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『秋の気配』、あるいは春の足音

 

 三月の風は、まだ冬の鋭さを残していたけれど、防波堤に当たる波の音はどこか柔らかく、季節の交代を告げていた。

 卒業式。体育館に響く無機質な校歌を聴きながら、私は胸元に飾られたコサージュに指を触れた。一年前、東京から逃げるようにこの街に来た時、私は自分の人生が、あのアスファルトの上ですべて終わったのだと思い込んでいた。

 けれど、今は違う。

 校長先生が読み上げる「星輝愛きらあ」という名前を聴いたとき、私は椅子から立ち上がり、迷うことなく前を見据えた。周囲の視線はもう、私を傷つける刃ではない。

 卒業証書を受け取り、海斗の横を通り過ぎる。彼は、オフコースの『秋の気配』の歌詞にあるような、どこか遠くを見つめる澄んだ瞳で私を見送った。


「……僕のゆく所へ、君はついて来られない……」


 かつて聴いたそのフレーズが頭をよぎる。けれど、それは拒絶ではなく、お互いが自分の足で立ち、別の場所で戦い抜くための「自立」の旋律だった。



 式が終わった後、私は海斗と二人で「潮騒」へ向かった。

 祖母は今日、店を休んで私たちを待っていた。カウンターには、琥珀色の珈琲が二つと、私が声を出す練習をしていた時に使った、あの古びたカセットプレイヤーが置かれていた。


「……おばあちゃん。私、東京の大学に行くよ」


 私は、掠れているけれど、しっかりと力を込めた声で告げた。


「心理学を学んで、私みたいに、言葉や心を失った人の力になりたいの。そして、いつかこの街に戻ってきて、おばあちゃんのこの店を、世界で一番優しい場所にしたい」


 祖母は、皺の刻まれた手で私の頭を撫で、中島みゆきの『時代』を口ずさむように「ああ、待ってるよ」とだけ言った。

 海斗は、店内のスピーカーから流れる、チューリップの『青春の影』を聴きながら、静かに海を見つめていた。


「……幸せを、手に入れるために、歩き続けるんだな、俺たち」



 夕暮れ。私たちは、かつて檸檬を放ったあの駅のホームに立っていた。

 竹内まりやの『駅』の旋律が、私の脳内に鮮やかに流れる。

 けれど、私たちは偶然の再会を待つ悲劇の恋人たちではない。約束した未来へ向かう、同志だった。

 海斗は、海を克服するために遠くの街の専門学校へ。私は、自分自身の内面を癒し、誰かを救うために東京へ。


「……星輝愛。お前の名前、最後までキラキラしてて眩しかったよ」


 海斗は少しだけ鼻を啜り、吉田拓郎の『落陽』の歌詞のように、真っ赤な夕陽に染まる海を背にして笑った。


「……海斗、ありがとう。あなたの海、いつか見せてね」


 私は、彼がくれた勇気を胸に、入ってきた電車のステップに足をかけた。

 ドアが閉まり、窓越しに彼の手が離れていく。

 ヘッドフォンから流れてくるのは、森田童子の『僕たちの失敗』。

 でも、これは失敗じゃない。

 私たちは、失ったものと同じだけの「痛み」を抱えて、それでも明日を歌うのだ。

 群青の海が遠ざかり、私の前には、星さえも霞むほど眩しい、新しい世界の光が広がっていた。


この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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