二十話 やっぱり、母は最強です。
三話目ー
とっくの間に、私の頭のなかは真っ白になっていた。
優しくて知識が豊富な義理の妹が、変わりに話していてくれなければ私はとっくに卒倒していたのではないだろうか。
『ぼくは、もともと勇者で、私は、もともと魔王で、ですから』
そして、このによって、実質私には止めが刺されたといっても良い。
いや、良かった。
そのとき、二人の、可愛い我が子達の表情をみていなければ。
そう、その表情は、どこかあきらめているようなそんな表情。
金と黒の髪、互いの髪に仲良く色違いのメッシュをいれ、互いに色違いのオッドアイに憂いの色を浮かべて、鏡写しのようなその端正な顔に悲しみの表情を浮かべている可愛い我が子を。
私は強く抱きしめた。
もう、絶対に離さない。
だだ、そう思った。
その心に偽り無く、後は行動に移すのみ、昔から考えるのは苦手だが、それでも自分の感覚には自身がある。
いまこの二人は、悲しんでいる、諦めている。
転生者?魔王?勇者?
そんなものは私には関係が無い。
私にとって二人は、可愛い我が子以外の『存在』では無いのだから。
「おかあさま」
「ははうえさま」
その言葉だけはずっと変わらない、たとえどんなになろうとも、初めて言葉を覚えた時からずっとそう呼んでくれる二人。
「いいの、それ以上話さなくていい」
「でも、ぼく達の話を聞くためにここに来たのでは無かったののですか」
そう言う、クレアの表情はわからない。
もしかしたら、ひにくげに表情をゆがめているかもしれない。
もしかしたら、私を馬鹿にしているかもしれない。
でも、それでもいい、私は馬鹿でいい。
馬鹿でいいから、それ以上は聞きたくなかった。
わかっていたから、わかってしまったから。
この子達は、この話をした後、私達の元から消えるつもりだろう、すべてを吐き出して、すべてを残した上でこの子達は私達の前から消えてしまうだろう。
根拠など無くても、わかってしまう。
誰よりも、優しくて、誰よりも心配性なこの子達は、私達に迷惑をかけないように消えるつもりだろう。
そんなこと、決してさせはしない。
「もういいのよ、だってあなた達、その話を、これ以上踏み込んだ話をしたら、私達の前から姿を消すでしょ」
二人をいったん解放すると、もちろんその華奢な肩はしっかり掴んではいたが、私は、二人の目をしっかりみてそう語りかける。
「そんなこと」
「無いと言える!絶対に私達の前から消えないといえるかしら」
反論などさせない、強い口調で二人をだまらせる。
「クレア、サクラ、あなた達がなにを背負っているかは、私にはわからない」
そういって、二人を片手づつ抱きしめると。
そう耳元に語りかける。
「でもね、私はあなた達の母親なの
あなた達がなにを背負っていようと、私はあなた達を愛しているのよ」
たとえ、あなた達の過去になにがあろうと私は軽蔑も差別もしない。
すべてを受け入れるから、
だからお願い。
「私に、すべてを失わせないで、悲しませないで
わたしに、覚悟が無いだけかもしれない、でもね、愛する子供達を失うほどの悲しみを味わった時、
私は、朝起きた時に笑う自信は無いわ、夜寝るときに後悔をしない自信は無いわ
ただ、何も無い明日のために生きている自信はないわ」
いつの間にか、涙が流れていた。
もしかした、ずっと私は泣いていたのかもしれない。
その涙をぬぐう、そして、いつの間にか泣いていた二人にもう一度視線を合わせると、はっきりと言い切った。
「これは、脅迫ととって貰ってもいいわよ、つまり、二人が勝手にいなくなったらお母さん
死んでやるから」
その言葉に、私は、俺は
--負けた
と、思った、気がついたら、母親に抱きついて泣いていた。
取り戻すみたいに、そして、すべてを使い尽くすかのように、僕らはそのときだけ子供に戻っていた。
もしかしたら、安心したのかもしれない。
最後まで話していれば。
間違いなく、ぼくは、私は、この暖かい場所を、この夢のようないまの日常を、捨てていただろうから。
ごめんなさい、悲しませてごめんなさい。
泣かせてしまって、ごめんなさい。
そして、いつか、遠くない未来に、すべてを話すことができる時まで、もう少しの間だけ、ぼくらの、私達の
--母親でいてください。
ふふふ、すべて暴露を期待した方、残念でした。
母の力は偉大なですよ。
こんなところで、すべてネタばれしてやるものですか。