11話 職人さんの解釈不一致と解釈一致
フィゼさんの話では、次なる目的地は鍛冶屋ということだ。
鍛冶屋か…前世ではあまり馴染みのない場所だよなぁ。
「鍛冶屋というと、農具とか包丁とかを作ってるんですか?」
「もちろんそういう鍛冶屋もありますが、今向かっている鍛冶屋は武器の扱いが主ですね」
「なるほど。武器ですか」
武器、か。ますますもって馴染みがないな。
しかし、こっちの世界では武器もある種の”生活必需品”なのだろう。
俺も一生町に籠ってるわけにもいかないし、なにかしら調達しておくべきなんだろうなぁ。
「着きましたよ、コースケさん。ここです」
道具屋と酒場は町の中心に近い位置に存在していたが、鍛冶屋はそこから少し離れた場所に建っていた。
飾りっ気のない、煤ぼけた建物。突き出た煙突からはモクモクと黒煙が立ち上っている。
時折、「カーン」という金属音が耳を震わせる。
中ではきっと、老練の職人が黙々と鉄を打ち付けているんだろう。
ガララ…
「こんにちはー」
扉を開けると、ムワッとした熱気が襲ってくる。
負けじと建物の中に入ると、狭い室内に漂う煤煙が目と喉を攻める。
これは…長居はご遠慮願いたいな。フィゼさんも若干辛そうだ。
「フィゼちゃん!フィゼちゃんじゃないか、よく来たね!」
鉄を叩いていた人物が、持っていた槌をほっぽり出して立ち上がる。
ガチャンと音を立て転がる槌。
商売道具を雑に扱う不届き物は、金髪のなんともチャラそうな兄ちゃんだった。
これが職人さん…?うーん、解釈不一致です。
「ケホッ…こんにちは、ラッセルさん。頼まれていた物を届けに来ました。
ドレルさんのお加減はいかがですか?」
「ありがとうございます!親方はまだ休養中ですね。
…ところで、隣のそいつは誰ですか?」
初対面で「そいつ」呼ばわりかい…。
さてはこいつ、フィゼさんにほの字ってやつだな。わかりやすい男だ。
「どうもはじめまして。コースケといいます」
「ふーん。…アンタ、フィゼちゃんとはどういう関係なんだ?」
「ちょっとラッセルさん、いきなり失礼ですよ。
コースケさんとは先ほど町の外でお会いしたばかりです」
「なんだ、そうなのか。ちなみに俺とフィゼちゃんは、もう10年近くの付き合いだぜ?」
「は、はぁ…」
なんかマウント取ってくるんですけど。中学生かよ。
見たところフィゼさんより年上っぽいけど。
持ってきた荷物の運搬は終わったが、ラッセル君はまだフィゼさんに絡み続けている。
俺はボウボウと燃え盛る炉を眺めながら、「早く解放してくれ」とか考えていた。
ぶっちゃけラッセル君がどうとかより、この環境がきついのだ。
ーーとその時、奥の扉がピシャリと大きな音を立て、勢いよく開かれた。
「おい、ラッセル!なーに騒いでやがる!…って、嬢ちゃんじゃないか。来てたのかい」
店の奥から怒声とともに、別の職人さんがズカズカと現れた。
太い腕に、焼けた肌。白髪混じりの頭にタオルを巻いた、如何にも頑固そうな親父さんだ。
そうそう、そうこなくっちゃ。解釈一致です。
「こんにちは、ドレルさん。お体の調子はどうですか?」
「いやー、まだ腰やらなんやらが痛くってな。まったく、歳は取りたくねぇな」
「親方。ここはいいから、奥で休んでてくださいよ」
「あぁ?おめぇがギャーギャーうるせぇから、様子を見に来たんだろうが!」
「す、すいません…」
「お騒がせしてすみません」
「いや、こっちこそすまねぇな、うちの若いのが。
…ん?兄ちゃん、ここらじゃ見ねぇ顔だな」
「申し遅れました。俺、コースケといいます。今日からこの町でお世話になります」
「ふーん、そうかい。ま、よろしくな」
いいね、サッパリとしてて。こういうところも職人さんって感じだ。
「イタタ…ったく、急に立ち上がったもんだから腰にキやがった」
「だ、大丈夫ですか?」
「だから言ったじゃないっすか。もー」
「うるせぇ!そもそもおめぇのせいだって…アイタタタ!!」
あらら。この人、だいぶ体を痛めてるみたいだな。
マッサージや整体の経験もあるし、良ければ少し施術してあげようかな。
…と、もしかしてそれ関係のスキルってのもあったりするのか?
【スキルオープン】
えーと、サーチサーチ…【整体】駄目だ、ヒットしないな。【マッサージ】…これもないか。
仕方ない。面倒だけど、それっぽい名前のスキルを目で見つけるしかないか。
ーーおっ?この【リラクゼーション】ってのは、どうだろう。
スキル名をタッチしてみる。すると、エリザから聞いていた通り、スキルの説明文が表示された。
ビンゴ!こいつは使えそうだ。
「ドレルさん、奥で休まれた方が…」
「あのー、ここってベッドとかあったりしますか?」
「あぁ?この奥が俺の家だから、ベッドならそこにあるがよ」
「? あ、もしかしてコースケさん」
「はい。俺、今のドレルさんにピッタリなスキルを持ってるんです。
是非施術させ…ックション!ックション!」
「おいおい、おめぇさんの方こそ大丈夫かよ」
「鼻紙使いますか…?」
「ありがとうございます…ックション!!」
いかん、煤にやられてクシャミが止まらなくなってきた。
施術もだけど、とにかく早くこの空間から移動したいです…。




