18話 甘くて美味しいスライム君
「ここがうちの炊事場だ。」
宿場の外から再び中へと連れ戻された俺は、炊事場…つまり厨房に案内された。
ほーん、様式こそ日本風ではないけど、あんまり前世と変わらない感じの厨房だな。ガスも普通に通ってるみたいだ。
まぁ料理の度に魔法で火をつけまーすってのは効率的じゃないのか。アウトドアでは重宝しそうだけど。
「さて…まずは俺が見本を見せる。そしたら次はお前さんの番だ。」
ベティスさんは戸棚から調味料やらなんやらを取り出し机に並べ、
そして冷蔵庫から本日のメイン食材と思われる”何か”を取り出すと、まな板の上にドサッと置いた。
「うぉ!?え…ス、スライム??」
「あぁ、こいつは”ヒールスライム”だ。」
「ヒールスライム…?」
緑色だからグリーンスライムだと思ったが、違うらしい。…そういえばさっき外で見た奴よりも色が薄い。
どっちかっていうと黄緑色だな。…って、まさか…。
「こ、これひょっとして…食べるんですか?」
「そりゃそうだろ。」
で、ですよねー!?まぁ魔物だって動物なんだ。そりゃ食べられるなら食べることもあるだろう。
いやー、でもなーんか抵抗あるんですけど…。
「ちぃと勿体ないが、こいつじゃねぇと詳しいところがわからねぇからな。」
「???」
言っている意味がわからずポカンとしている俺を尻目に、ベティスさんがテキパキとスライムを調理していく。
あぁ…スライム君よ…。
「おう、スライムゼリーのいっちょあがりだ。」
「お、おー?」
「わぁー!このゼリー、美味しいんですよ!」
いっちょあがりと言われても…見た目はほとんどスライムそのままだ。
小さなお皿に盛られた三人前のスライムゼリーが並べられた。あ、ベティスさんとフィゼさんも食べるのね。
よかった、俺一人だとちょっと食う勇気出なかったわ。
ピコーン
ん?なにやらウインドウが現れたぞ。
「【スライムゼリーを【レシピ】に登録しますか?】…レシピ?」
「あん?なんだよ、【オートレシピ】持ちか。」
「【オートレシピ】?」
「だからよぉ…なんでいちいち本人が知らねぇんだよ。」
「えーとですね、本来調理スキルは一度作った料理を【レシピ】に登録して、次回から使えるスキルなんです。」
「ほうほう。」
「【オートレシピ】は、実際に作らなくても見たり聞いたりして工程を知るだけで、
自動的に【レシピ】に登録ができる便利なスキルなんです。」
「はえー。」
「レシピっつーのは料理以外にも存在している。【木工】や【縫製】や【ポーション調合】なんかを持ってれば、
それぞれに対応したレシピが追加されていく。」
えーと…【木工】…ある。【縫製】…これもある。【ポーション調合】…な、ない!持ってないぞ!!
「いやーさすがに【ポーション調合】は持ってないですね!」
「あたりめぇだろ!んなもん持ってるのは名の知れた名医か、城のお抱え医師ぐらいのもんだ!」
「で、ですよねー…?」
そうなんだ…。うっかり持ってなくてよかったよ。
「というかお前さんのその口ぶりだと、【木工】も【縫製】も持ってるみてぇだな。」
「あっ…そうなります?」
「はぁ…もう驚かねぇよ。とりあえずこのゼリー、食ってみろ。」
あっぶね。なんとかスルーしてもらえたみたいだ。
「は、はい。いただきます。」
「私もいただきます!」
もぐ…もぐ…。おっ、食感ちょっとコリコリしてて、ナタデココみたいだな。
普通に甘くて美味いわ、これ。…元がスライムだっていう先入観さえなければ、もっと。
「体になんか違和感あるか?」
「え!?これ食っていいやつなんですよね!?…特にないですけど…。」
「それでいい。よし、じゃあ次はお前の番だ。」
えぇ、よくないよ…なんなの…。…まぁ気を取り直して【素材調理】、いっちょやってみますか。
えー材料を用意して、前に立つ。するとウインドウが…出た出た、これか。
【レシピからスライムゼリーを調理しますか?素材・食材・いいえ】
「あのー、なんか『素材』か『食材』か選べって出てくるんですけど。」
「…『素材』を選べ。」
「あ、はい。」
『素材』…っと。
並べられた材料がペカーッとスキルお約束(?)の光を放ち、徐々に収束していく。そして目の前に現れたのは…
「おっ。これ、さっきのゼリーだ。」
「おぉー!」
すっげー!調理スキルっていうのは、料理が一瞬で出来上がるスキルってことか。
料理番組の「そして完成したものがこちらになります。」みたいだな。
「そっちも食ってみろ。」
「え、わ、わかりました。」
まさかのゼリーおかわり…まぁ食えるけど。…うん、二度目となると流石に慣れてきて普通に普通のゼリーとして食える。
「今度はどうだ?」
「どうだって言われましても…あれ?なんか疲れが取れて、体が軽いような…。」
「一口もらうぞ。」
きゃっ関節キッス。…おっさんと(元)おっさんの。
「…間違いねぇな。こいつは確かに【素材調理】だ…レアスキルのな。」
「えっ。」
で、出たー!本日二度目のレアなスキルのやつー!!!
…もうほんと女神ちゃんさぁ…君、ドロンしてる場合じゃないよ?




