36話 俺の生きる道
王都への旅も三日目となり、ここまで別段大きな問題もなく順調に旅程は進んでいる。
と言っても、道中まったくアクシデントが無かったわけでもない。
しかしオズワルドさんも言っていた通り、流石は精鋭揃いの王国騎士団のメンバー
先行している騎馬からの合図で馬車が止まったかと思うと、ものの数分もしない内に安全が確保されたと
進行が再開されるといったことが何度かあった。最初の内は「なにかトラブルでもあったのかな?」
と思って馬車から外を覗くと、遠くにさっきまで魔物だったもの転がっていて普通にビビったもんだ。
「お疲れ様です。いやー、騎士団の方達ってやっぱり滅茶苦茶強いんですね。」
「幸い大した魔物ではなかったからな。しかし、なにが現れようと君達の安全は私達が保証するから安心してくれ。」
「はい!」
件の騎馬役をエドガーさんと交代し、ガルドさんが馬車の中にやってきた。
騎士団の副団長ともなると少しお堅い人なのかなと思っていたが
いざ話してみると団員の方達から慕われているのがよくわかる、とても話しやすい人であった。
「そういえばコースケ君は鑑定以外にも色々スキルを持っているみたいだな。」
「あ、はい。…戦闘系はからっきしですけど。」
うーん、スキルだのなんだのの話をする度に「僕は戦えない男なんです…」と白状するのは心に来るぜ…。
「別に戦うだけが生き方ではないだろう。」
「そうですよ、コースケ君。君ならギルドの依頼でも引く手あまたでしょう。
それどころか、ギルドの職員として私がスカウトしたいぐらいですよ。」
「あ、ありがとうございます…。いやー、お二人から褒められると照れちゃいますね。」
王国騎士団副団長とギルドマスターの二人にそう言われれば、俺の自己肯定感も上がってしまうというものだ。
「実際に王都でもそういった勧誘を受けるだろうな。」
「あー…やっぱりそうなりますよね…。」
「ふむ。あまり乗り気ではなさそうだな。」
「うーん…すみません、そういうわけでもないのですが…。」
そろそろ身の振り方を決めないといけない時が来ている…それはわかっているつもりだ。
鑑定スキルのことを公にしたあの時から、もしもの時の覚悟も決めている。
ただ、実際のところ俺がこっちの世界に来てまだ一ヵ月程しか経っていないのだ。
たった一ヵ月で今後の一生が決まってしまうかもしれないのだから、ちょっとは優柔不断でいても許して欲しい。
「もし君が王都での生活を望まないというのなら、微力ながら私からも口添えしよう。」
「え?」
「生き方は自分で決めるべきだ。誰かから強制されるものではない。私だって自分で選んで騎士団にいるからな。」
「い、いいんですかね…?その、俺みたいなものでもスキルがあれば国の役にも立てるのに…。」
「国のために何かをすることに、場所は関係ないだろう。王都が国の全てではあるまい。」
「!!」
「ほう…。」
「我々は確かに今王都に向かっている。だが、事の発端は君達の町で起こった。
君がヨルダの町にいたからこそ、今回の件は迅速に解決に向け動いている…違うか?」
「確かに…。」
ガルドさんの言葉にハッとさせられた。
今回の件で、俺は王都というものに思考を囚われ過ぎていたのかもしれない。
「王都は力を持った人材を必要とし、集っている。
しかし、そのような人材全てが王都に集中してしまうことが国にとって最善だとは私は思わない。」
「ガルドさん…ありがとうございます。俺、一歩進めたような気がします。」
「それは良かった。…ただ…。」
「ただ?」
「今の発言、本来私の立場上するべきではないものでな…口外はしないでもらえると助かる。」
「はは、もちろんですよ。」
「私もお約束します。
…コースケ君。前にも言いましたが、もしもの時はギルドとしても貴方に口添えしますのでご安心を。」
「お二人とも、本当にありがとうございます。俺は俺のやるべきことを探してみようと思います。」
強力な助っ人も増えたし、生き方を考えるいいチャンスにもなった。
今回の旅に同行できたのは俺の人生のターニングポイントだったのかもしれない。




