21話 似非女神と本当の女神様
「ここです。コースケさん、今日からこのお部屋を使ってくださいね。」
フィゼさんに案内されたそこは、元より客室ではなく従業員用のスペースなのであろう。
その証拠に、宿場の奥まった位置に存在していた。
「はい。それでは失礼して…。」
コンコン。と、一応ノックをしてみる。当然反応は返ってこないので、遠慮なく扉を開ける。
ガチャリ…
開いた扉の先は、こじんまりとした一室。テレビも置いてなければ、エアコンも付いてない。
しかしそれは、この部屋が安いボロ部屋だから…というわけではない。ここは、異世界なのだ。
魔物や魔法なんかを目の当たりにした時はあまりに現実離れし過ぎていて実感が湧かなかったが、
この部屋を見て生々しくそれを実感することができた。
…いや、違うな。魔物や魔法だって、今の俺にとっては紛れもない”現実”の一部なんだ。
「夕食ですが、7時半には用意できますので。それまではゆっくり過ごしてくださいね。」
「なにからなにまでありがとうございます。」
7時半…おっ、時計は置いてあるな…2時間後ぐらいか。流石に疲れたし、少し仮眠でも取ろうかな。
「それでは、なにかありましたら遠慮なくおっしゃってください。私かベティスさんが先ほどのフロントの方にいますから。」
「はい。…と言っても、疲れたのでちょっと仮眠してると思います。」
「わかりました。夕食の時間になったらまたお呼びしますね。」
「ありがとうございます。」
フィゼさんが退出して静まり返った部屋の中で一人、今日これまでの出来事を振り返る。
不意の事故…いや、女神エリザの過失による事故で死んだ俺は…そうだよなぁ。俺、一度死んだんだよなぁ…。
そして異世界転生。チートはやめれくれって言ったのに、蓋を開けてみればレアスキル祭り…。
改めて考えてみると、マジで意味わかんないわ。でもこれが現実…なんだよな?
寝て起きたらいつも通りの月島幸助がそこにいるなんて、そんなオチだったり…
いや駄目だ…眠すぎる…とりあえずおやすみ、なさい…
…
……
………
…………さん
ん?
…スケさん。
助さん?…格さん?
「コースケさん、起きてください。」
「…ん、お、おぉ…?」
「ふふ、目が覚めましたか?御夕飯、準備できてますよ。」
目を開けると、そこには女神が立っていた。件のフッ軽女神ではない。本当の女神だ。
…いや、厳密に言えば女神はあっちなんだけど、俺にとってはこっちが本当の女神様だね。
「女神様…。」
「え!?も、もう!なに寝ぼけてるんですか!目が覚めたのならついてきてください!」
「ふぁい…。」
その後、俺は従業員用のスペースに用意された食事をフィゼさんとベティスさんと一緒に取った。
実際結構寝ぼけていたが、ベティスさんの顔を見たら一瞬で目が覚めた。ありがとうベティスさん。
「「「ごちそうさまでした。」」」
「それではコースケさん、お先にお風呂をどうぞ。」
「え?いやいや、フィゼさんこそお先にどうぞ。」
「いえ。私はちょっと仕事が残っていますので、後でいただきますね。」
「そうなんですか?ベティスさんは…。」
「俺は飯の前に済ませちまったよ。だから遠慮すんな。」
「そういうことなら、わかりました。」
「じゃ、俺は部屋に戻るぜ。」
「はい。早いですが、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。ベティスさん。」
「おう。あんまり夜更かしすんなよ!宿場の朝は早いぜ。」
…うーん。そうは言っても、さっき仮眠取っちゃったしなぁ。…となると、だ。
「フィゼさん、よかったらお風呂の後…。」
「…え?で、でも…コースケさん、お疲れなのでは…?」
「いえいえ、さっき仮眠も取ったし、元気が有り余ってるんです。」
「そ、それでは…お願い…しますね。」
「はい!俺の部屋で待ってますね!」
…へへへ、よいこのみんな。夜はこれからってこった。




