33話 明るい道中と、暗い闇の中
食料等の荷物を馬車に積み込み、王都への旅路が始まった。
道中の移動手段は、馬車が二台と、それとは別に馬が一頭。
隊列としては、先頭に騎馬。そして後ろに馬車が二台続く形になる。
先頭を走る騎馬は、ガルドさんとエドガーさんが交代で騎手を務め、周囲の警戒をしながら進んでいく。
二台の馬車は、三名の御者が持ち回りで操縦を担当する。
騎馬の後ろを走る馬車には、操縦者を除くとまずは俺とオズワルドさんが固定メンバー。
そしてガルドさんとエドガーさんのどちらかと、御者の内の一人が同乗する。
つまり交代制の任を休憩中の者が乗るので、計四名。
殿を務める馬車にはラムレスさん、レイアさん、サーシャさんの三名と、後は荷物の大半が乗っている。
ちなみに”契約のポーション”は俺が乗っている真ん中の馬車に積んである。
「エドガーさん。王都の周辺には、強い魔物が出たりするんですか…?」
「ん?そうだねぇ…少なくとも、君が住んでいる町の周辺よりはそうだと言えるね。」
「おっかねぇ…。」
「はは、安心してくれ。そうは言っても、俺達だって騎士団の一員だ。
君やオズワルドさん、サーシャさんに怪我なんてさせやしないさ。」
「そうですよ、コースケ君。彼等王国の騎士団は、とても優秀な方達の集まりですからね。」
「いやぁ、照れますねぇ…。まぁ俺なんかはともかく、ガルドさんは騎士団の副団長なんだ。
そんじょそこらの魔物なんかに後れは取らないよ。」
「えぇ!?ガルドさんって、騎士団の副団長だったんですか!?…さっきは隊長って呼んでませんでした?」
副団長ってことは騎士団で…多分二番目に偉い?強い?ってことだよな。
「あぁ、こういう任務中は隊のリーダーは基本的に隊長と呼ぶことになっているんだ。
それに、ガルドさんは副団長と呼ばれることがあまり好きじゃないみたいでね。どうにも柄じゃないらしい。」
「そうなんですか…?普通に威厳たっぷりって感じでしたけど。」
「はは、あぁ見えて根っからの堅物ってわけでもないんだよ。ま、気になるなら後でまた話をしてみるといいさ。」
「わかりました。…王都の騎士団の方達って、意外と話しやすい感じなんですね。」
「まぁね。それに、長旅なのにお互いガッチガチに緊張しててもつまらないだろう?」
「それは…確かに。」
それからしばらく経った後、段々と馬車の動きがゆっくりになり、やがて完全に停止した。
しかし別に何かイレギュラーが起きたわけではない。馬だって当然、走り続けていれば疲れがくる。
つまりここらで一旦休憩…そういえば、お腹も空いて来たな。そろそろ夕飯時だろうか?
先頭を走っていたガルドさんが、こちらに近づいて来る。
「日も沈んできた、今日の行軍はここまでとする。エドガー、野営の準備を始めるぞ。」
「了解しました。」
後ろの馬車からラムレスさんとレイアさんも出てきて、てきぱきと野営の準備を進める。
あまりに手慣れた素早い動きに、俺達ヨルダ三人組は下手に手出しもできず、
その様子を眺めていることしかできなかった。
「すみません。お手伝いもできなくて…。」
「いえいえ、サーシャさん。これは俺達の仕事ですから、お気になさらないでください。」
「でも…。」
「あ!だったらサーシャさん、私と一緒に食事の準備をしませんか?」
「…私も手伝う…。」
「はい!是非手伝わせてください!」
「ほう。食事の準備なら私も…」
「「「いえ、隊長はゆっくり休んでいてください!!」」」
ガルドさんの声を遮るように、他の騎士団員全員の声が夕暮れの野にこだまする。
これは…ガルドさん?貴方ひょっとして、ひょっとしなくても…相当の料理音痴ですね?
それにしても、レイアさんってこんなに大きい声出せたんだな…。
「そ、そうか…?それでは少し、休ませてもらうとしよう。」
そうしてください。俺達の胃袋の安寧のためにも。
というか、なんか俺も手伝う機会を失ってしまったな…。明日の朝食作りの当番は、是非立候補させてもらおう。
「これが、依頼されていた男の首だ。」
「…確かに。」
街の外れ…古びた倉庫のような場所で男が三人、密談をしている。
その内の二人は、盗賊を追っていたギグスとリドルだ。二人は取ってきた盗賊の首を、もう一人の男に見せた。
「…しかし、盗品の回収はできなかった。」
「おっと!でも品の在り処はちゃーんと聞いてきたぜェ?」
「…知っている。ヨルダの町だろう?」
「!?…アンタ、何故それを?」
「口を慎め。…しかし、そちらはもうよい。その品は今、この王都へと向かって来ている。」
「なにィ?」
「しかも王国騎士団の護衛付き、でな。こうなった以上、もうお前達のような者の手に負える話ではない。」
「王国騎士団が…?」
「そいつは聞き捨てならねぇなァ?王国騎士団だろうがなんだろうが、俺達二人の相手じゃねェ!
そうだろォ?ギグスの兄貴よォ!」
「…あぁ。こちらに向かっているというのなら、むしろ好都合だ。このままヨルダの町の方面へ向かえば、
いつか鉢合わせるということだろう。」
「……。」
「しかし騎士団が相手だというのなら、報酬の増額を認めてもらわらなきゃならんが?」
「いいだろう。もし目当ての品を持ってこられたら、更に40万ガルド…合計で120万ガルド払ってやろう。」
「ケヒヒ!こいつァ大判振る舞いだぜェ!」
「…わかった。契約書の更新を頼む。」
「あぁ。用意する。」
…
……
………
「…チッ。冒険者風情が偉そうな口を…!…まぁよい。どうせ最後には…クハ、クハハハハ!」
二人組の男が去り、残された男が一人、暗闇で笑い声を上げる。その声は、静かに闇の中へと消えていく…。




