28話 本当の強さ
「おいおいサーシャ、小難しい話は後にしてくれよ?」
「っとと、ごめんなさい。…あはは、商売柄アイテムのこととなるとつい、ね。」
「効果がわからないって、つまりこのポーションはここの商品ではないってことですか?」
…そういえばこのポーション、瓶にラベルが貼ってないな。
店に陳列されているポーションには、一目でそれがなんのポーションかわかるように貼ってあるのに。
「えぇ。昨日のことなんだけど、見たことない男が一人、商品を買い取って欲しいと店に来たの。
その時に持ってきた物の中の一つが、このポーションってわけ。」
「持ってきた本人はなんて言ってたんですか?」
「それが、「倉庫の奥底に眠っていた物を持ってきたから、わからない。」の一点張りでね…。」
「えぇ…?」
「恐らく、商人の馬車かなにかを襲撃して奪った盗品でしょうねぇ。」
「え!?この辺りにも盗賊っているんですか!?」
この辺、盗賊はいないって聞いてたのに…。迂闊に町の外に出るのが怖くなってきたぞ。
「そうですねぇ…。この辺りでも盗賊が全く出ないといわけではないのですが、頻度はかなり少ない方です。
それに、盗品を近場で売るとすぐ足がつきますからね。襲撃が起きた現場は、ずっと遠くだと思いますよ。」
「ま、この辺りの商人を襲ったって、大した金になる商品は持ってぇねからな。
デカい町の周辺に比べれば、賊から見てもリスクに対してリターンが小さすぎるんだろうよ。」
「はぇー…。」
たかだか二束三文のために盗賊としてお尋ね者になるのは、いくらなんでも割に合わないってことか。
…まぁこの世界だと、盗賊稼業も本当の意味で”命懸け”だろうからなぁ…。
「そんで、盗品を疑ったサーシャが買い取りを断ったら、そいつが店内で「いいから黙って買い取れ」だの騒ぎ出したらしくてな。
その騒ぎを近くで聞いてた奴がうちに伝えに来て、俺が駆け付けたってわけだ。」
「そしたらその男、持ってきたアイテムぜーんぶ置いて逃げ出しちゃったのよ。」
「え?お金も受け取らず、アイテムだけ置いて行っちゃったんですか?」
「…ま、ドレルさんがこのナリでバカデカい大剣担いで乗り込んできたからね…。そりゃ賊だって逃げるわよ。」
「た、大剣…?なんだってまた、そんなものを…。」
「あァ?店で騒いでる輩がいるんだ、鍛冶屋なら武器の一つぐらい持ってきて当然だろ。」
ま、まぁ…。それにしても、大剣を担いだドレルさん…いかん、想像しただけで恐ろしすぎる…。
「…ったく、騒ぐだけならまだしも、厄介なモン置いていきやがって。」
「ほんとにね…うーん、私も【アイテム識別】はできるんだけどなぁ…。」
「【アイテム識別】?」
「アイテムの名称がわかるスキルですね。」
「私達の商売は、このスキルがないとやってらんないわ。
勉強して勉強してこのスキルを手に入れて…やっと道具屋としてのスタートラインに立てるのよ。」
「そんなに重要なスキルなんですね。」
「えぇ。これ無しじゃ、すぐに悪徳な卸売り業者にまがい物を掴まされて泣きを見ることになるわ。
特にポーションなんて、舐めて効果を確認するわけにもいかないもの。」
「なるほど…。そのスキルだと、このポーションは識別できないんですか?」
「【ポーション調合】によって作られたオーダメイドポーションは、『ポーション』と識別されるだけで
具体的な名称や効果まではわからないの…。これが【アイテム識別】の痛いところね。」
「そこでお前の出番ってわけだ、コースケ。【アイテム鑑定】持ちのな。」
「…え!?コースケ君、【アイテム鑑定】が使えるの!?」
「…あらー。」
「ちょ、ドレルさん!?このスキルって、あまり口外しない方がよかったんじゃ…?」
いや、なにも別に、この二人が信用できないと思っているわけではないんだ。
…ただレミリアさんってギルド…つまり、お役人みたいなポジションにいる人ですよね…?
横目でちらりとレミリアさんの方を見やる。
「心配すんな。レミリアは野暮なことを言う女じゃねえ。なあ?」
「えぇ、大丈夫ですよ。それに私、今日お仕事はお休みですから。」
「そ、そういうもんですか…?まぁ、それならいいんですけど…。」
「ちょ、ちょっとコースケ君!貴方一体、どういう経緯でそのスキルを手に入れたの!?」
「落ち着け、サーシャ。こいつにはこいつの事情ってもんがある。」
「……。」
…一生懸命勉強して手に入れたスキルの上位スキルを、自分とそう年齢の変わらないような男が持ってるんだ。
内心、あまりいい気分ではないだろうな…。
「…凄い!凄いわ、コースケ君!」
「へ?」
「ねぇねぇ、アイテムのことだけじゃなくて、今度またいろいろ話を聞いてもいい!?」
「べ、別に構いませんけど…。」
「あぁんもう、こんな身近に【アイテム鑑定】できる人がいるなんて…憧れちゃうわぁ…!」
「お、おい、サーシャ…俺はてっきり、お前さんが落ち込むもんだと…。」
「落ち込む?なんで?」
「いや、だってよぉ…コースケとお前、そんなに年も変わんねぇだろ?そいつが【アイテム鑑定】持ちだと知ったら普通は…。」
「もう!なに言ってんの、ドレルさん。さっき自分で言ってたじゃない。」
「あァ…?」
「コースケ君にはコースケ君の事情があって、コースケ君の歩んできた道がある…。
その結果スキルを得たのなら、それは素直に凄いことじゃない!尊敬することはあっても、私が落ち込むことなんてないわ。」
「…そうか…そうだよな。すまねぇ、変なこと言っちまって。」
「ま、正直ちょっぴり羨ましくはあるけどね。
でもいいの!私ももっともっと勉強して、いずれ【アイテム鑑定】のスキルを手に入れるんだから!」
「ふふ、そうね。サーシャちゃん、貴方ならきっとできるわ。」
「ありがとうございます、レミリアさん!私、頑張っちゃいますよ!」
サーシャさん、強い人だな。…そうだ、俺はもっと誇るべきなんだ。このスキルを持っていることを。
俺が自分を卑下することは、サーシャさんの努力を否定することに繋がる。
…よっしゃ!いっちょこの【アイテム鑑定】、世のため人のため使わせていただきますか!




