後編 見習い従士の一日 なぜか記憶の無いお昼時
銀糸の従士の一日後編です。
首を刈り取るように、「二式・竜頭刈り」を振りぬく。
手加減はもちろんしているが、まあ、普通なら首が飛んでてもしょうがないかな、といった速度で振りぬいた大鎌、しかし、ドロシーがそれを軽くくぐり抜けてくる。
ふむ、スピードは変わらない、あえて言うなら無駄な動きがなくなったといったとこね。
といっても、猪突猛進、まだまだね!
と、体勢を低く、その右手に持った刃渡り六十センチほどの『血染め桜』を突き出してくる、ドロシーの顎を蹴りあげた。
そして、その体勢のまま、「変化式・二段包斬刃」を組み替える。
「二式・竜頭刈り」から、「一式・竜体斬り」に。
大鎌から大鉈にその姿が変わる。刈り取るための刃が、切り裂くための刃に切り替わり、なぎ払うための柄が、切り払うための柄としてその身を縮める。
その間、わずか0.3秒、神速の変形を終えて、私の手には返しの形に「一式・竜体斬り」が握られている。
そして、硬直が解けると共に、返しの斬撃を横薙ぎに切り払った。
われながら、見事な斬撃線が、顎を蹴りぬかれままの体勢で固まっているドロシーを、そのまま横薙ぎに吹き飛ばした。
バツッと、何かがはじける音がする。
腕の一つくらい落としたかと、ドロシーが吹き飛んだ方向を見るとそこには、五体満足のドロシーが、こちらに向かって飛んでくるところだった。
「な、なに?」
さすがに驚いた、完全に腕を切り落としたつもりだったのに!
まあ、切り落とした後のことはまったく考えていなかったけど、てへ!
じゃなくて、
首筋に切り込まれた『血染め桜』を薄皮一枚もっていかれる形で、間一髪よける!
いや、フェイクか!
『血染め桜』を投げ捨てて、飛び上がった体勢のまま全体重をかけた『石榴』が、私の目を狙って振り下ろされてきていた。
「な、めるなよ!」
「一式・竜体斬り」を離すと、左手で『石榴』を受け止める、そして、右の拳をドロシーの鳩尾に突きこんだ。
「ごふ!」
と、腹の空気を吐き出して、そのまま意識を失うドロシー。
力が抜けたドロシーを抱きとめて、
「お疲れさま」
と、頭をなぜる。
そこで気がつく、ドロシーの髪を、綺麗な流れるような銀糸を邪魔にならないようポニーテールに結い上げている、血染めの包帯が数センチ焼け焦げている。
「身代わりの加護がかかっていたのかい、あの小僧は本当に...」
娘の主人に当たる少年が巻いていたはずの包帯、大切そうにそれを髪留め代わりに使っていたドロシーだが、そこには、『石榴』と『血染め桜』と同じように、身代わりの加護がかかっていたらしい。
つまり、包帯のこげている部分は、ドロシーの右腕の傷を肩代わりして燃えた物なのだろう。
「よく、わからない奴だね...」
可愛い娘にとっては害にしか思えない、その少年の姿を思い浮かべて、ため息を吐くしかない母でした。
なぜか、記憶が無い修行を終え...。
今は、夕食の時間、お母さんが忙しそうに動き回っている横で、私もせっせと皿洗いを行っています。
目を覚ますと、心配そうにしている母の目が印象的だったのですが、あんなもの持ち出されたら気絶もしますよ!お母さん!
と、心の中でひっそりと抗議しておきました。
本日、最後のお仕事は、皆さんの就寝ですね。
寝静まったサクラ様に、そっと毛布を掛けて、
「おやすみなさい」
と、頭をなぜてから、お部屋を出ます。
狸寝入りをしているユノスをおやすみなさいと、ベットに縛り付けて、きつく毛布で巻きながら、
「おやすみなさい」
と、枕に頭を押し付けてから、部屋を出てから外から鍵をかけます。
最後に、
疲れきった様子のクレア様の、乱れた毛布をそっと掛けてあげてから...。
そのやわらかそうな頬に、クスッ...秘密ですよ。
「おやすみなさい、愛しいご主人様」
と、微笑んでから、お部屋を後にしました。
さて、ユノスの部屋の窓に罠を仕掛けてから、私も眠りましょうかね!
兄勇妹魔 今年最初の投稿であります。
皆様、あけましておめでとうございます。
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