群青のステージ、一番星の独唱
文化祭当日の体育館は、熱気と埃、そして残酷なほどの好奇心に満ちていた。
緞帳の裏で、私は自分の冷え切った指先を強く握りしめる。客席からは「おい、次はあの無口のキラキラネームだろ?」という心ない囁きが聞こえてきた。隣に立つ海斗は、吉田拓郎の『落陽』を口ずさむような不敵な笑みを浮かべ、私の肩を力強く叩いた。
「……星輝愛。お前の本当の歌を、聴かせてやれ」
幕が上がり、スポットライトが私の死んだような、けれど今にも燃え出しそうな瞳を射抜く。海斗が静かにピアノの鍵盤を叩き、竹内まりやの『駅』のイントロが流れ始めた。
私は、マイクを両手で包み込んだ。
最初のフレーズ。喉の奥で鉄の楔が火花を散らす。けれど、私は逃げなかった。
掠れているけれど、深い孤独を潜り抜けてきた一人の女の「音」が、静まり返った体育館に響き渡った。
会場の空気が一変した。嘲笑は驚嘆へ、そして深い沈黙へと変わっていく。
海斗のピアノは、中島みゆきの『時代』へと激しく転調した。
「……回る回るよ、時代は回る……」
私は、命を削るように歌い上げた。一年間、沈黙の中に閉じ込めていた家族への思慕、生き残った罪悪感、そして海斗がくれた温もり。それら全てが旋律となって溢れ出す。
歌が終わった瞬間、私はマイクを握り直し、震える声で前を見据えた。
「……私の、名前は……星輝愛です。……父と母が、一番星のように輝くようにと付けてくれた……大切な名前です」
初めて公の場で口にした自分の名。それは、キラキラした虚飾ではなく、泥の中から這い上がった者だけが持つ、鈍い光を放っていた。
会場の隅では、取材に来た新聞記者が、狂ったようにシャッターを切っている。
最後の一曲。海斗が選んだのは、チューリップの『心の旅』だった。
あの日、海へ檸檬を投げた日から、私たちはもう別の場所に立っている。
「……あー、だから今夜だけは、君を抱いていたい……」
私たちは、観客のことなど忘れ、ただお互いの存在を確認するように音を重ねた。
私の掠れた声と、海斗の不器用なピアノ。不協和音さえも、今の私たちにとっては真実の響きだった。
演奏が終わり、深い礼をした後、体育館は割れんばかりの拍手に包まれた。
ステージを降りると、そこには目を赤くした祖母が立っていた。
私は祖母の胸に飛び込み、今日初めて、本当の涙を流した。
窓の外、冬の夜空には本物の一番星が輝き、私たちの「潮騒」は、琥珀色の光に包まれて、まだここにあることを世界に示していた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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