37話 副団長様はハイセンス
三日目の昼過ぎ、今日は嬉しい出来事が予定されていた。
というのも、順調に旅路が進んでいれば今日の夜は町の宿に泊まれるという話だったのだ。
「コースケさん、町が見えてきましたよ」
「え!?…あ、本当だ!」
「ふむ。予定通り、今日はあの町の宿で一晩過ごすとしよう」
「よっしゃー!」
いくら王都仕様の馬車といえども馬車は馬車だ。人や荷物を”運ぶ”ためのものであって”暮らす”ためのものではない。
休憩を挟みつつだが日中は常に尻に地面の揺れを感じながら行軍し、夜は馬車の中で寝袋に包まれて芋虫状態。
前世より若く生まれ変わった体とはいえ、流石に堪える。
「随分と嬉しそうだな」
「いやー、お恥ずかしながらそろそろ体のあちこちが痛くなってきてまして…。ベッドが恋しいです」
「おやおや、まだお若いのに情けない…ガルドさん、少しコースケ君のことを鍛えてあげてもらえませんか?」
「あぁ、構わない」
「えぇ!?ちょっ、それは…」
騎士団副団長様直々のシゴきなんてキングofパンピーの俺に耐えられる筈がないでしょう!
「ふふっ。冗談ですよ、冗談」
「か、勘弁してくださいよオズワルドさん…ガルドさんも…」
「私は本気だが?」
「ヒィッ!?!?」
「ハハ。すまない、冗談だ」
ガ、ガルドさんって、こんな感じで冗談を言う人だったのか…。
「それにしてもコースケ君のマッサージは素晴らしい効果ですね。立場上私も王都には何度か出向いたことがありますが
三日目でこんなに体が軽いのははじめてですよ」
「【リラクゼーション】か。他の団員も皆有難がっていたよ。無論、私もだ。
まさか道中でこれ程までの施しを受けられるとはな」
朝、時間があれば御者の方を含めた全員に【リラクゼーション】を施すのをこの旅の日課とすることにしたのだ。
もちろん労わりの意味もあるが、特に団員さんと御者さんのコンディションはイコール全員の安全に直結するからな。
…一応馬の脚にもやってみたらなんとなく嬉しそうにブルンブルンしていたので、面白いのでこっちも続けていこうと思う。
「お役に立ててなによりです。自分に使えないのが残念ですけどね」
「ふむ…そうなると、やはり体を鍛えるしか…」
「いやいやいやいや!!」
クソッ!!この副団長、天丼まで使ってきやがる!!
…と、ここで騎馬で先行していたエドガーさんがこちらに向かって来た。グッドタイミングです。
「隊長、今日は予定通りで大丈夫ですか?」
「あぁ。この先の町で一泊することにしよう。手配は任せた」
「承知しました!」
「警戒態勢についても手筈通りにな」
「は!!」
はーーー。愛しい愛しいベッドちゃん…待っててね、今行くよ…。




