春隣①
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
年が明けて、三日目の朝。
寒さのなかにもどこか春の気配を孕んだ澄んだ空気のなか、浩一は芝田、桐通、瓜生の3人とともに、神戸市内のある神社にいた。
「今日は、なんか暖かいなぁ」
ダッフルコートの襟をすぼめながら浩一が呟くと、すかさずツッコミが入る。
「お前、そんなごついコート着てるからちゃうか?」
「そういうお前かて、コート脱いで手に持ってるやんけ」
相変わらずの軽快な掛け合いを交わしながら、手水舎で手を清め、静かに拝殿へと向かう。
順番が来ると、賽銭箱に小銭をそっと滑り込ませた。二礼、二拍手、一礼——それぞれが真剣な面持ちで静かに手を合わせた。
参拝を終えると、お約束のように「お前、何お願いしたん?」という探り合いが始まる。
それを制するように浩一が言った。
「それ言ったらアカンのちゃうん? 願い事が叶わへんくなるとか……」
「えっ、そうなん?」と桐通が目を丸くする。
「あ、俺もそれ聞いたことあるわ」と瓜生が深く頷いた。
「ほなら、みんな内緒やな〜。でも川野、お前が一番参拝長かったんちゃうか? 後ろに行列できてたぞ」
「行列って……芝田、お前ら3人が待ってただけやろ」
「立派な行列やんけ!」
いつものように笑い合う声が、境内に響く。
日差しだけでなく、胸の奥からじわじわと込み上げてくる温かさを浩一は感じていた。
(……浩一は神様の前で、『これから訪れる環境の変化に、どうか対応できますように』ということ、そしてもう一つ——『この4人の関係が、ずっと末永く続きますように』と深く祈っていたのだった)
本当は、みんなに定時制へ転校することを早く伝えないといけない。
けれど浩一は、この温かな時間を少しでも長く味わっていたくて、打ち明けるのを今日ではなく、次の機会へとそっと先送りした。
ご覧いただきありがとうございました!
タイトルも新たに『春隣』へと移り、物語は新年の初詣のエピソードから始まります。
境内で響く仲間たちの笑い声と、ポカポカとした陽気。「立派な行列やんけ」と冗談を言い合える仲間がいることの尊さが、新年の澄んだ空気とともに伝わってきます。
自分を待ち受ける「環境の変化」を覚悟しながらも、仲間との大切な時間を慈しむ浩一。
春の訪れとともに迫る別れと決断の時を、浩一はどのように迎えるのでしょうか。




