冬の星座と、琥珀色の決意
季節は巡り、海辺の街には刺すような冬の風が吹き荒れていた。
祖母の退院後、喫茶店「潮騒」は細々と営業を続けていたが、親戚たちの「閉店」への圧力は止まなかった。そんな中、学校では冬の文化祭の準備が始まっていた。
海斗は、音楽室で一人、竹内まりやの『駅』をピアノで弾いていた。
「……私を、愛していたの……」
切ない旋律が、夕闇の廊下に響く。私は扉の陰で、その音に耳を澄ませていた。かつて愛し合った誰かと、偶然の再会を果たす駅の情景。それは私にとって、事故の瞬間に永遠に断ち切られてしまった「再会」への、果てしない憧憬を呼び起こすものだった。
海斗は私に気づくと、鍵盤から手を離して言った。
「文化祭、二人で出ないか。……この店の、存続を賭けてさ」
彼は、地元の新聞社が文化祭の取材に来ることを突き止めていた。そこで話題になれば、店を畳もうとする大人たちの口を封じられるかもしれない。無茶な提案だったけれど、彼の瞳は、吉田拓郎の『落陽』のように、沈みゆく太陽を背負った男の不器用な情熱に満ちていた。
練習のために店にこもる日々が始まった。
夜、客の途絶えた店内で、私は森田童子の『僕たちの失敗』をレコードで流しながら、小さな声で歌の練習を重ねた。
「君の優しさが、僕をダメにする……」という囁くようなフレーズ。声を失っていた私にとって、森田童子の、今にも消えてしまいそうな危うい歌声は、何よりも自分の内面に寄り添ってくれるものだった。
ある時、準備に疲れた海斗が、古いチューリップのLPを手に取った。
「『心の旅』か。……俺たちも、ここじゃないどこかへ行けたらいいのにな」
レコードから流れる軽快な、けれどどこか寂しげなリズム。あの日、海へ檸檬を投げた日から、私たちは少しずつ「声」と「歩み」を取り戻してきたけれど、世間という現実は、まだ私たちを「不気味な転校生」と「海を恐れる少年」として閉じ込めている。
海斗はピアノを弾きながら、中島みゆきの『時代』を口ずさんだ。
「回る回るよ、時代は回る。……いつか、笑って話せる日が来るのかな」
その力強い、けれど哀しみを内包した旋律が、私の喉を激しく震わせる。
文化祭の前夜。私は、誰にも見られないように、カウンターの陰で自分の声を録音したカセットを聴き返していた。
そこに残っていたのは、掠れているけれど、確かに温かさを持った一人の少女の歌声だった。
私は、チョークで黒板に書いた。
『海斗、ありがとう。私、明日は自分の名前を言うよ』
海斗は、驚いたように目を見開いた。
星輝愛。
その名前を、私はずっと「キラキラしすぎていて、今の自分には分不相応だ」と否定し続けてきた。けれど、海斗と一緒にこれらの名曲を奏でるうちに気づいたのだ。フォークソングに歌われる、情けなくて、泥臭くて、けれど必死に生きる人々の姿こそが、本当の「輝き」なのだと。
外では雪が降り始め、漁村を真っ白に塗りつぶしていく。
私は、中島みゆきの歌声に導かれるように、自分の名前を口の中で繰り返した。
明日のステージで、私は海斗のピアノに乗せて、命を吹き込んだ旋律を放つ。
「星輝愛」という一人の人間として、再び世界と出会うために。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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