38話 闇を包む更なる漆黒
町の外れにある一軒のあばら屋の前に立つ、二つの影…窓からは薄い光が漏れていた。
「あの野郎、来てやがんなァ。…一応約束の時間は守れるらしいぜェ?」
「結構なことじゃないか」
ギィ…
扉を開くと、中には先客が一人。いかにも荒くれ者といった風貌の大男が椅子に座り、酒を飲んでいた。
「おう、お二人さん。例のターゲットとやらは町に入ったのかい?」
その先客が二つの影…ギグスとリドルに声をかける。
「あぁ。どうやらここまでは順調に進んでいるらしいな」
「騎士団の奴らは4人…下っ端の御者を合わせても6人ぽっちなんだろ?
大した数でもねえ、夜が更けたら一気に襲っちまおうぜ」
「あァ?ンなことしたらすぐに衛兵どもがワラワラ湧いて来やがんだろォが」
リドルが不機嫌そうに返す。確かに、騎士団と町の警備隊は連携していると考えるのが普通だろう。
「連中の出発は日が出てからだ。こちらは夜中の内に町を出て、少し離れたところで待ち伏せをする算段だ。
…前にも一度説明したはずだが?」
「へーへー。ご高名なランド兄弟ってのは随分と臆病…っと失礼、慎重でいらっしゃるんだな」
軽口を咎められた男が二人を挑発するようにそう言い放つ。
「…てめェ、喧嘩売ってんのかァ?」
「やめておけ、リドル。こんなところで騒ぎを起こすんじゃない」
騎士団一行が入った宿から距離が離れているとはいえ、町の警備は今、警戒状態にある。
もし誰かに騒ぎを聞きつけられでもしたら計画が水の泡だ。
「チッ!!」
イラついたリドルが男の飲んでいた酒の瓶を奪って、残った中身を一気に呷った。
「…オークス、口が回るのは結構だが、勝手な真似だけはするんじゃないぞ。お前の手下にもそう伝えておけ」
「わかりましたよ、と。さーて、貰った前金もあるしアジトで前祝とシャレ込もうかねぇ。ハハッ!」
オークスと呼ばれたその男は、あばら屋から町の闇へと消えて行った。
「…なァ、あんな奴ら本当に使いモンになんのかァ?」
リドルがギグスに問う。
「王国騎士団…しかも副団長のガルドが帯同しているんだ。それなりに頭数は必要だろう。
それに、あいつらはこの辺りを縄張りとしている盗賊団だからな。土地勘はある」
「ケッ。…それにしても、まさかマジに副団長サマまで出張ってるとはなァ。”盗品”ってのはそんなにヤバい代物なのかねェ?」
「さぁな…それにしてもリドル、この依頼だが事前情報が正確過ぎるとは思わんか?」
そう。ここまでの情報は、例の依頼主から予め与えられていた物だ。
そもそも、ヨルダの町から王都へのルートは幾つかある。
その中でも一行が辿るのがこの町を通るルートであること…もっと言えばそのタイミングすら、
ある程度の予測とはいえ事前に教えられていたのだ。
「確かにきな臭さは感じるなァ…ま、羽振りのいい仕事っていうのは大抵きな臭いもんだろォ?ケヒヒ!」
「それはそうだがな…まぁ深入りしない方が身のためってもんかね」
しかしギグスの感じている悪い予感は、その予想を大きく上回る形で的中することになってしまうのだった…。




