二話 魅了する息子とストーキングする父親<改>
20120310・改訂
-なあ、妹よ
-はい、お兄様
-なぜお前は、【以心伝心】を使っている時と、普段俺を呼ぶときに呼称が違うのだ?
-お兄様、ドロシーや母上様の前でお兄様と呼んでほしいのですか、ポッ
そんな台詞と共に頬を染める三歳児と、それを見て身悶える三歳児、そんなあたり前の?日常が今日も続いていく。
「それで、サクラ」
「どうしたの?クレアお兄ちゃん」
-クッ、お兄ちゃんも捨てがたい
-お兄様、思考が駄々漏れです
コホン、と心の中で気を取り直して。
「サクラ...今日は、なにをして遊ぼうか?」
「かけっこをしましょうか?それとも、またお花の冠を作りにいきますか?」
-良い模範解答だ、妹よ
-お褒めに預かり光栄ですわ、お兄様
-それで、結局のところどうする?
-今現在の、自分達の戦力の分析それは必須事項だと思いますわ
ちなみにサクラ―――元魔王の言葉使いに違和感がある方もいると思うので補足するが。
簡単にいえば、転生によって幼児退行、もしくは幼い身体に思考と言葉遣いが引っ張られているのである。
あの、間違った関西弁のようなしゃべり方、性格は何年も生きて出来上がったものであり、転生当初特に子供に転生したときはいつも幼い身体に意識が引っ張られ真面目な感じになるのだそうだ―――。
「そうだね~、じゃあ草原に行ってかけっこをしようか」
-そうだな...、それなら広場のほうで体力の確認を行おうか
「わかったよ、クレアお兄ちゃん」
-わかりました、お兄様それでは、先に行っていますので
「うん、サクラは先に行っていていいよ、ぼくは、父様に許可を貰ってくるから」
-サクラは、先に行っていてくれ、俺は扉の陰に隠れた、ストーカーに話をつけてくる
「うん、いってきまーす」
-頼みます、お兄様
サクラが向日葵のような笑顔を浮かべてとてとてと走り出したことによって、扉の陰からあせって身を隠す気配が伝わってくる。
-まだまだ、甘いな、お父様
俺も、ひとつ苦笑を浮かべると、父親の書斎に向けて走り出した。
その途中、隠れている気配のすれすれを通っていくことも忘れない。
-おおー、あせってるあせってる
決して急がずにそれでも扉の陰で覗いていた影が急がなくてはいけないぎりぎりのスピードで走って父親の書斎の扉の前にたどり着く。
扉の前で何かが割れるような音がしたのを確認してから。
俺はノックをして返事を待たずに部屋の扉を開けた。
「しつれいします、とうさま」
「ああ、よくきたねクレア、どうしたんだい?」
軽く息を乱しながら出迎えてくれた父親、見た目はまだまだ青年と言っても通用するほど若く蒼髪でモノクルをかけ、魔法使いが好んで着る黒いローブを身にまとった魔法使い。年齢は不詳。
その父親が、俺にさわやかに微笑んだ。
その笑みは、父親が座っている重厚な机と其処でにこやかに微笑む父親の後ろの窓が、何か人間が思いっきりぶつかったように割れているのを覗けば完璧と言っていいもだったろう。
ちなみに、父親の書斎は二階なのだが...。
-父様、体面保つためにそこまでするんですか
もちろんこの科白は、俺の心の声なので父親には届かない。
ちなみに、年齢不詳の某母上様が金髪なのに対して、俺は金に黒のメッシュサクラは黒に金のメッシュの髪色のため、一時期父親は妻が浮気をしていたんじゃないかと悩んだとか。
まあ、今そんなことはどうでもいいことだ。
いまは外にいく許可を得ることが先決だ。
「とうさま、サクラとふたりでおそとにあそびにいきたいのですが、よろしいですか」
なぜか、父親が悶えている。
何々、「サクラと一緒の時の子供らしくないしゃべり方もいいが、したったらずもたまらない」だと!
父様、安心してください、あなたと俺は間違いなく親子です。
「ああ、私はかまわないよ、二人で仲良く遊んでおいで、でもくれぐれも危険なことをしないようにね」
よっしゃー、言質はとった、後は止めを刺すだけだ。
「うん、ありがとう、とうさま」
太陽の様な笑顔に、蒼目を閉じたウインク付の感謝の印。
「グハ、イッテラッシャイ」
ちなみに、お父様が片言になっているのは。
ウインクして残った金の瞳、其処には元々の『存在』名残、「魔王の魔眼」が残っているためだ。
「魔王の魔眼」には元々かなり強力な「魅了」の効果が備わっていたらしく。
今現在元々の両眼そろっている時よりはその威力はかなり落ちているが、俺達に少しでも好意を持ってくれている人間に使った場合は結構な威力となる。
まあ、これも俺とサクラの血の交換によって髪の色などと共に俺に移住して来た副産物の一つなのだが、存外使い勝手は悪くない。
なぜか俺の「魔王の魔眼」を喰らって吐血しながら身悶えている父親を置き去りにして、俺は外に向かって走り出した。
今日、やることは自分達の今の実力の確認。
それを行えば、これからの約十二年間の期間の間で自分達がやるべきことが見えてくるだろう。
そんな期待を込めて俺は走り始めた。
「ふう、我が子ながら、なんて凶悪な威力だ、お父さんあの子の将来が心配だよ...」
息子が走り去って数分、ようやく正気を取り戻した父親は割れて余り本来の意味を成さなくなった部屋の窓枠に足をかけながら、静かに詠唱を始める。
「さて、いくか...。
今日はどんなびっくりすることを拝めるかな」
そのまま、窓枠を蹴って宙に飛び上がる父親。
その身体が重力によって地面に引き寄せられることは無く。
爆発的な威力を持って彼の身体を上空に打ち上げる。
屋敷の庭にかすかな雨と綺麗な虹を残して...。
水の飛翔魔法、操作性の難しさのみを言えば最上級魔法にも劣らぬ魔法を、子供達のストーキングのためだけに発動すると、今日も心配性な父親は空に旅立っていった。




