40話 前門の野盗、門内の道具屋さん
ガルドさんと野盗達との睨み合いは続いている。
エドガーさんも、武器を握りいつでも馬車から飛び出せるよう態勢を整えている。
さっきまでは暖かい…むしろ少し蒸すかなと思っていたぐらいなのに、今は張り詰めた空気が冷たく身を刺している。
オズワルドさんに目をやると、緊張感は保っているが焦ったりはせず落ち着いた様子が見て取れる。
その様子を見て、俺もなんだか少し安心した。ギルドマスターともなれば、こういういざこざも慣れっこなのだろうか。
…なんていうことを考えていると、馬車の戸が少し開き連れ合いの馬車に乗っていたサーシャさんがこちらへと移動してきた。
このパターンは、出発前に予めガルドさんから説明を受けていた。ーー緊急事態。
つまり、戦いは免れないということだろう。
エドガーさんが馬車を飛び出し、ガルドさんから一歩下がった位置に陣取る。
もう一台の馬車からラムレスさんとレイアさんも出てきていて、こちらは更にその後方を固める。
乗り合っている御者さんも短剣を携え、万が一に備え馬車の中で臨戦態勢を取る。
サーシャさんはというと俯いたまま、少し震えているように見える。こちらに来てから一言も発していない。
…そりゃそうだ、こんな状況怖いに決まっているだろう。かくいう俺の足も絶賛バイブレーション中だ。
「サーシャさん、大丈夫ですか?」
震えを悟らせないよう声をかける。こっちがビビり散らかしてたら、余計にサーシャさんの不安を煽ることになる。
こういう時に強がらなきゃ男がすたるというものだ。
「…許せない!!」
「…え?」
返ってきた言葉は、俺の想像していたものと全く違っていた。…許せない?なぜ?なにが?Why?
「ラムレスさんとレイアさんが言ってた…あいつら、こっちを待ち伏せしてたみたいだって。
積み荷のこともなにか知っているんじゃないかって」
なるほど。やっぱり、向こうの二人もそう推察していたのか。この襲撃には何か裏がある、と。
「あの野盗達は、恐らく何者かに雇われたのでしょう。裏で糸を引く黒幕がいる筈です。」
「黒幕…ですか?」
「えぇ。…そしてその黒幕は、我々が運んでいる物が”契約のポーション”であると知っている可能性が高いですね。」
いよいよもってきな臭くなってきたぞ…。混乱している俺をよそに、隣でサーシャさんがわなわなと震えている。
オズワルドさんの話を聞いて振動レベルが一段階上がった気がする…恐怖じゃなくて怒りで震えてたんですね。
「雇われただかなんだか知らないけど、あんなサイテーのポーションを奪おうとしてくるなんて…
もう頭来るったらありゃしないわよ!」
「サーシャさん、アイテムに関することだと人が変わりますね…」
「悪い!?」
「い、いえ!!!」
い、いかん。野盗も怖いがサーシャさんも怖い。いや、むしろ今はサーシャさんが怖い。
野盗め…俺をこんな目に合わせるなんて…!!
「どうやらそちらさんもやる気みたいだな」
「ま、騎士団サマの面子ってやつもあるもんなァ。ご苦労なこったぜェ!」
ランド兄弟の軽口に、ガルドさんが一瞬ピクッと肩を震わせる。
「おう!野郎ども待たせたな。仕事の時間だ!」
大男の一言を皮切りに、野盗達がジリジリと距離を詰めてくる。
「…全く、舐められたものだな。各員、騎士団の力を見せてやれ!!」
「「「はっ!!!」」」
ガルドさんの号令に、団員が呼応する。戦いの火蓋が今、切って落とされた。
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