16話 宿屋DE修羅場
「大体ベティスさんはいつもいつも……」
「はい…はい…おっしゃる通りで……」
宿屋の主ベティスさんは、フィゼさんによる絶賛お説教タイム中だ。
…これ、しばらくかかるな。
『そういやエリザ、軍資金のことなんだけどさ。』
『はいはい。…まったく、いくら欲しいの?このいやしんぼさん。』
『なんだァ…?じゃなくて、あれ、やっぱいいわ。』
『はぁ?貴方一文無しでしょ?大丈夫なの?』
『うーん、最悪数日はどっか町のその辺で野宿するとして、意外となんとかなりそうなんだよなぁ。
…女神様のスキルのおかげで、な。』
『…なんかちょっと引っかかる言い方ね。ま、貴方がそれでいいならいいけど。』
『まぁ俺もいい歳した大人…だったからな、前世では。なるたけ自分の力でやってみるわ。』
『殊勝な考えねぇ。金なんていくらあっても困るもんじゃないでしょうに。』
『言い方よ。』
まぁ、せっかく転生したのに女神様のヒモってのもねぇ…なんかシャクだし。
それにここまでの感じ、これだけスキルがあればこの世界では働き口に困りそうもないからな。
働いて、稼いで、暮らす。それができるならそうしたい。
『…それじゃあ私、そろそろドロンするわ。』
『ドロンて…。まぁ腐っても神様だもんな。俺の相手ばっかりしてるわけにもいかないか。』
『腐ってもって部分は誠に遺憾だけど…まぁそんな感じね。』
『いろいろありがとうな、エリザ。異世界での新生活、楽しくなりそうだわ。』
『それはよかったわ。ま、時々は様子を見に来るから安心しなさい。』
『サンキュー。』
『…さーて、それじゃあ早速一狩り行きますかぁ!今作も私のガンランスが火を噴くわよー!』
…一狩り?なんだ?魔物…いや、”今作”って、これ絶対ゲームだわ。やっぱこいつ腐ってるわ。
『今日は徹夜よー!!』
こいつさぁ…まぁいいか。…エリザ、本当にありがとうな。
異世界…怖いところもあるが、こんなにワクワクしたのは生まれてはじめてかもしれない。
俺はこの世界で、どう生きていくんだろう。
「……今日はこれぐらいにしておきます。」
「はい…本当にすみませんでした…。」
おっ、どうやらこっちも終わったみたいだな。…ベティスさん、すっかり小さくなってしまって…ご愁傷様です。
「はっ!コ、コースケさん…大変お恥ずかしいところをお見せしてしまって…。」
「…すまなかったな、変に絡んじまって。」
「いえいえ。…大切にされてるんですね、フィゼさん。」
「は、はい…。ちょっと過保護すぎるところがあって困りますけど…。」
「…んんっ!さて…コースケ、な。お前さん、働ける場所を探してるんだって?」
「はい。フィゼさんからこの宿場でも働き手を募集してるって聞いたんですけども。」
「あぁ。うちもご多分に漏れず人手不足でな。なんとか回しちゃいるが、ここで働きたいってんならありがてぇ話だ。」
「と言っても、俺でお役に立てるかはわからないんですが…。えーと、ここだとどういう仕事があるんですか?」
「今はどこもかしかも人手が足りてなくてなぁ。うちはいろいろやってるもんで、特になんだ。
炊事場、洗濯場…掃除にしたって手が回らねぇ日もある。商売だから帳簿もつけなきゃなんねぇ。」
「ほ、本当に人手不足なんですね…。」
「それに買い出しもだ。今回みたいにフィゼを行かすこともあるが…そういやお前、馬車の操縦ができるって言ってたか?」
「あ、はい。【騎乗】スキルのおかげで、できるみたいです。」
「みたいってなんだよ、他人事みたいに。にしても、【騎乗】持ちかい。それなら買い出しも頼みてぇところだな。
…っつっても今日済ませたばかりだから、しばらくは困らねぇんだが。」
「なるほど。」
「と、なると急場は炊事洗濯掃除ってとこだわな。まぁ宿場の基本的な仕事だ。…どうだ、できそうか?」
「一応どれも経験はあります。…なにか持ってると役に立つスキルってありますか?」
「そうさなぁ…炊事なら【食材調理】、掃除なら【クリンネス】ってとこか。
あとは【ウォッシュ】だ。こいつがあればどこでも使えるな。」
「ほうほう。」
「他にも使えるスキルはあるが、とりあえずそのあたりを持ってたら即戦力ってやつだな。
当然、そんなもん持ってなくても構わねぇ。持ってりゃ御の字ってだけで、贅沢は言わねぇさ。」
とはいえ、この口ぶりからして流石に【アイテム鑑定】みたいな希少スキルってわけではなさそうだな。
それではここで本日3度目…あれ、4度目だっけ?まぁいいや。
【スキルオープン】
えーと、【食材調理】…【クリンネス】…【ウォッシュ】…おっ、あるある。
これは就職先ゲット間違いなしですわ!フィゼさんと同じ職場で働ける…こいつは非常に助かります。
「そんじゃ聞くが、今挙げた3つのスキルの内、お前さんどれか持ってるかい?」
「はい!持ってます!」
「おぉ!?そいつは助かる。で、どれを持ってるんだ?」
「全部持ってます!」
「…はァ?」
「あっ」
「へ??」
「……」
「……」
「……???」
気まずい沈黙が流れる。
三者三様、怪訝な顔のベティスさんと、苦笑いといった感じのフィゼさんと、なにが起こっているのかわからない俺。
「えーと…?」
「全部ってお前、ふざけてんのか?」
「え!?そんな、ふざけてないです…あ!!」
「あァ?今度はどうしたよ。」
「すみません。持ってるの、【素材調理】【クレンリネス】【スピードウォッシュ】でした…。これだと違うスキルですよね?」
「あっあっ」
「…お前、ちょっと着いてこい。」
「え!?!?」
「…あちゃー…。」
フィ、フィゼさん…俺一体、どうなっちゃうんですか…?
…エリザァ!カムバーック!!




