雅なる月のごとく 二幕
母上登場です。
「クオーツは飛竜種の討伐か、アイナ先生は相変わらずだね」
「あはは、キールもそう思うか、可愛い顔してやることがえげつないよなー」
反論できない、できるわけが無い。俺は酒場のカウンターに身体を投げ出しながら、新しく会話に加わった錬金科であるキールの顔をにらみつけた。
目元をほとんど隠している綺麗な銀髪のなかから見せる静かな瞳、ほとんど表情がわからないその顔をわずかに笑みの形にゆがめたキールと目が会う。
「なに、笑ってるんだよキール」
「笑う?、そうかぼくは笑っているか」
おまえ、気がついてなかったのかよ、
確かに、キールはほとんど笑わない、俺達といるときは結構わらうのだが、それでも、ほかの人間と話しているときと比べて、と言ったレベルの話である。
一説では、誰がキールを笑わせることができるかといった賭けをした連中がいるほどらしい。
なぜ、俺が知っているかといえば、ありがとうお前のおかげだ、と言って俺に金一封くれた馬鹿がいるからだ。
なんか、かけに大勝ちして相当儲かったらしい。
「おまえ、めったに笑わないくせに、こんなことで大笑いしてんじゃねーよ」
「すまんな」
といって、後ろを向いたキール、その肩が震えているのを俺は見逃さなかった。
「まあ、いいじゃん、キール・クオーツ、依頼掲示板みにギルドにいこうぜー」
「あ、ああ、そうだな」
「そういえば、キールは試験何なんだ」
錬金士のキールは、もちろん錬金科の生徒である。
錬金科の試験はもちろん生産系のほうが多い、のだが
「卒業試験は、誰かの討伐依頼に同行して、その素材で何かを作ることだ」
「ふうん」
楽そうなことで、うらやましいかぎりだ。
「だから、ぼくは、クオーツの依頼について行く」
「へ?」
楽しそうだからな、そう俺に言い残してキールは隣の席から立ち上がった。
「キールがいくなら、俺も行こうかなー」
「ガイア、おまえはCランク以上の討伐だろうが!」
「だからCランク以上でしょ、飛竜種は」
「あー、...ふん、勝手にしろ」
かってにするよー、ってガイアも俺をおいてキールと一緒に歩き始める。
「ふん、馬鹿共め...」
おれも、立ち上がって、歩き出す。
どうしようも無いほどに、にやけようとする頬をこわばらせながら。
飛竜は、と依頼掲示板を凝視する俺、
ぱっと見、見つけることができた飛竜種の討伐依頼は三つ、
レッドワイナスと呼ばれる飛竜の討伐がひとつ、レッドワイナスは飛竜種のなかでも、翼竜目と呼ばれている飛竜であり、前足の変わりに翼がついているのが特徴のワイバーンのなかでもレッドワイナスは5メートルほどしかない小型の飛竜で、ランクはAだ。
小型ならランクはC位なのではないか、と勘違いする冒険者もいるのだが、そこはレッドワイナスもやはり飛竜種、通常の飛竜の膂力を失った変わりに、この竜はかなりの魔力と狡猾さを持つ、正直言って魔法士である俺の一番苦手とするタイプだ。
雷電と呼ばれる飛竜の討伐が二つ目、雷電は雷属性を常時放ち続ける飛竜種で、極東の島国に良く見られる蛇竜目と呼ばれる種で、特徴的なのは鼻に二本の髭を持ち翼を持たないと言うところだろうか、世界中の竜種の研究者がその飛行方法を研究し続けているが、いまだ解明にはいたっていないそうだ。
飛竜種としては、知能が高く手を出さなければ温厚なのがこの、蛇竜目の特徴とも言える、中には例外もあるが雷電はこの例外に当てはまらず、基本は温厚だ。
しかし、蛇竜目は神性がかなり強いため気候が意図せずに操れてしまうのがこの種が、討伐対象になるおもな理由である。
簡単に言えば、雷電の場合は常に雷雲をその身に纏っているため、この竜が上空を通り過ぎると万雷が落ちるというのが雷電の常時落雷と呼ばれる特性である。
最後の三つ目は、レッドドラゴンである。
まあ、こいつについてはそう語ることも無い、飛竜種でもオーソドックスな火竜目と呼ばれる種の中で代表と呼ばれているほど、の飛竜だ。
飛竜種は絶対的に数が少ないのに、レッドドラゴンはオーソドックスといわれるほど目撃情報が多い、その凶暴性にあいまって討伐依頼も多いのになぜ、そこまで目撃情報が多いのか、つまり、レッドドラゴンの強みはその強大な生命力にある、Sランクの冒険者クランでも撃退はできても、討伐になるとかなりてこずるといわれるのがレッドドラゴンである。
ちなみにレッドワイナスがAランク、雷電がSランク、レッドドラゴンがAランクである、が、レッドドラゴンは撃退が比較的容易にできるのでAランクと言われている、のであって、今回は討伐先ほど言ったように討伐のランクはSランクとなっている。
「まあ、妥当にレッドワイナスかな」
「だろうね」
「おれは、何でも良しーだぜ」
まあ、魔法防御力が高いレッドワイナスはかなり相性が悪いのだが、ほかの依頼を見ると相性が悪いとか言ってられないほど狂悪なラインナップだったので当然却下、消去法でレッドワイナスだな。
と、考えていると、俺が手にするよりも速くレッドワイナスの依頼書に手が伸ばされた。
『あ』
「あら、失礼しました、依頼が見えなくなってしまいましたか?」
そういって、目の前でレッドワイナスの依頼書を手にとった少女が、こちらを向いて頭を下げてきた。
「あー、これはどうもご丁寧に」
思わず、俺も頭を下げてしまった。
「じゃ無くて、君、その依頼受けるの」
危ない、危ない、思わず流されてしまうところだった。
と、思って彼女を見ると、彼女はなぜかご立腹のようだ、
依頼書を持った手を腰にくみ、成長中の胸を一生懸命張って、軽く頭を振って金の軽くウエーブした髪を後ろに流すと。
「君じゃありません、私の名前は、メアリィ・ツヴァインツェルですわ、『蒼の魔道士』殿」
彼女は掲示板の目で立ち尽くす俺達三人に、そう名乗りを上げると得意げな顔をする。
「えーと」
「うん」
「そうだねー」
『だれ?』
三人同時にハモった俺達が、名前に苗字を持っているのが貴族の証だと気がついたのは。
顔を紅染させたメアリィ嬢に俺の顔面がぶん殴られた後のことだった。
あれ?パーじゃなくてグーだったんだけど。
殴られましたね。
まあ、貴族についてはいずれー
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