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冬の雷

玄関先に飾られた写真を見て、常盤春(ときわはる)はため息をついた。


(この頃に戻りたいな)


実家であるトキワ食品は、創業30周年を迎える鶏卵業界の大手であり、社長である父・健一の海外へ向けたビジネスマーケティングも順調……に思えたが、さまざまな問題を抱えて、現在は会社も家庭も険悪ムードが続いている。

写真は、創業20周年のパーティーの時のもの。父と母、春、そして兄の薫を始め、参列者が皆とびきりの笑顔で笑っている。たった10年前だというのが、嘘みたいに。

あの頃は、何もかもが完璧な、絵に描いたように美しい家族だと幼いながらに思っていた。


「20周年の時の写真だっけ、それ」


後ろからのぞき込むように話しかけてきた声の主は、幼馴染の水沢千博(みずさわちひろ)

千博の父と、春の父は大学時代から悪友であり、千博の実家は『白椿(しろつばき)』という名の老舗呉服店だ。


「懐かしいな~」

「写ってないよね? というか、来てないよね?」

「ん? 反抗期」

「カッコよくないから」

「相変わらずハッキリ言うねぇ」


その声色で、千博が今ニコニコと笑っているであろうことはわかるが、いちいち反応はしてやらない。

何が楽しいのか、千博は常にご機嫌なオーラを放っている人だ。

身体からルンルンと音符を放って散歩している、近所の犬に雰囲気が似ている。


「結人さんは? 今日いる?」


柊結人(ひいらぎゆいと)。諸事情あり、長年常盤家に居候をしつつ、今は執事として様々な世話や雑用をしてくれている、春にとっては第2の兄のような人。


「2階にいると思うけど。なんで?」

「いや、ちょっと頼み事があって」

「変なことに巻き込まないでよ」

「わかってるって」


千博は2階へ、春は1階にある大広間へ、それぞれ向かう。

その数分後、2階から何かが割れるような、大きな音がしたー。


* * * * *


物音がする、数分前。

千博が2階の廊下を歩いていると、社長室から律儀にお辞儀をして結人が出て来る。


「あ、結人さん」


声に振り向いた結人と目が合い、千博はニッコリと笑う。

結人が徐々に近づいてきて、話しかけてくれる……と思ったら、一時立ち止まってお辞儀をし、通過した。


「ちょっと!」


結人の腕をつかんで止める。


「なに、またおじさんとおばさん揉めてんの?」


結人が出て来るほんの少しの間だけでも、社長室からは、春の父・健一と母・文枝の口論のようなものが漏れ聞こえていた。


「ほんと仲良いよね。ま、うちみたいに子供の前で堂々とバトルされるよりはマシだけど」


千博の実家では、両親が時間場所関係なく堂々と喧嘩を始める。どんな反応をしたらいいのか、わかったものではないが、間違えれば火に油を注ぐ。

立ち止まった結人が軽くため息をついて、ようやく口を開いた。


「ご実家に、いらっしゃらなくていいんですか。そちらも、そろそろ記念式典の時期でしょう」


たくさんの偉そうな大人たちに「次期社長として期待している」「優秀な息子さんを持って幸せ」なんて言われて、両親がニコニコとしているのを見るだけの時間、何が楽しいんだか。

そんなものの準備のために、実家になどいたくない。

心の中ではそう思っているが、千博はそれを表には出さない。

いつもの軽い口調で、結人への頼み事実行のために、動き出す。


「あぁ、一生大学卒業したくないなぁ。就活しなくてもいいのはラッキー!と思ってたけど、結人さんのせいで一気に現実に引き戻された気分ですよ」


むすっと口を尖らせて見せる。

その顔をまっすぐに見つめる結人は、何を思っているのだろう。


(感情が読めないよなぁ…)


一人っ子のわりには甘え上手な千博にも、攻略は難しい。


* * * * *


(まだまだ子供だな)


と、結人は思っていた。

もう19歳だというのに、言動のすべてがどこか幼い。

自分の容姿がそれなりに整っていることを自覚し、愛嬌さえうまく使えば人がなびくことを、一体どこで学んで来たのだろうか。

目の前の千博は、飼い主におやつをねだる犬のように、瞳を潤ませている。


「はぁ……」


結人は大きなため息をついた。

そのため息をどう捉えたのかわからないが、何か言たげな瞳で千博がすり寄ってくる。

嫌な予感だ。


「結人さんっ♪」

「結構です」

「早い! あと結構ですやめてください。それ執事用語?」


どうせ大学の課題が終わらないので手伝ってほしいだの、しばらく実家に帰りたくないので言い訳を考えてほしいだの言うつもりだったのだろう。声色でなんとなくわかる。


「逃げ道ではなく、向き合う方法を、ご自分で探した方が良いと思います」


では、とお辞儀をして通過する。背中の方から、「冷たいなぁ」という千博の声が聞こえる。


* * * * *


春、結人、千博。

この数分後に起こる2階からの物音によって、業界を揺るがす事件を起こすことになるが、この時は知る由もない。

貴重な時間を使用してお読みいただいた方、見つけてくださって本当にありがとうございます。


脳内ではこの物語の結末まで薄っすら決まっているのですが、ゴールにたどり着くための道筋を少しずつ構築していくため、ゆったりペースでの更新になると思います。

よろしくお願いします。

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