十四話 人面樹?いいえ、観葉樹です!
観葉樹です!
「さて、これで終わりだな、人面樹!」
と、仁王立ちで指をビシッと人面樹に突きつける俺。
とりあえず格好つけて満足してから、俺は、ユノスが爪を磨いでいる人面樹に近づいていく。
「ガアガ、グオウガエイア」
ん?何か言っているようだ。
「ユノス、なんて言ってるんだ?」
少し、考え込むような顔をするユノス、といっても無表情なユノスのことだから、思案顔風に首を傾げただけなのだが。
何この子、可愛い!
「我は腐っても?魔獣?負けたのなら、強いものに従う...?かな...」
いや、人面樹が腐ったらただの腐葉土になるだけだろ!
しかし、強いものに従う?魔獣にはそんな掟があるのか?
「サクラ...、俺は知らなかったんだが、魔獣にはそんな習性があるのか?」
とりあえず、元魔王であり、俺よりも魔獣と親しかったであろうサクラに聞いてみよう。
俺の場合、あったらすぐ瞬殺だったしな!
「たしかに、知性の高い種族ならそういう話を聞いたことがありますね...
人面樹がここまで高い知性を持っているのは、始めて見ましたが」
と、いってもユノスがいなければ、会話が成立しないがな...。
まあ、いいか。
面白そうだし!
「わかった、人面樹よ、そういうことなら仲間になるがいい!」
強きものというなら、こいつを倒したユノスのことだろうしな!
「グウグガガガガ」
俺の言葉を聞いて、ユノスが人面樹から降りると、立ち上がってこちらに近づいてきた。
俺がユノスに視線をむけると、
「どこまでも、ついていく......喜んでる...」
と、意図を汲んで通訳してくれた。
こうして、森から家に帰ることにした俺達三人と、一本。
鬱蒼とした森を、特に会話もなく、てこてこと歩いていると。
しばらく、何かを考え込んでいたらしいサクラが唐突に口を開いた。
「クレア兄さん、思い出したのですが、魔獣を仲間にするには、名前を与えてやる必要があった気がします」
名前?魔獣にか...?
まあ、確かにいつまでも人面樹と呼ぶのは面倒だしな...。
「お前、名前はないのか?」
と、とりあえず人面樹に聞いて見る。
「グガガ、ウガガガ」
そうか、グガガ・ウガガガか。
「ない...て、いってる...」
ち、駄目だったか、こういう時は別に気を聞かせなくてもいいのにな...。
はあ、決めてやるか...。
とりあえず、立ち止まっている人面樹の下から上までゆっくりと眺め回す。
-んー、何かいい名前、そうだなたとえば-『ドライアド』-とか...
ん?なんだ、今、意識が混線したような?
気のせいか?
「んー、ドライアドなんてどうだ?」
皆の顔を見回してから、人面樹にそう語りかけると。
-ありがとう-
そう、聞こえた気がした。
「え?」
と、不思議に思っている間に、人面樹もといドライアドの身体が白い光に包まれる。
-な、なんだ?
目の前の、不思議な光景に動揺して、思わずサクラと神経をつないでしまった。
-『存在』のランクアップですわね
ランクアップ?だと。
-魔獣は、最初からその姿のまま生まれてきますから、兄さんに『銘』をもらったことで『存在』価値が上がったのですわ
な、なるほど、良くわからないが。
このとき、クレアたちは知らなかったが、『銘』を与えられることで『存在』価値が上がるのは魔物だけではない、たとえば、ただの鉄の剣でも、『銘』がその剣に与えられればその剣は、段違いにその切れ味や硬度を増したりするのだ。
ただし、魔獣と違って、武器などはその武器を使って何を殺したか、どのように使ったかなどで『銘』がつけられるため、人がつけることはできないのだが、まあ、愛着を持って使い続けた褒美のようなものだと思ってくれればいい。
それで、人面樹が存在をランクアップさせるとどうなるか?
観葉樹になりました!
すみません、ごめんなさい。
まあ、繭のようなものらしい、とりあえず進化するまでの仮の姿なのだと。
いつ、進化するかは、本人にもわからないらしいのだが、
とりあえず、今はお荷物だ!
ご丁寧に、鉢植えになったドライアドあらため観葉樹を背負って俺達は、家についた。
「ただいまー」
「ただいま、かえりましたわ」
「...いま」
と、元気に挨拶して玄関をくぐると、訓練用の服から着替えたらしい母上様がこちらに向かってあるいてきた。
「クレア、サクラ、ユノス、お帰りなさい」
そういって、俺達を纏めて抱き締める母上様。
あったかーい...
はふー、名残惜しいが、俺達も着替えないと。
母の抱擁から脱出すると、着替えてきますと宣言して、ユノスとサクラの手をとって歩き出す。
と、母上様に背中をむけたところで、
「あら?クレア...、その背中に背負っている観葉植物は?」
ま、まずい、わからないけど、ごまかさないとまずい気がする...。
「森で拾いました!」
と、叫んでから、再度声がかけられない様に俺達は部屋に向かって駆け出した。
走っていってしまった子供達を見て、寂しげなため息が口から出ていた。
「あらあら、秘密にされちゃったわね...
しかし、あの背中の観葉植物、魔獣かしら?
たしか、知り合いに魔獣使いの人がいたけど、あれって魔族の固有職業じゃなかったかしら?」
本当、どうなってるのかしらね...あの子達は。
と、もう一つため息をついて、母親は子供達と逆の方向に歩き出した。
迷いました、でもいいか、仲間にしよう!
次はいつ出てくるかわかりませんが、観葉樹が仲間になりました!
ちなみにー、クレアは気がついていませんが、魔獣が主人を決めるとき、勝った相手ではなく名前をくれた人間が主人となります。
まあ、普通はそんなことはほとんど無いので、サクラもそのことについて知りませんでした。
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