26話 科学の力ってすげーって話
あれから数体スライムを狩った俺達だが、そこそこ時間も経ったし疲れてもきたので、町のすぐ近くまで戻ってきていた。
「コースケさん、お気を落とさずに…。ほ、ほら!最後の方はスライムも2発で倒せてたじゃないですか!」
「…でも、経験があるなら成人女性でも1発で十分倒せる相手なんですよね…?」
「えっと…それはその…はい…。」
はぁ…。こっちに来たばかりで仕方のないことなのかもしれないが、なんだか男として情けない気分になるぜ…。
こういう時は、一人草原で黄昏るに限る…。
「…すみません。少し疲れたので、風に当たってから帰ってもいいですか?」
「それは構いませんが…お一人で大丈夫ですか?」
「まぁここならもしなにかあってもすぐに町に逃げ込めますよ。」
「…それもそうですね。わかりました。」
「ベティスさんには夕方までに戻ると伝えてください。」
「はい。それではまた後で。…本当になにかあったら、すぐ町に戻ってきてくださいね?」
「は、はい…了解です。」
フィゼさん、めっちゃ心配そうだったな…。そりゃそうだよな…俺なんてどうせ、スライムすら2発斬らないと倒せない男だ…。
ふぅ…運動した後の体に、風が心地いい。それに静かで、心が安らぐ…。
『やっほー!調子はどう?』
『うぉ!?…なんだエリザか。驚かせるなよ。』
『そう言われてもねぇ。【念話】なんだから、ノックなんてできないわよ。』
『まぁそうだけどさぁ…。で、なんか用か?』
『あら、様子を見に来ただけよ。時々は覗きに来るって言ったでしょ?』
『あぁ…遊んでたゲームが一段落したってことか。』
『ギクッ!』
図星かよ。
『で、どうよ最近?異世界、エンジョイしてるぅ?』
『おかげさまでな。楽しくやらせてもらってるよ。』
『いいわねぇ。バリバリスキってるぅ?』
『うざ…つーか、スキってるってなんだよ…。』
『持ち前のスキルでぶいぶい言わせてるかってことよ。』
『あぁ…レアスキルだのを人前で使うと大事になるらしくて、あんまりスキれてないわ。』
『えー。もったいない。』
『お前は少し反省しろ。』
『…そのことなんだけど、やっぱり貴方のスキル、あれ私のせいじゃないわ。』
こ、こいつ…ついに責任逃れしやがったぞ…!
『いい?この世界での”スキル”は、前に貴方がいた世界で言う”科学”に相当するのよ。』
『はぁ…?』
『つまり、科学が発展する代わりにスキルが発現、発展して分岐したのがこの世界ってこと。
…貴方に分かりやすく言うなら、パラレルワールドみたいなものね。』
『パラレルワールド…あったかもしれない並行世界ってやつ?』
『そんな感じね。…科学の力は偉大よ。実際、この世界の文明は前の世界に比べても発展していないでしょう?』
『それは確かに。』
生活インフラ一つとっても、使えないわけではないけど前の世界に比べると幾分不便を感じることがある。
…魔法が使えればもう少し違うのかもしれないが、俺には無理だし。
それに当然インターネットなんてものも通ってない…というかそもそも電話線すら通ってない。
今はいいけど、今後暇つぶしに困ることもありそうだ。
『元は同じ世界からの分岐点の一つがここなんだから、時間の流れも同じよ。それなのに文明レベルには差がある。
これはスキルと違って科学がある程度誰にでも平等に使えることに起因しているわ。』
『…と、言いますと?』
『そうねぇ…例えば家事一つするにしても、使う道具は前の世界に比べたら貧弱でしょう?』
『貧弱て…まぁ、うん。』
電気冷蔵庫、電気洗濯機、白黒テレビ…昔の家電の三種の神器だっけ?あぁいった物は存在しない。
厳密に言えば冷蔵庫と洗濯機はある。が、冷蔵庫はデカい氷を入れてその冷気で中の物を冷やしているし、
洗濯機はハンドル手回し式。テレビに関しては影も形もない。
『そういった道具を使えば、この世界よりも高水準なことを前の世界では誰でも簡単にこなすことができたわけよね?』
『そりゃそうだ。』
『つまり”スキル”と”科学”がイコールであると仮定するならば、
その”科学”を利用して仕事をこなしてきた貴方には、その分”スキル”としての経験値が蓄積されてきてたってこと。』
『そ、そんなことが…?それなんかズルくねぇ?』
『別におかしなことじゃないでしょう?いい道具を使って美味しい料理を作ったそこらへんの一般人と、
大した道具はないけど美味しい料理を作った料理人…過程に差はあっても、味が同じなら結果は同じよ。』
『うーん…まぁ…そう、なのか…?』
『…例えを変えるわ。RPGでこん棒を装備して魔物を倒した時と、伝説の剣を装備して魔物を倒した時。
どちらも同じ魔物を倒したとしたら経験値は…?』
『…同じだ!!』
『ね?…ふふん、どう?これが私がSF小説読み漁って出した結論よ。』
えぇ…。そういう…えぇ…?前々から思ってたけど、神様って一体…?
『…じゃあ、もし仮に前の世界から俺以外の人間がこの世界に転生してきたら、やっぱりスキルてんこ盛りになるのか?』
『やったことはないけど、恐らく答えはNOよ。それにしたって貴方はちょっと異常だわ。』
『まぁ色々やってきたからなぁ…。とりえあずスキルのことは納得…はしきれてないけど、理解はした。』
『そういうものとしてなんとか納得しなさい。』
『はーい…。あれ?スキルのことはわかったけど…じゃあ魔法は?』
『魔法はまた別物。…ま、それはまた別の機会にね。』
『えー。今教えてくれないのか?』
『今はダーメ。…ゴホン!…今はまだその”時”ではない。案ずるな…”時”はいずれ、必ず訪れる…。』
『そんな急に神様感出されても。』
『どう?どう?神っぽかった?』
『そこそこ。』
『ヒュー♪』
駄目だこいつ。
…まぁなんだかんだ、少しだけ心が軽くなった。なんか俺だけ女神様の恩寵受けてるみたいで心苦しかったからなぁ。
…それにスキルはともかく、戦闘に関してはスライムすら2発斬らないと倒せない男ですし…。うっ…。




