自殺計画
『今日は自殺計画ノートを買った』
そう、買ったばかりのノートに、富樫一朗は書き込んだ。自殺をしたいと考え始めたのは、つい最近。だが、その前々から、この世から消えたいとは考えていた。
「はぁ……」
1年前まで、イジメで死ぬような人間は『弱い』と考えていた一朗にとって、現在の自分は『追い詰められた人間』であって『弱い』人間ではないと考えた。少なくとも、自分はこの世で一番惨めだ。そう思うことで、一朗の心は若干救われた。
ノートは日にちごとに区切られていて、一朗は書店で一番厚みの薄いノートを買った。
「これが、残り、生きる日数」
このノートが切れたとき、俺は死ぬ。一朗の決意は揺らがなかった。『死』は怖いものではあるが、イジメよりも一瞬で、痛みは直ぐに消える。
翌日。一朗は通っている中学校へと足を運んだ。校門を通るときに、教師が
「今日は大丈夫か?」
と尋ねたが、一朗には答える言葉が1つしかなかった。
「はい」
脅し。イジメを行っている生徒が一朗を陥れるためにする行為の1つだ。一朗にとって、自分よりも強い相手は敵わない壁だと認識するしかない。――敵わないなら、戦わない。――一朗の心はどこか冷めていた。
「イッケェ! 人間ビリヤード!」
イジメの主犯格の生徒がそう声をあげると、イジメグループの中の数人が押されて一朗に当りにくる。
「うっ」
小さなため息。抵抗はしない。我慢をするだけ。今までは、この時間は地獄だったが、今では違う。
(ノートに書く記事ができた……!)
現実では敵わない相手に対して、一朗ができる精一杯の抵抗。それが、ノートへの記入だった。誰にも見られず、こっそりと。
翌日も翌日も。学校に登校するたびに行われるイジメ。休日は、心のオアシスだった。
「……あと、2日」
ノートのページ数は10枚。つまり、かってから10日で実行へと移す。明日が決行の日だ。
人間は、いざ目の前にする死に対して、興奮を覚え、自殺を止める。それが中学生ともなれば、決意の揺れは激しくなる。
「やっと……。やっとだ!」
だが、一朗は死を前にして、恐怖と同時に安堵感を得た。怖いが、嬉しい。一朗の心には、もう、死神が住んでいた。
決行の日。何もない、ただの休日。それにも関わらず、学校に向う。目的は、『自殺』。今日の記入欄に、遺書は書いた。
「よし……!」
屋上の鍵を壊し、淵による。その時、横に目をやると、中学2年生らしい少女がこちらを覗いた。
「自殺……?」
少女の目もまた、寂しげだった。
「あぁ。文句あるのか?」
「ない。私も死ぬから、興味ない」
本当に興味がないのか、少女はもう一歩死に近づいた。
「そいつは困る。俺は1人で死にたい。だから止めろ」
随分身勝手な言動だということは、一朗も自覚していた。だが、少女の返答は冷静だった。
「だったら、貴方が日を改めればいい。私は死ぬ。いやなら、バラバラに落ちる? どっちにしても、死ねば1人」
「そりゃそうだ。だったら、一緒に落ちてやろう」
「それが、争いのない自殺なら、私は構わない」
「最後に」
一朗は気になることを呟いた。
「名前は? 死後の世界に行ったときに、気になる」
「フフッ。死ぬのに、死後の世界を気にするなんて……。世界があるからイジメがあるの」
「でも、気になるんだから仕方があにだろ?」
「それもそうね……。じゃぁ」
少女はその後に1つ笑みを浮かべていった。
「私の名前を教えたら飛ぶ。それでいい?」
「あぁ」
一朗は、下を見ないようにして前に進んだ。下を見れば、怖くなる。鉄則だ。
「私の名前は――」
聞いた途端、一朗は自分の体が地面についていないことを感じた。
(やっと、死ねる……)
一瞬の痛みを覚えて、一朗は意識を失った。そしてその一瞬で、少女の方を見た。少女の方が0.2秒程度早く、地面に着いた。
「負けた、か……」
一朗の意識は消え、心臓は止まった。名前を思い出した、瞬間に。
(後藤、晴菜……。アッチであったら、よろ、しくな……)
富樫一朗の人生は、15年で止まった。イジメが原因の自殺は、他殺……。
~『自殺計画ノート』~
1日目『今日は自殺計画ノートを買った。』
2日目『今日もイジメにあった。人間ビリヤード、辛い……。』
3日目『そろそろ何処で死ぬか決めないと。』
4日目『やっぱり、復讐したいんだから、学校、かな?』
5日目『嫌だ! 死にたくない! 怖い! 辛い、泣きたい、助けて、……生きてて、楽しい?』
6日目『昨日は乱丁に扱った。悪いと思う。そろそろ清算する頃かな?』
7日目『一足先にさようなら。』
8日目『。』
9日目『明日で、もうバイバイだなぁ。』
10日目『遺書。お母さん、お父さん、俺は死にます。さようなら。特に書くこともないので、簡潔に終わらせたいけど。最後なので、一応それらしくしたいです。俺はイジメを受けていました。辛かった。でも、もう終わり。この世から消えます。辛いけど、アイツらがいなくなっても、俺は死にたい。生きていれば、きっと不幸になるから。最後まで迷惑かけるけど、任せます。泣かないで。俺は、欲望に勝ったんだ。』
翌日の新聞には、大きな見出しの記事が掲載されていた。
『イジメを受けていた男子生徒自殺。イジメをしていた生徒は、何者かに刺され死亡。警察本部では、イジメを受けていた男子生徒の犯行とみて捜査中。……』
普段はこういったタイプの小説は書かないんですが、最近のニュースを見ていて書いてしまいました。
恋愛小説も頑張ります!