29話 マスター、ポーション1杯
羨望の眼差しを向けるサーシャさんに少し気恥ずかしさを覚えながらも、俺はこの謎ポーションに【アイテム鑑定】を使用した。
果たして、その結果は…。
【ポーション】…ん?名称は【アイテム識別】と同じで固定なのかな?まぁ肝心なのは効果か…どれどれ?
【ポーション 効果:対象の相手を【服従状態】にする。ただし、この効果を伝えた上で服用させなければ、効果は現れない。】
服従状態…?なんかちょっと、危険な響きだな。
「感激だわ…!こんな間近で【アイテム鑑定】を見られるなんて…!」
「それでコースケさん、結果はどうでしたか?」
「えーと…どうやらこいつは、対象を【服従状態】にするポーションみたいです。」
「【服従状態】…ですか?」
「はい。あとなんか、効果を伝えた上で服用させないと効果がないって出てますね。」
「効果を伝えた上で…【服従状態】…だと!?おいおい、まさか…。」
「あら、ドレルさんはなにか心当たりがあるのですか?」
「【服従状態】?なんて、聞いたことないけどなぁ。」
「いや…俺も大分昔に噂で聞いた程度だ…。だが、そんなはずは…。」
「そ、そんなにやばいもんなんですか?これ…。」
「…おい、レミリア。オズワルドの奴は今日ギルドにいるのか?」
「え?マスターですか?…今日は午後にはギルドに顔を出すと言っていましたので、恐らくは…。」
「そうか。おい、三人とも。急いでギルドに向かうぞ。」
ギルドに向かう?そんでマスターって…それひょっとして、『ギルドマスター』ってこと!?
「そんなお偉いさんに会っちゃって、本当に大丈夫なんですか…?その、【アイテム鑑定】のこととか…。」
「…コースケ。もしもの時は腹ァくくれ。」
「えぇ!?」
そんなぁ!!
…でもこのドレルさんの焦り様、こいつはよっぽどヤバい代物のなのかもしれない。
そうなると流石に俺達だけでなんとかってわけには…いかないよなぁ。
…グッバイ、ヨルダの町。短い間だったけど、俺はこの町で暮らせて幸せだったよ…。
俺は覚悟を決めて、ドレルさん達と一緒にギルドへと向かった。
ギギィ…
「おう、ドレルだ。オズワルドの奴はいるか?」
「あ、ドレルさん。マスターですか?おりますが、その、面会の約束等は…?」
「ごめんなさい、アルマちゃん。とりあえずマスターに緊急の用があると伝えてもらえますか?」
「レ、レミリアさん!…わかりました、すぐに呼んできます!」
受付嬢のアルマさんとやらは、真顔のレミリアさんの圧に負けてカウンターの更に奥へとすっ飛んでいった。
こんなに緊迫した様子のレミリアさん見たら、そりゃ焦るだろうな…。
…程なくしてそのアルマさんと一緒に、一人の男性がこちらにやってきた。
こ、この人が『ギルドマスター』か…!正直もっと「どうも、伝説の戦士です。」
みたいな風貌の人が出てくるかと思ったら、意外にもナイスミドルな感じのおじ様だった。
「やれやれ…突然どうしたんですか?ドレルさん。それにレミリア君まで…。今日は休暇を取っている筈では?」
「おう、オズワルド。…緊急事態だ。どこか邪魔の入らねぇところで話せるか?」
「!!…わかりました。おや、サーシャさんもいらしてたのですね。…はて、そちらの男性は?」
「こいつはコースケだ。んなことより、とりあえず場所を移すぞ。」
「おっと、失礼…それでは応接室で話すことにしましょう。
…アルマ君。お茶はこちらで用意するから、暫く応接室の方へは近づかないよう皆に伝えてください。」
「わ、わかりました!」
「それでは皆さん、こちらへどうぞ。」
俺達は応接室に案内され、数分後にレミリアさんが人数分の紅茶を持って最後に入室した。
レミリアさんは最初、椅子に座らず直立していたが、オズワルドさんに促され渋々着席する。
「…さて。ドレルさん、緊急事態とは一体何事ですか?」
「まずはこいつを見てくれ。おい、サーシャ。」
「はい。」
サーシャさんは持参した袋の中から問題のポーションを取り出し、机の上に置いた。
「これは…ポーションに見えますが?」
「あぁ。だがただのポーションじゃねえ。…恐らくこいつは、”契約のポーション”だ。」
「な!?!?」
「”契約のポーション”…?アイテムの勉強は結構してきたつもりだけど、知らないポーションだわ。」
「えぇ。私もそんな名前のポーションは初耳です…。」
「そりゃそうだ。この”契約のポーション”は禁忌の代物だからな。」
「禁忌の代物…。」
「”契約のポーション”…それは、この国の恥辱の歴史その物です。なにせ、奴隷制度の象徴ですからね…。」
「ど、奴隷制度!?ちょっと、私そんな話聞いたことないですよ!?」
「…一体どういうことなのでしょう、マスター。」
「…その前に、ドレルさん。これは本当に”契約のポーション”で間違いないのですか?」
「あぁ。効果は【服従状態】。そして発生条件は効果を伝えた上での服用、だ。」
「…なるほど。して、誰がその鑑定を?」
と言いながら、オズワルドさんは俺の方をちらりと見やる。…そうだよなぁ。
誰かが【アイテム鑑定】で調べないと効果がわからない筈のオーダーメイドポーション+そこに当然のように座っている新顔。
=…このアンサーはもう、誰の目にも明白だ。この場において俺は、異物でしかない。




