6話 馬車と浪漫とクエスチョン
うーん。いろんなスキルがあるが、名前だけじゃよくわからない物も多いな。
まぁ詳しい説明は今度時間がある時に見てみればいいか。
…おっ、【騎乗】があった。しかし、これだけ多いと一度耳にしたスキルを探すのも一苦労だな。
『ちなそのウインドウ、スキル名でサーチできるわよ』
『マジか。つくづくPCみたいだな』
【念話】【情報共有】【異言語理解】
なるほど、探したいスキルを思い浮かべるとその場所にスライドできるな。これは便利だ。
…っと、いかん。文字の羅列で目がちかちかしてきたぞ。
スキルの確認はここまでにしておこう。
「それにしても、随分と大荷物ですね」
俺の言葉に、馬車の揺れと暖かい陽気にまどろみかけていたフィゼさんがハッと目を覚ます。
心情としては寝ていてもらっても全く構わないのだが、何分俺には土地勘がない。
フィゼさんの道案内がないと、町に到着できないのだ。
「町から町までは距離がありますから、できるだけ沢山買いだめしておきたくて」
「なるほど。そりゃ馬車が必要なわけだ」
「えぇ。乗れないとは言っても、これだけの荷物は流石に私一人じゃ運べませんからね」
「でも女性一人だとなにかと不便なんじゃないですか?」
「そうなのですが、お店も人手不足なので買い出しぐらいは一人でできないと。
この辺りには野盗もほとんどいませんし」
それを聞いて安心した。
エリザの話では、俺は戦闘系のスキルをほとんど持ってないらしい。
それはそうだろう、前世でも殴り合いの喧嘩なんてしたことがないからな。
おまけに武器も持ってない。”ないの三拍子”が揃った、戦闘能力皆無の男なのだ。
「よかった。比較的安全な地域なんですね」
「そうですね。とはいえ、低級の魔物ぐらいなら出てきますけどね」
あちゃー…野盗がいなくとも、魔物はいるのか。
「魔物…もし遭遇したら、どうするんですか?」
「こう見えて私、簡単な魔法なら使えるんです。
低級の魔物程度なら遅れを取りません」
「おぉ、凄い!」
「ふふん!」
胸を張って得意げにしているフィゼさんが、なんとも愛らしい。
それにしても、ついに魔法という言葉が出たか。
『なぁエリザ。魔法ってのはスキルとはまた別物なのか?』
『そうね。魔法は体内の魔力を消費して放つもので、スキルとは異なるわ』
『それはその…俺にも使えるのか?』
『なに?使いたいの?魔法』
『そりゃ憧れはあるさ。魔法は男のーーいや、全人類の浪漫だからな!』
『浪漫は知らないけど、残念ながら貴方からはほとんど魔力を感じないわね。
無理もないわ。だって魔法の無い世界から転生してきたんだもの』
くぅー!スキルは盛られてたのに、そんなところだけ妙にシビアなんだから!
女性一人だなんだと言ったが、フィゼさんの方がよっぽど戦闘力があるのでは…?
『そうか…実に、実に残念だ』
『まぁ魔力を増幅させる媒介さえあれば、ちょっとした魔法ぐらいなら使えるんじゃない?』
「やったぜ!」
「えぁ!?!?」
突然の俺の大声に、フィゼさんの小さな体が大きく飛び跳ねた。
やらかした…テンションが上がって、普通に大声で叫んでしまった。
その上、綺麗なガッツポーズまで披露してしまっている。
『貴方そのうちその子に通報されるわよ』
『気をつけます…』
「?????」
あぁ、フィゼさんの頭上にいくつものクエスチョンマークが浮かんでいるのがわかる。




