8話 回避せよ、文無し野宿。そして投獄を
グリーンスライムを華麗に撃破した俺達は、町への旅路を再開していた。
…まぁ俺はなにもしてないんですけどね。
「いやー、それにしても凄かったなぁ、フィゼさんの魔法」
「もう、大袈裟ですってば。
…それにしてもコースケさん、武器も持たずに町を出るのは流石に危険すぎますよ?」
「すみません、勢いで町から飛び出してしまったもので」
「むぅー。私と会わなかったら、一体どうするつもりだったんですか」
それは本当に、まったくもって面目ない。
…いや、俺のせいか?ほぼほぼあの女神のせいでは?言えないけど。
「ところでさっきのが”グリーン”スライムということは、他の色のスライムもいるんですか?」
「そうですね。水辺に生息しているブルースライムとか、下級の火魔法を使うレッドスライムとか」
なに!魔法を使うスライムまでいるのか。それなのに俺ときたら…
「グリーンスライムはスライムの中でも、特に弱い部類ですね」
「そうなんですね。武器があれば俺でもなんとかできそうだ」
「ゼリー状の体で顔を覆いつくして、人や他の魔物が窒息させられた例もあります。
グリーンスライム相手だとしても、油断は禁物ですよ」
「窒息…!?恐ろしいですね」
下級といっても、やはり魔物は魔物ということか。
前世でも野生の動物は危険だったけど、遭遇したところで「戦う」なんて選択肢はまず無かった。
この辺の感覚は大きく違ってくるな。こっちの人は随分と逞しそうだ。
…この世界について知らなきゃいけないことも多いが、やらなきゃいけないこともまた多い。
衣食住…衣はともかく、食と住の確保は急務だ。後は身を守るための手段、武器も欲しい。
なんにせよ、先立つものが必要となる。町に着いたらとりあえず職探しかな。
「フィゼさんの町で、どこか働き手を探してるところって心当たりあります?
身寄りもないし、とりあえず働き口を探さなきゃいけないんですが」
「それならたくさんあると思いますよ。今はどこも人手不足ですから。
小さな町なので、若い人はもっと大きな町や、王都の方に出て行ってしまうことが多いんです」
その辺の事情は前世と一緒か…どこも世知辛いねぇ。
まぁ今の俺にとっては好都合だけど。
「もしコースケさんさえ良ければですが、私のいる宿屋でもいくつか募集があった筈ですよ。
職業系のスキルがあれば即戦力ですし、コースケさんなら大歓迎だと思います」
「本当ですか!?それはありがたいなぁ」
これは渡りに船だ。
知らない土地で働くというのは結構しんどいもので、おまけにここは”異世界”ときた。
出会ったばかりとはいえ、見知った人がいる所で働くことができれば本当にありがたい。
「それでは、町に着いたらお店まで案内しますね」
「ありがとうございます。助かります」
「いえいえ。私でお役に立てれば嬉しいです」
フィゼさんマジ女神。エリザよりもよっぽど女神。
とはいえ、もし職が決まったとしても初任給が出るまでの間をどうするかという問題がある。
…この手は使いたくなかったが、ここは致し方あるまい。
『エリザさーん?エリザさんいますかー?』
『はいはーい。いまーす』
お、いたいた。なんちゃっての方の女神。
『で、なんの用?』
『金くれ』
『…恐喝?』
『だって俺、住むところすらないんだぜ?』
『…ヒモ?』
『うっさいわ!』
『仕方ないわねぇ…。ま、RPGだって最初は親とか王から軍資金を貰うものね』
『RPGて』
神様ってゲームするんだ。
『職無し文無し甲斐性無し。
自棄になって隣の…フィゼだっけ?その子襲われでもしたら、神様として寝覚めが悪いわ』
「襲うわけないだろ!?」
「え!?おそ…襲う!?」
しまった、また声に出してしまった。しかも、現状最低なワードを。
『あーぁ、またやった。学ばないわねぇ』
『誰のせいだと思ってんだ!クソ女神!』
ここから俺は、フィゼさんの誤解を解くためあらゆる言葉を尽くした。
そして、長い時間をかけ、なんとか町に着くまでに誤解を解くことに成功した。
『ギリギリセーフ、よかったわね』
こいつ…!
こっちは町到着からの通報、投獄までのRTAで新記録を樹立するところだったんだぞ。
許せません、慰謝料を請求します!




