34話 Let's3分クッキング
朝。日が昇るより前に目が覚めた俺は、側に流れる川で顔でも洗おうと馬車から降りる。
就寝の際は、俺とオズワルドさんが一台の馬車に。そして、もう一台の馬車で御者さん三人が床に就く。
騎士団の四人は男女に分かれ、それぞれ別々のテントで就寝する。サーシャさんも当然、女性組のテントで一緒に寝ている。
そして、騎士団の人達はそれぞれ交代しながら寝ずの番で周囲の警戒に当たってくれている。
今この時間は、ラムレスさんがその任に就いているようだ。
「おはようございます、ラムレスさん。」
「あれ?コースケさん、随分早いお目覚めですね。」
「えぇ、まぁ。宿場で働いてると、どうしても朝は早くなっちゃいますね。」
「え?宿場で…?【アイテム鑑定】を持っているのに…ですか?」
「はは、そうなんです。ちょっとそこで顔洗ってきますね。」
「え、えぇ。」
冷たい川の水で、顔を洗う。少し眠気が残っていたが、これだけで一気に目が覚める。
うーん…やっぱり寝袋があるとはいえ、馬車の中で寝るとなると少し体が痛いな…。
昨日ガルドさんから聞いた話によると、なにも道中は野営ばかりではなく、町を経由する際は宿場に泊まるらしい。
まぁ野営って単純にリスク高いよな。近くに立ち寄れる町があるのなら、そこに泊まるに越したことはないだろう。
…というか、俺なんかよりオズワルドさん、年齢的に体は大丈夫なのかね…。
よし、起きたら【リラクゼーション】で労わってあげよう。良ければ他の人達も。
「コースケさんは、王都で鑑定士として勤めたりはしないのですか?」
川から戻ってきた俺に、ラムレスさんが当然の疑問をぶつけてきた。
「そうですねぇ…今はヨルダの町での暮らしが楽しいもので。」
「そうですか…。少し、勿体ない気もしますが…。」
「…と言っても、王都での話次第ではそうも言ってられなくなるかもしれませんけどね。」
「…王都、嫌なの…?」
「んぉ!?あ、レ、レイアさん…おはようございます。」
「…おはよう。」
突然かけられた後ろからの声に、心臓が飛び出るぐらい吃驚した。け、気配が全く無かったぞ…。
流石はアーチャー…いや、これはレイアさんだからこそ為せる業のような気もする。
「おはよう、レイア。そろそろ皆起きてくる頃かな?」
「…うん…コースケ、王都で働くのは嫌なの…?」
「いえ、別に嫌ってわけじゃ…。」
「…王都で働けば、今よりもっとお金も貰える…。」
「まぁ、それは確かに…ただ自由が無くなりそうで…。」
「…なにかやりたいこと、あるの…?」
「やりたいこと…。」
そういえば、状況に流されるばかりであまり考えてなかったな…。
異世界に転生して来て、なんやかんや今のところ順調にスローライフを満喫している。
…今の生活は確かに楽しい。でも、この生活を続けていくことが俺の求めていたことだったのだろうか…?
周りに与えられた力をひた隠しにして、平凡な日常を送り続けることが…。
「…いけない!レイア、早く朝食の支度を始めるわよ!…隊長が目を覚ます前に!」
「!!…わかった。」
「…あのー、ガルドさんの料理って、そんなにヤバいんですか?」
「ヤバいなんてレベルじゃないです。あれはもう一種の錬金術…。
きっと、なにか隠れたスキルを持っているに違いありません…。それなのに、本人は料理をしたがるんです。」
「…状態異常のいくつかは、覚悟した方がいい…。」
「そ、そんなに…!?」
「あぁ、もう隊長が起きてきてしまう!早いところなんとかしないと…。」
一体どんなレベルの料理が出てくるんだ…。正直見てみたいという好奇心はあるが、
如何せん状態異常とまで言われてしまったら恐怖の方が上回る。となるとここは、俺の出番だ。
「お二人とも、ここは俺に任せてください。」
「…え?コースケさんに?」
積み荷の中から適当な食材をチョイスし、並べる。鍋と食器の準備も忘れずに。
幸いなことに、今回の旅ではラムレスさんの魔法による”氷”での食材の運搬が可能だ。
そのおかげで、卵なんかの生鮮食品もいくらか使用できるのがありがたい。
今日の朝食はパンとちょっとしたスープと、それとベーコンエッグを作ることにしよう。
御者さんの分を含めると、10人分。簡単なメニューとはいえ、普通ならそこそこの時間がかかる。
…しかし、俺には便利なスキルがあるのだ。レアスキルはともかく、他に関してはもう出し惜しみは無しだ。
【食材調理】
「こ、これは…!」
「…スープだ…。」
用意した鍋の中に、一瞬の内に大量のスープが出来上がる。
…ちなみに俺は一度、受け皿である鍋を用意せずにスキルを使ったことがある。
結果は、大量のスープを盛大にをぶちまけてベティスさんに大目玉…二度と同じ轍は踏まないぜ。
続けて
【食材調理】【食材調理】【食材調理】………
「え!?…えぇ!?」
あっという前に人数分のベーコンエッグの出来上がりだ。一度に大量に作れるスープとは違って、
こいつはスキル一回につき一人前しか作ることが出来ない。だが、クールタイム皆無の俺にとっては関係のない話だ。
後は持ってきたパンを並べて、朝食の準備が完了した。
「な、なにがどうなってるの…?」
「…美味しそう…。」
混乱するラムレスさんとは対照的に、レイアさんはもう出来上がった料理に完全にロックオンしている。
流石はアーチャー…いや、関係ないな。
「皆、おはよう。…なんだかいい匂いがするな…おっと、もう食事の準備ができているのか。」
食事の匂いに釣られてか、ガルドさんがテントの中から出てきた。…間に合ったな。任務達成。
残りのメンバーも続々と目を覚まし、俺達は出来立ての朝食にありつくのであった。




