、幻獣種とまで呼ばれる、魔獣が跋扈しているというわけですね。
こうして、無理やりながらも、俺のこの森で生きていく指針が決まった。
あの城までたどりつく。
まあ、それは最初から、それしかできること、目指すものがないという意味でもあるのだが。
そのためには、幻獣種を退けられるほどに強くならなくってはいけない。
おいおい、あの麦わらけも耳女!狙ってコレをやったなら、五歳児に何を期待しているんだといいたい。
そして、何をしたいのか聞きだして、この森を出る!
っと。
...なあ、何年かかるんだ、コレ?
とりあえず、俺、幻獣種どころか、最初からこの森に住んでいたっぽい、アリクイ相手にめちゃくちゃ苦戦したぞ!
どうするんだよ、コレ!!
...その日、食べた岩竜の肉は、とても塩味が効いていたらしい。
つまり、あれだ、何か泣けてきた。
―――迷子期・前編―――終
―――後編・予告―――
「幻獣の森」に迷い込んで数年、少年は肉体も能力も強く成長していた。
そして再び、彼をこの森に連れてきた少女と出会うとき、少年は、失っていたものを取り戻していく。
とりあえず、迷子期前編、終了です。
まあ、ここで切った理由としては、いい加減、ちまちま強くするに疲れたのと、クレアがいなくなった後の状況を書いておこうと思ったからです。
なので、後編の開始までは、サクラやドロシーの話などを数話はさむ予定です。