12話 はいはいリンパリンパ
「へへ、お客さん…随分と凝ってますねぇ…。」
「お、おう?…あーそこそこ、いいねぇ…。」
「おっ、お客さん…ここ、リンパが溜まっちゃってますよぉ…?」
「リンパァ?っつーかおめぇ、さっきからなんだその気持ちのワリぃ喋り方は。」
「あ、すいません。つい。」
俺は鍛冶屋の奥、ドレルさん宅のベッドの上で、マッサージを始めていた。
いかんいかん。久方ぶりのマッサージに、つい気分が乗ってしまったぜ。
「コースケさん、それがマッサージのスキルなんですか?」
そうフィゼさんが尋ねてくる。フィゼさんも俺のスキルを見学したいというのでついてきたのだ。
パツキン…ラッセルさんも来ようとしていたが、ドレルさんに「おめぇはしっかり店番してろ!」と一喝されていた。
…まぁ彼の場合は見学したいというより、お目当てはフィゼさんだろうな。
「いえ、これはただのマッサージですね。スキルの前に痛めている部分を見定めておこうと思いまして。」
「なるほど。」
「ちっと体が楽になってきたな。兄ちゃん、中々うまいじゃねぇか。」
「ありがとうございます。」
腰、結構やっちゃってんなぁこれ。背中もバキバキだし、膝も…まぁこれぐらいの年齢なら痛めてておかしくないか。
腕のあたりは…さすが職人さんだな、多少の疲労はあれど鍛え上げられててそこまでのダメージは無さそうだな。
さて、このままゴキゴキッと整体していってもいいんだが…折角だ、ここはスキルの出番だろう。
「やっぱり腰を中心に背中、それと膝にもかなりダメージが蓄積してそうですね。」
「座り仕事だったり中腰になったりすることが多いからなぁ…。で、なんとかなりそうかい?」
「任せてください。」
といっても、はじめて使うスキルだからどれほどの効果があるのかはぶっちゃけわからないんだけど…。
えーとなになに?患部に手を当てて…
【リラクゼーション】
ぽうっと手を当てているところを中心に、じんわりとした温かさを持った淡い光が広がり、ゆっくりと消えていく。
「…お?お?おぉ!?」
「どうです?効いてます?」
「効いてるなんてもんじゃねぇ!さっきまでビリビリと痛かった腰が、まるでなんの痛みも感じねぇ!」
「わぁ!す、凄いです!」
おー、凄い効果だな。【リラクゼーション】
「よかった。他の箇所にもやっていきますね。」
「おう!よろしく頼む!」
ダメージが蓄積している部分を次々と【リラクゼーション】で治療していく。
その度にドレルさんと、それを見ているフィゼさんが感嘆の声を上げている。なんか楽しいなこれ。
「おうおう、すっかり体が絶好調だぜ!いやー兄ちゃんありがとな!」
「いえいえ、お役に立ててなによりです。」
「よし、これでまたバリバリ仕事ができるってもんだぜ!」
「ちょっと、ドレルさん?あまり無理はしないでくださいね?」
「わかってるって嬢ちゃん、ガハハハハ!!」
…本当にわかってる?
「短いスパンで同じ箇所にスキルを使うと効果が薄れてしまうみたいなので、ほんとに無理はしないようお願いしますよ…?」
「おう!!それより兄ちゃんになんかお礼しないとな。」
「いや、お礼だなんてそんな。」
「それじゃ俺の気が済まねぇ!受けた恩はきっちりと返さねぇとな。」
うーん、そうは言ってもなぁ。
「おうそうだ!店のモン見て行ってくれよ。好きなのどれでも一つ、持って行っていいぞ!」
「へ?」
「ちょうどいいじゃないですか、コースケさん。いくらこの辺りに強い魔物がいないと言っても、
武器一つ持っていないのは流石に…。」
「おいおい兄ちゃん、それは本当か!?嬢ちゃんの言う通りだぜ。よく今まで無事だったな。」
「や、やっぱそういうもんですか…?でも本当にいいんですか?」
「男に二言はねーよ。店のモンなんでも一つ持ってきな。」
武器って結構高価なんじゃ?スキル使用とはいえマッサージしただけなのに…いいのかなぁ。
「…あの、コースケさん。今度私にもさっきの…お願いしてもいいですか…?」
「え!?も、もちろん俺は構いませんけど…。」
「やったぁ!」
こ、こっちもいいのかなぁ……いやぁ、すまんねラッセル君!!