4話 俺のスキル、多スギルスキル
町に向かいながら、俺はフィゼさんとの会話を楽しんでいた。
エリザからの情報が心許ない分、この世界のことをいろいろ聞いておきたい。
とはいえ、あまりがっつくわけにもいかない。俺はあくまで、遠くの町から来た”迷子さん”なのだ。
フィゼさんの住む町は、ここから徒歩で2時間ほどの場所にあるらしい。
彼女はその町の宿屋で働いていて、今日は別の町に買い出しへと出かけていたそうだ。
そしてその帰り道で、俺と遭遇したというわけだ。
…正直なところ、2時間と聞いた時に俺は「そんなに歩くのか」と思った。
だが、フィゼさんにとっては”わりと近い”という感覚らしい。
徒歩での長時間の移動が苦でないあたり、エンジンを積んだ乗り物なんかはまだ存在しないのだろう。
フィゼさんは俺の出自については、何も聞いてこない。
まぁ親が死んで住む家もないとなると、聞くことを躊躇ってしまうのも無理もないか。
「とりあえず町に着いたら、働き口でも探さないとなぁ」
「そうですねぇ…なにか職業系のスキルは持ってないんですか?」
「スキルですか。うーん…」
結局俺、どんなスキルを持ってるんだ?その確認の仕方がわからない。
いっそフィゼさん聞くか?…いや、この世界ではスキルが当たり前に存在しているのだ。
だとしたら、大の大人がそんなことを聞くのは流石におかしいだろう。
いかん。こっちはこの世界についての義務教育が終わってないんだ。
とりあえずここは一旦、話題を変えよう。
「ところでフィゼさん、俺に付き合って歩かなくても大丈夫ですよ。
馬に乗った方が楽じゃないですか?」
「あぁ、いえ。お恥ずかしながら私、馬に乗るのが下手なんです…。
当然【騎乗】のスキルなんて持ってませんし」
こ、ここでもスキルか…!
これはスキルの知識なくして、この世界で生きていくのは到底無理なのでは?
ーーエリザ、ヘルプミー!!
『呼んだ?』
俺の心の叫びに答えるかのように、エリザの声が頭に響いた。
「おぅ!?」
「はひ!?!?」
突然のエリザの声に、素っ頓狂な驚きの声を上げる俺。
更に俺の声に驚いたフィゼさんの悲鳴が上がるという、間の抜けた三重奏の完成である。
「エ、エリザ?どこにいるんだ!?」
思わず辺りを見回すが、声の主であるエリザの姿は見当たらない。
「へ??へ??」
釣られたフィゼさんが、辺りをきょろきょろと見回す。
そしてなにか奇妙な物を見るかのように、俺の顔をおずおずと覗き込む。
『私は今、天界から貴方の脳内に直接語りかけてるの。
隣の子には聞こえてないから、貴方このままだとただのやべぇ奴よ』
そういうことは先に言え!
「コースケさん…?ど、どうされました…?」
「いえ、あの、その…。
ーーこれまでのことを考えていたら、ショックから幻聴みたいなものが聞こえた…のかもしれません」
「そ、そうなんですか…?あの、お気を確かに…?」
いや、これもうただのやべぇ奴に両足突っ込んでるだろ、俺。
『私に向けて念じてくれれば貴方の声もこちらに届くわ』
『それ、もうちょっと早く言ってくれません!?』
『ソーリーソーリー。ちょっとした神様ジョークよ』
こいつマジにやったんぞ。絶対勝てないだろうけど。
『はぁ…もういいっす』
『悪かったわよ。とにかく、どうやらスキルのことでお困りのようね。
所持しているスキルは【スキルオープン】と念じることで確認できるわよ』
めちゃくちゃ簡単じゃないか。…尚更事前に説明しとけよ。
心で悪態を吐きながらも、とりあえず女神様から言われたことを試してみる。
【スキルオープン】!
念じるや否や、俺の目の前に巨大なPCのウインドウのようなものが現れる。
そこには膨大な数の文字列が刻まれていた。…もしかしてこれ、全部スキル?
「えっ…俺のスキル、多すぎない?」
「はい?」
いかん、思わず声に出てしまった。
そしてどうやら、このウインドウはフィゼさんには見えていないらしい。
『ちなみに貴方が持ってる【情報共有】のスキルで、隣の子にも同じ物を見せることができるわ』
うーん、スキルって便利。
「フィゼさん。ちょっと【情報共有】?ってやつをするので、俺のスキルを見てもらってもいいですか?」
「あら、便利なスキルをお持ちじゃないですか。でも私が見ちゃってもいいんですか?」
「はい。なにか仕事に使えそうな物がないか、確認してみてください」
それでは【情報共有】っと。
「どれどれ…って、なんなんですかこのスキルの数は!?!?」
「あ、やっぱりちょっと多い感じですかね?」
「ちょっとなんてものじゃありませんよ!
こんな数のスキルを所持している人、見たことも聞いたこともないですよ!?」
ですよね。だってこのウインドウ、巨大な上にスクロールバーみたいなの付いてますもん。
…女神ちゃんさぁ。俺、チートはやめてって言ったよな?いい加減怒るぞ。




